タイミング学習における身体部位特異性 -速球と遅球の効果的な打ち分けを可能にする脳の仕組み-

2024/05/02
プレスリリース

近年、私たちの脳は、ベイズ推定を行っていることが明らかになってきました。
つまり、脳は、課題標的の統計分布を学習し、最も成功確率の高くなる応答を計算しています。
日常の課題標的 (例:投球/打球の速度やコース) に多様な統計分布が存在し、それらを学び分ける必要があります。

本学情報学部の宮崎真研究室(筆頭著者:松村圭貴・2022年3月情報学専攻修了)は、英国・ノッティンガム大学とブラッドフォード大学との共同研究により、タイミング課題中のベイズ推定における「身体部位特異性」を明らかにしました。

すなわち、2つの標的タイミング(≈ 速球/遅球)の分布に対して、それぞれに異なる身体部位を用いて応答することにより、それらの分布を学び分けることが可能になることを発見しました。
さらに、人差し指/中指のように近接した身体部位よりも、手/足のように遠隔の身体部位を2つの事前分布に対応づけると、より早く2つの分布の学び分けが可能となることを明らかにしました。

この「身体部位特異性」に基づけば、たとえば “速球に対しては足、遅球に対しては手” といったように、球種に応じて異なる身体部位でタイミングを刻めば、各球種に適したタイミングの学び分けが可能となることも予想されます。
このように、本成果は、スポーツ技能の向上法の提案やスポーツ選手の優れた技能の秘訣を解析するための基盤知見となることが期待されます。

この成果は、ネイチャー・パートナー・ジャーナル (npj) の学習科学専門誌、npj Science of Learningに2024年5月2日に刊行され、以下のサイトで無料で公開されています。
https://www.nature.com/articles/s41539-024-00241-x

【ポイント】

・脳は、課題標的の統計分布を学習し、最も成功確率の高くなる応答を計算している

・従来の研究の多くでは、単一の分布のみを参加者に経験させて、その学習の状態を調べてきた

・しかし、日常の課題では、標的に多様な統計分布が存在する (例:投球/打球の速度やコース)

・本研究は、タイミング課題で、短時分布 (速球)、長時分布 (遅球) に対して、異なる身体部位を用いて応答すると、それら2つの事前分布を学び分けることが可能になること (身体部位特異性) を明らかにした

・さらに、人差し指/中指のように近接した身体部位よりも、手/足のように遠隔の身体部位を2つの事前分布に対応づけると、より早く2つの分布の学び分けが可能となった

・本成果は、スポーツ技能の向上法の提案やスポーツ選手の優れた技能の秘訣を解析するための基盤知見となることが期待される

実験方法 (a) 1試行の刺激と応答の流れ.TS:刺激時間間隔,TR:応答時間間隔.(b) 刺激時間間隔の分布:短時分布 (速球),長時分布 (遅球).(c) 刺激位置 (右/左) と刺激時間間隔の分布 (短時/長時) の割当て.ここでは,右側の刺激に短時分布,左側の刺激に長時分布を割り当てた場合を例示.

実験方法
(a) 1試行の刺激と応答の流れ.TS:刺激時間間隔,TR:応答時間間隔.(b) 刺激時間間隔の分布:短時分布 (速球),長時分布 (遅球).(c) 刺激位置 (右/左) と刺激時間間隔の分布 (短時/長時) の割当て.ここでは,右側の刺激に短時分布,左側の刺激に長時分布を割り当てた場合を例示.

【論文情報】

掲載誌:npj Science of Learning

出版元:Nature Publishing Group(英国)

論文タイトル:Body-part specificity for learning of multiple prior distributions in human coincidence timing

著者:
・松村 圭貴(静岡大学 大学院総合科学技術研究科情報学専攻, 2022年3月修了)
・Neil W. Roach( ノッティンガム大学, 英国)
・James Heron(ブラッドフォード大学, 英国)
・宮崎 真(静岡大学 学術院情報学領域)

論文URL:https://www.nature.com/articles/s41539-024-00241-x

問い合わせ先:

静岡大学情報学部情報科学科
宮崎 真
TEL:053-478-1450
E-mail:brain[at]inf.shizuoka.ac.jp
※[at]を@に変更してご利用ください。

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