金属ハライドペロブスカイト物質の新たな光学特性を解明 次世代太陽電池・発光デバイス開発に向けた画期的な知見

2024/12/17
プレスリリース

【本研究の要点】

・金属ハライドペロブスカイト材料は近年注目される一方で、光との相互作用の基礎となる励起子特性の理解が不十分。
・高品質なCsPbBr₃単結晶を用いて、励起子のLT分裂エネルギー、励起子分子の束縛エネルギー、励起子ポラリトンの群速度分散を解明。
・励起子特性の解明を通じて、励起子を利用した光学デバイス開発の技術基盤として貢献。

【研究の概要】

静岡大学工学部の 下迫 直樹 助教、上智大学理工学部の 江馬 一弘 教授、欅田 英之 准教授、東京大学先端科学技術研究センターの 近藤 高志 教授、五月女 真人 助教らの研究グループは、金属ハライドペロブスカイト(MHP)材料のCsPbBr3単結晶を用いて、励起子と光の相互作用の大きさ(LT分裂エネルギー)、励起子が2個結合した励起子分子、励起子と光の結合状態の特性について詳細な実験を行い、これらの特性を明らかにしました。
本研究成果は、2024年11月1日に米国物理学協会のJournal of Chemical Physics(Volume 161, Issue 17)にオンライン掲載され、その号のEditor’s Pickに選出されました。


【論文名および著者】

媒体名:The Journal of Chemical Physics
論文名:Exciton dynamics in CsPbBr3 single crystal: LT splitting energy, exciton–polariton dispersion, and biexciton binding energy
論文掲載日:2024年11月1日
オンライン版URL:https://doi.org/10.1063/5.0232604
著者(共著):Naoki Shimosako, Mizuki Kumamoto, Yui Muroga, Zihao Liu, Masato Sotome, Takashi Kondo, Hideyuki Kunugita, Kazuhiro Ema


【研究の背景】

MHPは、太陽電池や発光デバイス、放射線検出器、非線形光学など幅広い分野で注目を集める材料です。その理由は、優れた光学的特性にありますが、それらを支える基礎物性、特に励起子※1の特性については十分に理解されていませんでした。励起子は光と物質の相互作用における重要な役割を果たす準粒子であり、その束縛エネルギーや励起子と光の相互作用の大きさを示すLT分裂エネルギーは、光学デバイス設計における重要な基礎情報となります。これまでの研究では、2次元のMHPの励起子に関する研究は多くあるものの、3次元のMHPでは、励起子のパラメータの測定にばらつきがあり、正確な特性評価が課題とされてきました。

本研究では、3次元MHPの一つであるCsPbBr3の高品質な単結晶を用い、極低温下で光学測定し、詳細な解析を行いました。反射スペクトルの分析により、LT分裂エネルギーが約7 meVであることを明らかにしました。また、高励起条件下での発光および時間分解発光測定により、励起子分子※2による2種類の発光(縦波励起子および横波励起子への遷移)と励起子-励起子散乱※3による発光を観測しました(図1)。これらの発光エネルギーの位置から、励起子分子の束縛エネルギー、励起子の束縛エネルギーを見積もることに成功しました。さらに、白色パルス光を用いた時間分解透過測定により励起子ポラリトン※4の群速度分散を測定しました。その結果、この分散がローレンツモデルを用いた計算と一致することが確認され、CsPbBr3における励起子のダイナミクスがこの単純なモデルで記述可能であることが明らかになりました。励起子分子に関しては、さらに詳細な測定を行わないと断定はできませんが、左図のような明瞭な励起子分子からの発光を観測できたこと、および右図のように励起子ポラリトンの試料裏面からの反射が観測されたことは、非常に高品質な単結晶が得られたことによります。

図1 高励起条件下での (左)発光スペクトル、(右)時間分解発光イメージ。 励起子、2種類の励起子分子、励起子-励起子散乱の発光を観測。

図1
高励起条件下での (左)発光スペクトル、(右)時間分解発光イメージ。 励起子、2種類の励起子分子、励起子-励起子散乱の発光を観測。

【今後の展望】

本研究は、CsPbBr₃の励起子の振る舞いに関する理解を深めるとともに、励起子を活用した先端的な光学デバイスの発展に貢献します。
また、本研究で明らかにされたパラメータは、高効率な太陽電池や発光デバイスなど、幅広い応用分野における技術基盤として寄与することが期待されます。


【助成情報】

本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(24K01387)、池谷科学技術振興財団、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next)の助成(JPMJAN23B2)を受けて実施したものです。


【用語】

※1 励起子
 物質の中で発生する電子と正孔が結合した準粒子であり、光と物質の相互作用で重要な役割を果たす。
※2 励起子分子
 2つの励起子が結びついて形成される状態。
※3 励起子-励起子散乱
 励起子が互いに近づくと、反発が起き、この現象を励起子-励起子散乱と呼ぶ。
※4 励起子ポラリトン
 光と励起子が強く結合して生まれる、光と物質が融合したような準粒子の状態。

お問い合わせ先:

【本リリース記載の研究内容に関するお問い合わせ先】
上智大学 理工学部 機能創造理工学科
教授 江馬 一弘
E-mail:k-ema[at]sophia.ac.jp

【報道関係のお問合せ先】
・静岡大学広報・基金課|E-mail:koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp
・上智学院広報グループ|E-mail:sophiapr-co[at]sophia.ac.jp
・東京大学先端科学技術研究センター 広報広聴・情報支援室|press[at]rcast.u-tokyo.ac.jp

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