FM.Hi ゆうラジ!Radio魂内「静大スタイル」に 人文社会科学部 横濱 竜也(よこはま たつや)教授が出演しました

2018/11/28
ニュース

 FM Hi「ゆうラジ!Radio魂(76.9MH)」内の「静大スタイル」のコーナーは、本学の公認サークル団体「CUE-FM放送研究会」が司会を務め、毎週木曜日夕方5時23分から5時53分まで放送している番組です。この番組は、私たちが学ぶ静岡大学の先生をより身近に!をコンセプトに教員に隔月で出演いただいています。
 今回のゲストは、人文社会科学部 横濱 竜也(よこはま たつや)教授で、11月15日(木)に生出演いただきました。

 横濱先生の専門は、「法哲学」。大阪府生まれ東京都出身です。今回は、先生の研究内容から学生時代の話など、日頃大学では、聞くことのない内容についてもお話しいただきました。

【1.先生の専攻は何ですか。】
 私の専攻は法哲学です。文字どおり、法について哲学的に議論する分野です。
 少し詳しくいうと、法が何のためにあるか、目的を明らかにすることと、現実にある法がその目的に適っていないときどうなるかを考えることが、法哲学のしていることです。
 法の目的は、一言でいえば正義です。社会に正義を実現するために、法があります。ただ、正義とは何かについてはいろいろな考え方があり、人類史上争われてきていて、いまだに決着はついていません。しかも、現在私たちのあいだでも対立があり、政治問題にもなっています。
 たとえば、平等とは何かについて考えてみても、そのことがわかるでしょう。お金持ちと貧乏人とのあいだの格差が、どこまで正義に反するでしょうか。みんなが最低賃金で働ける機会が与えられていれば、十分でしょうか。お給料や福利厚生が、不自由ない生活を送るために不足なく与えられることも必要でしょうか。親の所得水準で子どもの教育水準がかなり変わってくることは問題でしょうか。みんながそれなりに生活に困らない所得を得ているとして、そのなかで性別や出自などで待遇が違うのは許されるでしょうか。税金による所得再分配はどこまで行われるべきでしょうか。累進課税はいまのままでよいでしょうか。消費税を10%に上げることに賛成すべきでしょうか、反対すべきでしょうか。
 これらの論点については、まさに政治的な争いがあって、それは正義をめぐる争いでもあります。法哲学がしていることの1つは、争いあっている正義のさまざまな立場に対して、どこまで哲学的な裏付けを与えられるかを考えることです。

 ただ、現実に存在している法が、正義に適わないことは少なくありません。法と呼ばれていても正義に反するものといわれているルールといえば、ナチスドイツのユダヤ人差別の法律や、南アフリカで行われていたアパルトヘイトなどが有名です。ただそこまで邪悪なものでなくて、正義のさまざまな立場が争われるなか、正しいか不正か、人によって見解が分かれる法は、もっと日常的に存在します。先ほどした所得再分配の話でいえば、高福祉高負担の北欧のような国が正しいと考える人は、いまの日本の税制や社会保障のあり方を「不正」だというかもしれません。他の例でいえば、裁判員制度を考えてみてもよいでしょう。国民に裁判に参加する機会を与える点で、司法にも民主主義を貫徹させるもので、正しいという人もいれば、国民に無理矢理審理や評議、判決に加わることを強制するもので不正だという人もいる。では、税制や裁判員制度が不正だと思っている人が、自分の信念を貫きそれらに従わないということが認められるべきでしょうか。
 こういう問題のことを、悪法問題といいます。「悪法もまた法か、法だとして従うべきか」を考えるためには、正義とは何かとは別に、法とは何かを考えなくてはなりません。そういう研究を法概念論といいますが、法概念論も法哲学の仕事です。

【2.具体的な研究の内容を教えてください。】
 私は大学院に入って以来、悪法問題を研究テーマにしてきました。ただ、今はそこから進んで、移民正義論という領域を扱っています。移民正義論は「移民を受入れるべきか、どのように受入れるべきか」という問いに答えるものです。

 この問いは、とくに先進諸国ではホットな問題です。現在開会中の臨時国会で、最大の焦点の一つが、「外国人材」の受入れを認めるべきかどうかです(ちなみに、政府は「外国人材」の受入れといっており、「移民」受入れとはいいません)。日本は少子化の問題もあって、近年、また今後も労働力不足に直面する分野があります。建設、介護、造船などですが、その労働力不足に少しでも対処するために、主にアジア諸国から人材を受入れていこうというのが、政府の方針です。
 しかし、政府の動きに懸念を抱いている人は少なくはないでしょう。これまでも外国人労働者の受入れはありましたが、今回の法案(出入国管理及び難民認定法改正)が通ると、日本に働きにきて生活する外国人の数は、これまでに比べてぐっと増える可能性があります。さらに永住することになる外国人の数も今よりは増えることでしょう。それでほんとうにいいのでしょうか。

