【第41回 2013.04.23】

静岡大学農学部が取り組む農業ビジネス起業人育成

投稿者:糠谷 明(昭和48年農学部園芸学科卒/大学院農学研究科長)

日本農業は、食糧自給率の向上、耕作放棄地の解消、地域農業の活性化、新規就農者増加、国際化などに向けて積極的な対応が迫られているが、静岡大学農学部はこの課題解決の緒(いとぐち)を探るため、平成20年度から22年度に経済産業省関東経済産業局委託事業を受け、産学人材育成パートナーシップ事業「農業ビジネス経営体育成のための教育体制・プログラムの構築・検証 "静岡農業ビジネス起業人育成講座"」を3年間開講した。この講座では、静岡大学の農学部、工学部、人文学部のみならず、本分野に係る静岡県内外の大学、静岡県経済産業部、食品・流通・農業資材・機械企業等が一次、二次、三次の産業の壁を越え有機的な連携を基盤とした教育を行い、今後起業を目指そうという企業人、農業人、新規参入者に対して農業ビジネスに対応できる人材育成を目指した。この講座運営で構築されたノウハウを基盤として、平成23年度から静岡大学大学院農学研究科修士課程共生バイオサイエンス専攻内に、農業ビジネス起業人育成コース(定員5名)を開設した。修士課程農業ビジネス起業人育成コースでは、平成24年度に学生4名が修了し、現在M1生2名、M2生5名が在籍している。ちなみに本コースには社会人入学制度は設けられていないが、学生が企業に在職したまま在籍できるようにカリキュラムを工夫している。

静岡農業ビジネス起業人育成講座

"育成講座"の教育プログラムは、経営管理技術、先端生産管理技術、栽培基礎技術の3つの柱で構成される座学で基礎力を高め、実習及び演習(静岡大学農学部附属地域フィールド内の先端的養液栽培システムを備えた温室における栽培、栽培生理および施設管理実習、販売・流通・加工に関する企業実習やビジネスプランニングを考える農業ビジネス総合演習)により実践力を高めた。講師は、静岡大学農学部のみならず工学部、人文学部、創造科学技術大学院、静岡県経済産業部農林業局および農林技術研究所、県下農業ビジネス経営体経営者や先進的農業生産者などが勤め、座学だけでなく、実践的な経営や6次産業化に向けた基礎知識を学べるように工夫した。

修士課程に設置した育成コースでは、これらの講義を体系化し、経営管理技術特論、農産物流通・マーケティング論、栽培技術特論、植物環境調節学特論、先端生産管理技術特論など12本の講義と農業ビジネス総合演習、ビジネスプランニング演習など5本の 演習を開設した。

静大トマト

さて、それではなぜ平成20年にこのような"育成講座"を始めるようになったかというと、私の専門であるトマトの養液栽培(Dトレイという250mlの極少量培地を用いた栽培)により、静岡大学農学部附属地域フィールドセンター内に、トマトを栽培しその技術ノウハウを指導する大学発ベンチャー企業を立ち上げようとしていたために、逆にそれを農商工連携に活用して、教育ができないかとの意見が出され、ベンチャー企業計画が農業ビジネス起業人育成プログラムに"進化"したものである。なお、大学内起業計画も順調に進行し、平成21年10月に㈱静岡アグリビジネス研究所が設立され、順調に経営がなされている。24年度末には、静岡大学から生産物に「静大」の標章を使用することが許可された。

さて、"農業"というと、とかく理屈は二の次で、経験と勘で栽培するものという風潮があるが、今後の農業をより魅力的にし、生産性を上げるためには、栽培を科学的に捉える体制が必要である。まさしく農業はサイエンスである。光合成というのは、二酸化炭素と水から光エネルギーを使って酸素と炭水化物を生産するものであり、温度、光、二酸化炭素濃度が高くなれば、限界があるにせよ光合成量は増加することは中学生でも知っている。農業とはまさしく光合成をどれだけ作物に効率よく行わせるかという仕事である。ならば、ここは科学者が大いに活躍する場所であり、「経験と勘」で苦労して農業をするより、サイエンスでデータをもとに生産性を上げることに励むべきである。となれば、ここは大学が最も貢献できる分野ではないだろうか。

まとまらない話になってしまったが、農業ビジネス起業人育成コース、㈱静岡アグリビジネス研究所を通して、農業が楽しく儲かる産業となって若い人の就農希望者が増え、ひいては日本農業が活性化することを望むものである。


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