広帯域のテラヘルツ光で光のダイオード効果を観測 次世代高速無線通信用デバイスの開発につながる機構を解明
【発表のポイント】
● テラヘルツ光(注1)の一方向透過性(光ダイオード効果)を広い吸収帯を持つ特殊なマグノン(注2)励起において観測しました。
● 50テスラ(注3)、3テラヘルツという極限的な磁場と周波数領域での電子スピン共鳴(注4)測定と、「自発的マグノン崩壊」に基づく理論により、電気磁気効果(注5)(交差相関効果)による光の電場と磁場の干渉機構を明らかにしました。
● 本研究はテラヘルツ領域の光通信に利用できる光アイソレータや光スイッチ実現への扉を開く重要な成果です。
【概要】
磁性と誘電性が強く相関したマルチフェロイック物質では、電気磁気効果に起因する新奇な物性が報告されています。
その一つが電流を一方向にだけ流して逆流を防ぐ半導体部品のダイオードに似た、光の「一方向透過性」です。
この性質を持つ物質は、光の吸収がなく透明に見える状態から光の進行方向を180°反転すると光の吸収が起こり透明でなくなります。
東北大学金属材料研究所の赤木暢助教、静岡大学理学部の松本正茂教授、大阪大学大学院理学研究科の鳴海康雄准教授と萩原政幸教授、神戸大学分子フォトサイエンス研究センターの大久保晋准教授と太田仁名誉教授(当時、教授)からなる共同研究グループは、光の一方向透過性を、将来の高速無線通信への利用が進められているテラヘルツ光において観測しました。
観測された吸収エネルギーが1テラヘルツ以上の広帯域であることも、利用の幅が広くなるため応用上重要な特徴となっています。
さらに、詳細な理論計算により「一方向透過性」と「広帯域にわたる吸収エネルギー」を示す特異な吸収の起源が「自発的マグノン崩壊」であることも明らかにしました。
光励起現象としての自発的マグノン崩壊の観測は世界初の成果です。
テラヘルツ光は超高速無線通信への利用が期待されており、この成果は光デバイス開発へ向けた材料探索の大きな指針につながります。
本成果は、2025年2月26日 14:00(米国東部時間)に科学誌Science Advancesに掲載されました。
【用語説明】
注1.テラヘルツ光
0.1から10テラヘルツ程度の周波数を持つ電磁波。
通信に使用されるミリ波・マイクロ波と遠赤外線の間という、電波と光の境目に位置しており、近年実用利用が進められています。
特に、6Gなど高速無線通信への利用から注目されています。
注2.マグノン
磁性体における磁気の波を量子化した結果現れる疑似粒子(準粒子)。
マグノンエネルギーに対応するテラヘルツ光の照射により、光を吸収し励起されます。
光の振動磁場成分に揺らされる磁気(スピン)が広がったものとイメージすることができます。
注3.テスラ
磁束密度の単位であり、磁場の強さを表します。
市販の強い磁石(ネオジム磁石)の強さが約0.5テスラ。
本研究では、パルス強磁場コイルを用い、50テスラまで実験を行いました。
注4.電子スピン共鳴
物質中の電子スピンが電磁波(光)を吸収して励起する現象。
物性を担う電子スピンを直接観察できる数少ない実験法です。
物理分野だけでなく、化学、工学、医学、薬学など幅広い利用が進められています。
Electron Spin Resonanceの英語名からESRと呼ばれています。
通常の電子スピン共鳴測定は、1テスラ・0.01テラヘルツ程度の領域で行われますが、本研究では、特殊な実験環境を作り上げ、50テスラ・3テラヘルツという極限的な測定を行い、成果を得ました。
注5.電気磁気効果
磁性と誘電性の交差相関効果。
通常は、磁性を磁場で・誘電性を電場で制御しますが、これに対し、磁性を電場で・誘電性を磁場で制御することを電気磁気効果と言います。
通常の制御に比べ、制御する物性と外場の関係が交差している形になっているため、交差相関効果と呼ばれています。
【論文情報】
タイトル:Terahertz broadband one-way transparency with spontaneous magnon decay
著者:Mitsuru Akaki*, Masashige Matsumoto, Yasuo Narumi, Susumu Okubo, Hitoshi Ohta, Masayuki Hagiwara
*責任著者:東北大学金属材料研究所 助教 赤木暢
掲載誌名:Science Advances
DOI:10.1126/sciadv.ado6783
関連リンク
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