プログラミング教育を探る : 遠山 紗矢香 TOHYAMA Sayaka(認知科学)

認知科学による情報教育の実践研究

2023年3月取材

Chapter 01

学習者一人ひとりの思考過程を量的・質的分析

「人はいかに物事を理解し、賢くなってゆくのか」を明らかにするための実践研究を行っています。私の実践研究は、先行研究の理論を用いて効果的だと考えられる実践場面(授業など)を設計し、実践の成果を理論に照らして評価することで、効果的な実践を再現可能にするための原則を抽出することを目的としています。

学習者が何を考え、どこで躓き、どのような方略を立てていたのか等を遡って検討可能とするために、テスト結果だけでなく発話やメモなどの学習過程データも記録し、量的・質的分析の両方の手法を用いて分析します。

Chapter 02

小学生から大学生までプログラミング初学者を幅広く研究

研究の対象領域は、プログラミングをはじめとする情報教育です。近年ではすべての普通科高校でプログラミングが必履修となるなど、情報に関する学習の重みは増しています。私の研究室では、小学生から大学生までを幅広く対象として、プログラミング初学者がどのような誤概念を持つのか、その誤概念はどのような知識や経験と関連しているのか、協調学習はどのように効果的かなどを調べています。

プログラミング学習の支援方法として、2名以上で話し合う学習環境を提供することで「建設的相互作用」の発現確率を高め、理解を進化させることの効果についても、併せて検討を進めています。

Chapter 03

近隣学校などと連携しながら、研究と実践の互恵関係の構築を目指す

質的研究では、学習者一人ひとりの思考過程を深掘りすることがあります。その際、「なぜこの学習者はこのような誤答に至ったのか」を説明するための手がかりがつかめたときの喜びは何物にも代えがたいです。誤答は避けたいものかもしれませんが、誰かの誤答が、今後の授業をより良くするための貴重なヒントになることはたくさんあります。

また、実践研究という性質上、私の研究では「人が学習するための現場」を設計しないことには始まりません。このため、大学の授業はもちろん、近隣学校などとも連携させていただきながら、研究と実践の互恵関係を構築すべく努力しています。学校間の様々な違いから気付きを得ることもたくさんあります。

近年では、技術的発展のおかげで多様な学習過程を詳細に記録可能になってきました。発話の多寡や姿勢の良し悪しといった数えやすく評価しやすい特徴が注目されがちですが、それらが人の理解深化を表す特徴なのかについては慎重な検討が必要です。今後は学習過程データの取り扱いに関する議論にも貢献していきたいです。

[プロフィール写真]講師 遠山 紗矢香 TOHYAMA Sayaka

講師遠山 紗矢香 TOHYAMA Sayaka(認知科学)

1983年2月生まれ、2013年中京大学大学院博士課程満期退学、2014年同博士(認知科学)、2009年静岡大学技術部技術職員、2014年静岡大学教育学部特任助教、2018年静岡大学情報学部助教、2021年同講師
2022年より第5期若手重点研究者

主な研究業績

受賞歴:
  • 日本認知科学会 奨励論文賞(2018年)
  • 日本認知科学会第32回大会発表賞(2015年)
  • SSS2013最優秀論文賞 ほか
外部資金獲得状況:
  • 科学研究費補助金若手研究「理解深化を志向した協調学習とプログラミングの統合枠組みの提案」(2020年~2024年)
  • 公益財団法人カシオ科学振興財団「ポストGIGAスクールを支える、ICTを用いた学習者中心の教育方法の開発」(2020年~2021年)ほか
委員等:
  • 文部科学省 高等学校情報教員指導力向上事業 アドバイザー (2022年〜)
  • 文部科学省 学校DX戦略アドバイザー(2022年〜)
  • 静岡県教育委員会 ふじのくに学校教育情報化推進計画策定委員会 副委員長(2021年~2022年)ほか
学会等:
  • 情報処理学会情報教育シンポジウム(SSS2023)プログラム委員長(2023年)
  • 日本認知科学会第39回大会 プログラム委員(2022年)
  • WRO JAPAN 決勝大会in浜松 実行委員(2021年~2022年)
  • World Conference on Computers in Education (WCCE2022) 運営委員(2020年~2022年)ほか
国内外の学会誌編集等:
  • 情報処理学会論文誌 教育とコンピュータ 編集委員(2022年~)
  • 教育システム情報学会 学会誌編集委員(2021年〜)ほか
著書・論文:
  • 「プログラミング教育の動向-目的・教育体制・課題に注目して-」/教育システム情報学会誌/40(3)/pp.192-202/2023
  • “Developing Gender-Neutral Programming Materials: A Case Study of Children in Lower Grades of Primary School”/Towards a Collaborative Society Through Creative Learning (IFIP AICT 685)/Springer/2023
  • 「グローバル化,デジタル化で教育,社会は変わる 第2章 プログラミング教育を認知科学から⾒る」/東信堂/2021
  • “Constructive Interaction on Collaborative Programming: Case Study for Grade 6 Students Group”/Tomorrow’s Learning: Involving Everyone – Learning with and about Technologies and Computing (IFIP AICT 515)/ Springer/2018
  • 「協調的問題解決能⼒をいかに評価するか-協調問題解決過程の対話データを⽤いた横断分析-」/認知科学/24(4)/pp.494-517/2017 ほか

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