国立大学法人 静岡大学

白色腐朽菌がネオニコチノイド系殺虫剤を分解し、 本分解反応をシトクロムP450が効率的に触媒することを解明

2020/08/31
プレスリリース

 静岡大学農学部の平井浩文教授らのグループは、キノコの仲間である白色腐朽菌が、ミツバチの大量失踪・大量死や人類に対しても悪影響を及ぼしているネオニコチノイド系殺虫剤を分解・無毒化できることを証明し、また、本分解反応に2種類の酵素シトクロムP450が関与し、さらに本シトクロムP450がネオニコチノイド系殺虫剤の分解を効率的に触媒することを解明しました。

 本研究成果により、世界で幅広く使用されているネオニコチノイド系殺虫剤により汚染された環境の浄化・無毒化に白色腐朽菌の利用が期待でき、分解の仕組みを解明したことにより、様々な環境汚染問題への応用が期待されます。

 なお、本研究成果は、オランダのElsevier社の科学雑誌「Journal of Hazardous Materials」に掲載されます。

【1.研究概要】
 本研究では、白色腐朽菌Phanerochaete chrysosporium によりネオニコチノイド系殺虫剤(NEOs)が分解されるかどうか検討を行い、分解に関与するシトクロムP450(CYP)の同定を試みた。P. chrysosporium はNEOs であるアセタミプリド(ACE)、クロチアニジン(CLO)、イミダクロプリド(IMI)、チアクロプリド(THI)を分解可能であり、P. chrysosporium 由来CYP の酵母異種発現機能スクリーニングシステムにより、2 種類のCYP が分解に関与していることが判明した。これらCYP は、NEOs のN-脱アルキル反応を触媒し、分解産物として6-chloro-3-pyridinemethanol(Fig. 1)及びその側鎖を与えることが判明した。


【2.研究成果】
 ネオニコチノイド系殺虫剤(NEOs)は世界で広く使用されている殺虫剤の一種であり、1990 年代に有機リン系殺虫剤の代替として開発された比較的新しい殺虫剤である。これはニコチン性アセチルコリン受容体のアゴニストであり、昆虫の中枢神経系を攪乱することによって選択的な生物学的毒性を発揮することが知られている。NEOs には、ACE、CLO、ジノテフラン(DIN)、IMI、ニテンピラム(NIT)、THI 及びチアメトキサム(TMX)の7 種類がある(Fig. 2)。世界の殺虫剤の総販売量に基づくと、2014 年のNEOs の市場シェアは25%を超え、その約85%をTMX、IMI、CLO が占めていた。NEOs の用途は幅広く、世
界の120 か国で140 種以上の作物に対する殺虫剤として登録されており、日本でも1990 年代に発売されて以降、NEOs の出荷量は増加している。

 しかしながらNEOs にはいくつかの問題点が挙げられている。例えば土壌中での長い半減期やミツバチに対する有害な影響などが挙げられている。とくにミツバチの大量死・大量失踪は蜂群崩壊症候群と呼ばれ、NEOs によってミツバチが方向感覚・帰巣本能が麻痺し、NEOs とミツバチの大量死が関連していると報告された。2013 年にはNEOs の3 種(CLO、IMI、TMX)がEU 全域で暫定使用禁止措置が行われており、2018 年にはこれら3 種の屋外での使用禁止が決定した。さらに最近の研究では、水生無脊椎動物やヒトに対する影響が明らかになっている。このような問題点から、NEOs 汚染環境の浄化・無毒化技術の開発は喫緊の課題である。

 白色腐朽菌は木材の主要成分の一つである難分解性天然高分子リグニンを分解する独特な能力を持ち、農薬や多環式芳香族炭化水素など様々な環境汚染物質も分解可能であることが知られている。そこで本研究では、P. chrysosporiumによるNEOsの分解、さらにその分解機構の解明を目的に検討を行った。

