10次元空間における膜が量子重力において特別な存在であることを解明 -量子重力における超弦理論の新たな示唆-
静岡大学理学部の 森田 健 准教授 は、10次元空間における膜が量子重力において特別な存在であることを解明しました。
【研究のポイント】
・粒子、 弦、 膜などの様々な物体の間に働く重力の性質を様々な空間次元で比較したところ、 10次元空間における膜だけが「スケール不変性」と「(非自己双対型)電磁双対性」と呼ばれる2つの性質を同時に満たせることを解明しました。
・「スケール不変性」と「電磁双対性」は量子論における重要な性質で、 今回の発見は10次元空間における膜が、 非常に特別な物体であることを指摘するものです。
・量子重力の最有力候補である超弦理論の背後にも、 「M理論」と呼ばれる10次元空間の膜の理論が存在すると考えられています。 そのため本研究は、 超弦理論の重要性をさらに強めるものです。
現代物理学の最大の課題が重力を量子論的に記述する「量子重力理論」の解明です。
これまでの研究により点状の「粒子」を基本構成要素とする量子重力理論は、 実現が困難なことが知られていました。
そこで「弦」を基本構成要素とする弦理論が考案され、 空間次元が9次元または25次元の場合のみ矛盾のない量子重力を実現できることが解明されました。
これらの理論はそれぞれ「超弦理論」(9次元空間)と「ボソン型弦理論」(25次元空間)と呼ばれています。
しかし、 「粒子」や「弦」以外の物体を基本構成要素とした量子重力に関しては理解が進んでいませんでした。
そこで今回の研究では「粒子」や「弦」だけでなく「膜」などの様々な物体の間に働く重力の性質を様々な空間次元で調べました。
そして10次元空間における「膜」のみが「スケール不変性」と「(非自己双対型)電磁双対性」と呼ばれる量子論で重要な2つの性質を両立できることを解明しました。
これは10次元空間の膜が量子重力において特別な存在であることを示唆するものです。
実は「9次元空間の超弦理論が10次元空間の膜から構成される」というM理論と呼ばれる予想があります。
そのため今回の研究結果は、 M理論の重要性を高め、 超弦理論が量子重力理論において、 特別な理論であることを改めて強調するものです。
本研究成果は、2024年8月に、日本物理学会の発行する国際雑誌「Progress of Theoretical and Experimental Physics」に掲載されました。
【研究者コメント】
静岡大学理学部准教授・森田 健(もりた たけし)
私たちの宇宙を記述する量子重力を解明するのは、物理学における大きな目標の1つです。
今回の研究を通して、その目標に一歩近づくことが出来たのではと期待しています。
【今後の展望と波及効果】
今回の研究により、 10次元空間の膜が特別な存在であることが改めてわかりました。
これによりM理論や超弦理論の重要性がさらに増したと考えることが出来ます。
特に今回の研究では「スケール不変性」と「電磁双対性」という性質が重要な役割を果たしました。
これらの性質は、 量子重力を理解する上で重要な鍵となっているのかもしれません。
このような研究をさらにすすめることにより、 宇宙の起源など、この世界のより深遠な側面の解明につながるかもしれません。
【論文情報】
掲載誌名:Progress of Theoretical and Experimental Physics, Volume 2024, Issue 8, August 2024, 083B05
論文タイトル:Constraining Spacetime Dimensions in Quantum Gravity by Scale Invariance and Electric–Magnetic Duality
著者:森田 健
DOI:https://doi.org/10.1093/ptep/ptae112
【研究助成】
本研究は、科学研究費補助金(20K03946)の支援を受けて実施されました。
【用語説明】
一般相対性理論:
万有引力や天体の運動を記述する重力理論。20世紀初頭にアルベルト・アインシュタインによって提唱された。
量子力学:
電子やクオークなど、 ミクロな粒子の性質を記述する理論。
量子重力:
一般相対性理論と量子力学は、 そのままの形では両立しないと考えられている。 そのためそれらに代わる量子重力理論が存在すると予想されている。 しかし、私たちの宇宙を記述する量子重力がどのような理論かは未解明で、 物理学における最大の問題の1つである。
超弦理論:
9次元空間における弦を基本構成要素とする量子重力の最有力候補。その背後にはM理論と呼ばれる10次元の膜の理論が存在すると考えられている。
関連リンク
問い合わせ先:
(研究に関すること)
静岡大学理学部
准教授 森田 健(もりた たけし)
TEL : 054-238-3454
E-mail : morita.takeshi[at]shizuoka.ac.jp
(報道に関すること)
静岡大学 広報・基金課
TEL : 054-238-5179
E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp
※[at]を@に変更してご利用ください。