 移民正義論でも、先進国の移民受入れの是非は争われています。皆さんが貧しい途上国で暮らしていて、その日の生活にも困っていたとしましょう。先進国に出稼ぎに行き、自分の生活をまかない、さらに家族へ仕送りをすることで、状況を打開したいと思うのは、まったく当然のことではないでしょうか。いやそもそも、人間がどこに移動するか、どこでどういう生活を送るかは、自由であるべきではないでしょうか。そう考えると、先進国が移民を厳しく規制するのは、途上国の人々の移動の自由やライフスタイルの自由を奪うもので、不正だということになります。
 しかし、一方で、先進国の厳しい移民規制が認められるべきだという立場を支持している人もたくさんいます。移民は、出稼ぎのあいだ一時的にではあれ、同じ社会で生活することになる。誰を同じ社会のメンバーとして認めるかは、受入れる側の自由であって然るべきではないか。とくに国家については、国籍や定住資格などで、メンバーとしての資格を制限してよい。なぜなら、価値観の違う国民同士が共存できるのは、同じ国民としてのアイデンティティがあるからだ。アイデンティティを守るためには移民を制限してよいはずではないか。こう考えると、移民規制を是とすることになります。

 ただ、今回の「外国人材」受入れについては、別の懸念もあります。これまでも、外国人については、職種が限られることや雇用が安定しないこと、子どもの教育にさまざまなハードルがあること、低所得などの事情で住む場所が制限されること、などが指摘されてきています。そういうところで、さらに外国人の受入れを増やすと、状況はより厳しいものになるのではないか。同じようなことは、先進諸国でもっと顕著な形で起こっていて、移民と受入国民とのあいだの分断が深刻な状態です。
 移民と受入国民の分断を招かないようにするためには、いまいる外国人の雇用や教育、居住環境に対して、受入国がより積極的にサポートする必要があるでしょう。しかし、そのサポートの負担を、どこまで受入国の人々が負うべきなのでしょうか。そしてサポートできる移民の数には限界があるということはないでしょうか。
 私がいま研究しているのは、このような問題です。

【3.先生の研究が達成されると、どんなことがわかりますか?】
 これまでお話ししたように、移民をどう受入れるべきかは、いまとても重要で深刻な問題で、この問いへの答えは、国の政策を左右します。
 また、静岡県の市町には、外国人が多く住んでいる地域があります。言葉の違いや生活習慣の違い、経済格差などから、苦しい環境に置かれる外国人は少なくはありません。すでに、行政や国際交流協会やNGOなどによるサポートが積み重ねられてきています。しかし、少子高齢化のなかで、今後外国人の受入れが増えていくということになると、外国人への支援の中身や支援体制について、見直していかなくてはならないでしょう。移民正義論は、その指針を提供するものです。

【4.大学ではどんな授業を開講されていますか?】
 静岡大学では、法哲学と法学入門を担当しています。
 法哲学の授業についていうと、「正義とは何か」という問い、そしてそれと密接に関わる「自由とは何か」「平等とは何か」という問いについて、具体的な事例を取り上げながら考えています。
 たとえば、授業で使用している『問いかける法哲学』(瀧川裕英編、法律文化社、2016年)にある事例ですが、「ドーピングは是か非か」という問いも、自由の問題に関わります。ドーピングが是のはずがないと思うかもしれませんが、なぜそういえるのかじっくり考えてみるとなかなか簡単ではありません。
 他の選手がドーピングしていないのに、自分だけドーピングするのは不公平だ、という答え方もありえますが、不公平というなら、先進国の選手がきわめて恵まれた環境で練習しているのに、途上国の選手にはその機会がない、というのも不公平かもしれないし、生まれつき身体能力の高い選手とそうでない選手との差も、不公平といえるかもしれない。
 ドーピングは不自然だし、ドーピングしている選手ばかり出ている競技なんて、観ていても面白くない、と思う人は多いかもしれませんが、スポーツ選手の練習や競技は、考えようによっては、身体にかなり無理を強いる不自然なものともいえるかもしれません。
 そのようにして、比較的身近な事例を手がかりにして、当たり前だと思っている正しさや良さの判断根拠を問い直してみることで、正義について考えていく、というのが、私の授業の一つの目標です。
 そういう目標があるので、授業では学生の皆さんでグループディスカッションを行ってもらう機会を、できるだけ多くもうけています。

【5.先生はどんな学生でしたか?学生時代に打ち込んでいたことなどありますか?】
 学生時代は、合唱団に所属していました。歌うことが好きということもありましたが、サークルの友人と部室でだべるのがとても楽しくて、大学に通っているというよりは、部室に通っているという時期もありました。
 友人とのおしゃべりは、サークルのことだけでなく、恋愛話もありましたし、哲学や思想の話もありました。私が哲学に触れるきっかけの一つは、友人とのおしゃべりでしたし、私の指導教員(井上達夫東京大学教授)と出会ったきっかけも、友人との哲学話でした。 

【6.静大にはどんな学生に来てもらいたいですか?】
 一言でいえば、自分から外に出て行くタイプの学生が多くなるといいなあと思っています。
 静大の学生は、真面目で勉強熱心な優等生タイプが多いのかなと思います。それはとてもいいことですし、私も授業をしていて張り合いがあります。
 ただ、若干ですが、内にこもりがちというか、おとなしい傾向があるようにも思います(大学が中心部から離れているのがいけないという部分もとても大きいと思いますが)。
 7年半前から静岡で暮らすようになって感じることですが、静岡は地方都市としてとても恵まれているところだと思います。街も人も活力があるし、面白いことを探せばいろいろ転がっていて、そういう面白さを共有できる人のつながりも得られる。日本酒も魚もおいしい。東京や名古屋など大都市ともそれほど離れていない。その環境を活かさない手はないのではないかと。

【7. 最後に1曲、リクエストしてください!】
アーティスト名:Steppenwolf
曲名:Born To Be Wild

▲研究について語る横濱先生

▲研究について語る横濱先生

▲収録の様子

▲収録の様子

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