 まず6 種類のNEOsのP. chrysosporiumによる分解を試みたところ、DIN及びNIT以外のNEOsの分解が観察された(Fig. 3)。ACE は培養後期から分解が観察され、培養4週間で27.5%の分解が認められた。CLOもACEと同じ傾向であり、培養4週間で28%の分解が認められた。IMI は培養初期から分解が認められ、培養4週間で100%分解された。THI の分解はIMIよりは遅いものの、ACE やCLO よりは速く分解された。

 P. chrysosporiumによるNEOsの分解においてCYPが関与しているかどうか検討すべく、CYP 阻害剤である1-aminobenzotriazole(1-ABT)のNEOs分解に与える影響について検討した(Fig. 4)。その結果、濃度依存的に1-ABTがNEOs分解を阻害することが判明した。本結果は、P. chrysosporiumによるNEOsの分解においてCYPが関与していることを示唆している。

そこで、NEOs 分解に関与しているCYP の同定を、P.chrysosporium由来CYPの酵母異種発現機能スクリーニングシステムにより行った。その結果、CYP5147A3及びCYP5037B3がNEOs分解に関するCYPとして同定された(Fig. 5)。そこで、これらCYP 遺伝子を発現させた酵母によるNEOsの分解を行った。CYP5147A3 もしくはCYP5037B3 遺伝子発現酵母でACE を処理すると2種類の分解産物を与え、一つは6-chloro-3-pyridylmethanolであり、もう一つはN’-cyano-N-methyl acetamidineであった。CYP5037B3遺伝子発現酵母でIMIを処理すると2種類の分解産物を与え、一つは6-chloro-3-pyridylmethanolであり、もう一つは2-nitroamino-2-imidazolineであった。CYP5147A3 遺伝子発現酵母でTHI を処理すると3 種類の代謝物を与え、それぞれ6-chloro-3-pyridylmethanol、2-cyanoimino-1,3-thiazolidine、及びthiacloprid amideであった。本結果は、これらのCYP がNEOs のN-脱アルキル化反応を触媒していることを示している。
実際にP. chrysosporiumによりNEOsの分解を行うと、ACE、IMI 及びTHI全てにおいて、6-chloro-3-pyridylmethanolの蓄積は観察されず、脱アルキル反応で生成する側鎖部分のみの蓄積が見られた。よって、P. chrysosporiumによるNEOsの処理では、6-chloro-3-pyridylmethanol はさらに代謝されていることが予想された。
さらに、P. chrysosporiumにおけるCYP5147A3及びCYP5037B3遺伝子発現挙動を解析した結果、これらCYP遺伝子の発現とNEOs分解が類似した傾向を示した(Fig. 6)。


【3.研究のポイント】
●キノコの仲間である白色腐朽菌が、ミツバチの大量失踪・大量死や人類に対しても悪影響を及ぼしているネオニコチノイド殺虫剤を分解であることを証明。
●本分解反応に2 種類の酵素シトクロムP450 が関与。
●本シトクロムP450 は、ネオニコチノイド殺虫剤のN-脱アルキル化反応を効率的に触媒。



Fig.1 6-chloro-3-pyridinemethanol (IM 0)の構造


Fig.2 NEOsの構造


Fig.3 P. chrysosporiumによるNEOs分解の経時変化


Fig.4 P. chrysosporiumによるNEOs分解に及ぼす1-ABTの影響


Fig. 5 P. chrysosporiumもしくはCYP5037B3またはCYP5147A3を発現している酵母によるNEOs代謝機構

I: 6-chloro-3-pyridylmethanol, II: N’-cyano-N-methyl acetamidine, III: 2-nitroamino-2-imidazoline,
IV: 2-cyanoimino-1,3-thiazolidine, V: thiacloprid amide



Fig.6 各CYP遺伝子の発現挙動
各バンドの下に示している数値は、相対発現量(%)を示す。



【4.お問い合わせ先】
静岡大学 農学部 教授 平井浩文
TEL:054-238-4853
FAX:054-238-4853
E-mail:hirai.hirofumi[at]shizuoka.ac.jp
※[at]を@に変更してご利用ください