画像検査や映像撮影を効率化・高機能化する ピントが異なる複数の画像を同時に撮影できる技術を開発

2020/08/07
プレスリリース

 群馬大学の奥寛雅教授らの研究グループと静岡大学の川人祥二教授らの研究グループは、ピントが異なる複数の画像を同時に撮影できる技術を開発しました。この技術はSimulfocus Imagingと名付けられ、工場などのFA分野において、異なる種類の部品が流れてくる場所での画像検査の効率化や、部品の高速な三次元計測、また、映像機器分野において、カメラのオートフォーカスに代わる新しいピント調節方法の実現、さらに医療・バイオ分野において顕微鏡下対象への高速なピント調節や高速な三次元計測、を可能にします。




1.本件のポイント

● 異なるピントの画像を同時に撮影できる技術(Simulfocus Imaging)を開発

● オートフォーカスの待ち時間がないため高速で、機械的な駆動部がないため長寿命化が期待

● 工場等における画像検査や医療・バイオ機器の高速化・効率化、映像機器の高機能化


2.本件の概要
 通常のカメラはどこか一か所にピントを合わせた画像しか撮影できません。もし複数の異なるピントの画像を撮影したければ、まず撮影したい一つ目の位置にピントを合わせてそこの画像を撮影し、その後にピントを2つ目の位置に変更して、そこでまた画像を撮影する、という手順を撮影したいピント位置の数だけ繰り返す必要があります。しかし、例えば走る子供のように動いている対象を撮影したい場合、ピントを変更している間に対象が動いてしまうため、同じ構図でピントを変えた画像を得ることはできません。また、例えば工場における画像検査で、複数の高さの異なる部品などがベルトコンベヤーで流れてくる場合には、それぞれの部品の高さに合わせてカメラのピントを変更する必要があります。従来は、複数のピントが異なるカメラを用意するか、カメラにオートフォーカスの機能を付与する必要がありましたが、前者の場合は必要なカメラ台数が増える、後者の場合はオートフォーカスの反応を待つ必要があるため製品を流す速度が制限されてしまう、オートフォーカスを実現する機械の寿命が短い、といった問題がありました。

これに対し、今回開発した撮影技術では、
1.一秒間に約70、000回、ピント位置を振動させられる高速な液体レンズ、と
2.4つの画像格納領域をもち、それぞれについてナノ秒(1ナノ秒は1/1、000、000、000秒)の精度で独立して多重露光(注1)ができる撮像素子(注2)
を組み合わせることで、1台のカメラで実質的に同時に4箇所の異なる場所にピントが合っている画像を撮影できます。このため、オートフォーカスの待ち時間がなく高速で、機械的なフォーカス調節機構がないため長寿命化も期待できます。

本技術は、
● 工場などのFA分野において、多品種を扱う生産ラインでの画像検査の効率化や、部品の高速な三次元計測、
● 映像機器分野において、従来のオートフォーカスに代わるピント調節手法による高機能化
● 医療・バイオ分野において顕微鏡下対象への高速なピント調節や高速な三次元計測
を可能にします。

本研究成果は、2020年8月17日よりオンラインで開催される、ACM(アメリカコンピュータ学会)が主催する世界最大のCGや映像技術の国際会議であるSIGGRAPH 2020中のEmerging Technologiesにおいて発表予定です。

(注1)多重露光:
一枚の画像を撮影する間に複数回シャッターを開けて光を取り込む動作のことで、取り込む光を増やして画像の明るさを増すことができます。
(注2)撮像素子:
カメラの中で映像を取り込んで電気信号に変換する半導体素子のこと。


3. 開発した技術の原理
 撮影は、高速に振動するピントの位置が撮影したい場所にきた時に、100ナノ秒程度の非常に短い時間だけシャッターを開けることで行います。これを、画像を格納する領域ごとに異なるピントの場所で行うことで、異なるピントの画像を実質的に同時に計測します。また、一回シャッターを開けるだけでは時間が短すぎて画像が非常に暗くなってしまうため、ピントが同じ場所に来た時に約700回シャッターを開けて(多重露光)、実用的な明るさの画像の計測を実現しました。

 また、この撮影は光学的に行われるため、画像は直接取得され、計算機による合成処理などは必要ありません。複数のピントの画像を同時に計測できる類似の技術として、ホログラフィーやライトフィールドと呼ばれる技術も存在しますが、これらの技術では計測した情報から特定のピントの画像を計算機上のソフトウェアで合成する必要があります。それに対し、今回開発した撮影技術はそれぞれの画像を光学的に直接撮影しているためカメラ単体で画像を得ることができ、工場などでの利用により適しています。




【本件に関するお問合せ先】

(研究全体について)
群馬大学 大学院理工学府
教授 奥 寛雅
研究室HP https://okulab.wixsite.com/okulab

(撮像素子について)
静岡大学 電子工学研究所
教授 川人 祥二
研究室HP http://idl.rie.shizuoka.ac.jp/

※全て[at]を@に変更してご利用ください

JP / EN