卵巣性テラトーマの原因遺伝子を解明 卵巣腫瘍の予防治療や不妊治療への応用に期待

2021/02/12
プレスリリース

■研究(成果)のポイント■
・卵巣性テラトーマの原因遺伝子がMC4Rであることを発見
・卵巣性テラトーマ発症メカニズム解明の手がかりとなる
・テラトーマ発症の予防法の開発などに繋がる

 生殖細胞由来の腫瘍である奇形腫(テラトーマ)はヒトでも発症するガンの一種です。静岡大学では、遺伝子異常により精巣でテラトーマを発症するマウス系統(129系統)と卵巣でテラトーマを発症するマウス系統(LT系統)を長年に渡り継代飼育してその原因遺伝子の特定を進めてきました。理学部の徳元俊伸教授の研究グループは、卵巣性テラトーマの原因遺伝子の一つがメラノコルチン4受容体(MC4R)遺伝子であることを新たに解明しました。そして、これまで精巣性テラトーマの原因遺伝子として知られていたTer遺伝子座に存在するDnd1遺伝子変異とMC4R遺伝子変異が共存した場合に極めて高い発症率を示すことを明らかにしました。
 この結果はメラノコルチン受容体経路が卵巣性テラトーマの原因である卵細胞の賦活化の制御に関わること、精巣性テラトーマの原因遺伝子Dnd1が卵巣性テラトーマの原因にもなることを示し、テラトーマ発症に雌雄で共通性が存在することを示しました。
卵巣性テラトーマはヒトや家畜などの動物でも発症する疾患です。本研究で明らかになったテラトーマ原因遺伝子の一つが、テラトーマ発症メカニズムと予防治療法の確立に向けた研究の突破口を開く鍵となり、今後の全容解明に向けた大きな一歩となることが期待されます。
 本研究成果は、シュプリンガー・ネイチャーが出版する科学雑誌サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)に日本時間2月10日に掲載されました。
本研究は、浜松医科大学と共同で実施され、日本学術振興会からの科研費D15J038470 と文部科学省からのマウス系統保存費の助成を受けた成果です。

【用語説明】
テラトーマ(奇形腫):
テラトは怪物、オーマがガンを意味し、これらを合わせた言葉。怪物のようなガンという意味であるが、良性の場合と悪性の場合とがあり、良性の場合は摘出手術により完治されるが悪性の場合は転移の危険性がある。ヒトの卵巣性テラトーマでは細胞塊中に髪の毛や歯が形成される例も知られているように通常のガンとは異なり、細胞、組織の分化が生じることが特徴である。
卵の賦活化(ふかつか):
卵細胞は減数分裂を停止した状態で成長し、その後の受精、発生を正常に進行できるように卵を覆うろ胞細胞から物質の供給を受け、卵内に必要な物質を蓄える。この過程は卵形成と呼ばれるが、卵形成が正常に行われなかった卵は細胞死を起こし、吸収される。卵形成中には分裂停止の仕組みがはたらいているが、この仕組みに異常が生じた場合には卵形成中に分裂を開始し、発生を開始してしまう。これを卵の賦活化と呼ぶ。卵巣性テラトーマはこの賦活化を起源として異常形態ながら巨大な細胞塊にまで成長する。

【問い合わせ先】
創造科学技術大学院 バイオサイエンス専攻
教授  徳元俊伸
TEL:054-238-4778
FAX:054-238-0986
E-mail:tokumoto.toshinobu[at]shizuoka.ac.jp ※[at]は@に変更してご利用ください

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