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ニュース【プレスリリース】エンジンの音と振動を利用しVR酔いを低減 -VRバイクシミュレータを用いた心理学的実験により実証-

2020.05.12

 静岡大学情報学部の板口典弘助教宮崎真研究室とヤマハ発動機株式会社の木村哲也・三木将行の研究グループは、エンジン音と振動を同期させて呈示することによって、オートバイのシミュレータに起因する映像酔いの重症度を半分以下に低減できることを発見しました。これまで、オートバイなどの一人称視点シミュレータを大画面で運転すると、高頻度で酔いが発生してしまうことが知られていました。この酔いは、オートバイ技能を安全かつ効率的に評価したり、向上させたりすることを妨げる大きな要因となっていました。エンジン音と振動を同期させることによって映像酔いを低減する今回の成果は、ゲームなども含め、一人称視点でのシミュレータ体験に伴う映像酔いの問題を解決する技術の実装に直接的につながる大きな成果です。今後急速に普及していくと考えられるVRシステムを用いた遠隔操作や遠隔コミュニケーションの発展にも寄与することも期待されます。さらに本発見は、映像酔いの発生メカニズム解明にも大きく寄与する可能性があります。
 本研究成果は、英国のNature Publishing Groupの発行するオンライン科学ジャーナル「Scientific Reports」に2020年5月12日付(日本時間午後6時)に掲載されます。


【ポイント】
・これまで、大画面一人称映像によって発生する酔いに対して、簡易で有効な低減手法はなかった
・従来研究では、音と振動それぞれについて、映像酔いに対する低減効果が調べられてきたが、どの研究でも効果がないとされて
 きた
・本研究では、エンジン音と振動の大きさとタイミングを同期させた呈示によって、酔いを大幅に低減できることを世界で始めて
 実証・映像酔い発生には、連動した感覚情報の欠落が大きく寄与することを示唆
・オートバイシミュレータによる酔いの低減にとどまらず、幅広い社会応用が期待される


図1.実験風景(A),参加者に呈示した映像(B)と,各条件における酔いの程度(FMS)の平均値の時間経過(C)
図中のエラーバーは標準偏差,小さいプロットは各参加者のFMSスコアを示す。



【研究背景】
 これまで、大画面ディスプレイやヘッドマウントディスプレイを用いて一人称視点での動きの大きな映像を体験すると、酔いが発生してしまうことが知られていました。特に、オートバイのシミュレータは自動車よりも映像の傾きが大きくなるため酔いが発生しやすい問題点がありました。また、近年はVRゲームも普及しはじめており、映像によって引き起こされる酔いの低減技術の開発は社会的にも大きな課題とされています。
 海外の先行研究には、環境音や乗り物の振動を映像に追加することによって、映像酔いが軽減されるかどうかを検討しているものもあります。しかしながら、それらの研究では、音や振動は酔いを軽減することはありませんでした。ただし、先行研究で使用された音や振動は、映像の変化(例えば、移動による景色の流れ)と直接連動するものではなかったり、一定のノイズであったりしました。これに対して著者らは、参加者が得る刺激において、本来連動している情報が欠落することによって酔いが発生すると考えました。このアイデアに基づき、本研究ではエンジン音とエンジンの駆動に伴う振動を走行風景と同時に呈示することで酔いの程度が減少することを仮説とし、独自のVRバイクシミュレータを用いた心理学実験によりこれを検討しました。


【研究の方法と成果】
実験では、実験室内でスクーターに乗った状態でヘッドマウントディスプレイ(Oculus Rift)を装着した参加者に対して(図1A)、オートバイに乗った映像(図1B)を複数の実験条件下で呈示しました。実験条件は、①音あり・振動あり、②音あり・振動なし、③音なし・振動あり、④音なし・振動なしの計4条件でした。スクーターは実際には動きませんでしたが、エンジン音、あるいはエンジンの振動は映像内でのオートバイの移動速度に連動したものを使用しました。エンジンの振動は座面から呈示されました。
 参加者は5分間の映像を見ている最中、主観的な酔いの程度を20段階で1分ごとに答えました(FMS)。実験の結果、音あり・振動あり条件の参加者の酔いの程度が、他の条件よりも有意に低いことがわかりました(図1C)。ここで重要な点は、映像に合わせたエンジン音と振動を両方経験した場合にのみ酔いの軽減効果が見られ、どちらか片方でも欠けた場合には、映像のみを呈示した条件と同様の酔いが発生してしまったことです。この結果は、普段特にカップリングされる可能性の高い刺激(音と振動)を、シミュレーション環境でも同様に再現することが、酔いの防止に繋がることを示唆します。


【今後の展開】
 本研究では、比較的安価で簡易な方法を用いて映像酔いを大幅に軽減できる可能性を実験的に示しました。この知見は、オートバイシミュレータやVRゲームなどにおける一人称視点での映像酔いの問題を解決する技術開発を促進する大きな成果です。また、次世代で求められるVRシステムを用いた遠隔操作や遠隔コミュニケーションの普及にも寄与することも期待されます。さらに本研究は、シミュレータ等における映像酔いは、本来は強く連動した感覚情報の一部が欠落することで発生することを示唆します。本研究で得られた成果は、酔いを低減するという社会的な意義に加えて、ヒトの脳内において感覚がどのように処理されているのかを解明する大きな手がかりになりえます。


【論文情報】
掲載誌:
Scientific Reports
論文タイトル:
Effects of synchronised engine sound and vibration presentation on visually induced motion sickness
著者:
Yuki Sawada, Yoshihiro Itaguchi, Masami Hayashi, Kosuke Aigo, Takuya Miyagi, Masayuki Miki, Tetsuya Kimura, Makoto Miyazaki (澤田悠伎・板口典弘・林真光・相合皓介・宮城拓弥・三木将行・木村哲也・宮崎真)
DOI:
10.1038/s41598-020-64302-y


【研究に関する問い合わせ】
〒432-8011 浜松市中区城北3丁目5-1 静岡大学情報学部情報科学科
itaguchi-y[at]inf.shizuoka.ac.jp ※[at]を@に変更して下さい
053-478-1459
板口典弘



▲静岡新聞(2020年5月13日付朝刊23面)、中日新聞(2020年5月13日付朝刊26面)にて紹介されました

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