若返り効果が期待されているNMNを生産する乳酸菌を発見
静岡大学学術院工学領域・吉田信行准教授の研究グループは、本学グリーン科学技術研究所、株式会社大阪ソーダとの共同研究で、若返り効果で注目されているニコチンアミドモノヌクレオチド(以下、NMN)を生産する乳酸菌を発見し、Nature Publishing Groupの国際科学オンラインジャーナルScientific Reports(2021年4月7日)に発表しました。
NMNは、ワシントン大学の今井眞一郎教授らの研究において、生後2 年のマウス(ヒト年齢で約60 歳)に1 週間投与すると、生後6 ヶ月(ヒト年齢約20 歳)の運動能力、外観を示すまで若返った、と一躍有名になった化合物です。以来、NMNの若返り効果に関する研究が世界中で行われ、その抗老化メカニズムは科学的に証明されています。現在、NMNはニュートラシューティカル*1として注目され、含有するサプリメントがいくつか上市されています。しかしながら、いずれもかなり高価なものとなっており、NMNの工業生産方法の効率化が望まれます。
そこで、吉田准教授らは、NMNの高効率な微生物生産プロセスの構築を目指し、NMMを生産する乳酸菌の探索を開始。フルクトバシラス属の乳酸菌がNMNを菌体内外に生産することを発見しました。この乳酸菌を用いたNMNの工業生産プロセスを構築すると
ともに、NMNを含有する乳酸菌そのものを製剤化することにより、乳酸菌のプロビオティクス効果*2も併せた新しいニュートラシューティカルとなることが期待できます。
*1: Nutrition(栄養)とPharmaceuticals(医薬品)から作られた言葉。人々の日々の健康維持に有用である科学的根拠をもつ食品・飲料を指す。
*2: 腸内細菌叢のバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生きた微生物菌体(特に乳酸菌)
【研究の背景】
吉田信行准教授の研究グループでは,新しい反応を触媒する微生物や酵素を自然界から見つけ出して、産業応用に結び付けようという研究を行っています。NMNはマウスに投与すると若返りの効果があったことから一躍注目され、その後抗老化作用だけでなく、免疫力の向上、アルツハイマー病やパーキンソン症改善効果も期待されています(https://www.ibm.com/blogs/think/jp-ja/mugendai-6576-interview-nmn/#toc-heading-h2-10)。
そのような驚くべき効果があることから、NMNを含むサプリメントがいくつか販売されていますが、いずれもかなり高価なものとなっています。これはNMN を工業的に効率よく生産する方法がないためと考えられます。そこで私たちは、NMNの高効率な微生物生産プロセスの構築を目指し、NMNを生産する乳酸菌の探索を開始しました。乳酸菌をターゲットとした理由は、安全であることとからそのまま菌体を製剤とすることができ、NMNのニュートラシューティカルズ効果と共に、乳酸菌のプロバイオティクス効果も期待できるか
らです。
【NMNを生産する微生物を効率よく探索するための工夫点】
・菌体の中よりも外に分泌したNMNを検出する方が都合がよい
・NMNは構造上、細胞膜透過性が悪いことが予想されたので、NMNからリン酸基を除去したニコチンアミドリボシド(NR)を生産するものを見つける(NRもNMNと同様の効果があることは報告されています)
・NRがないと生育しないような酵母(NR要求性酵母)を使用したバイオアッセイ系を構築する
【研究成果】
まず、NR要求性酵母を固体培地に薄く塗っておき、その上に乳酸菌を接種します。もし乳酸菌がNRを生産していれば、その乳酸菌の周りにNR要求性酵母が生育します(図1)。
このような効率の良いスクリーニング系を構築し、174株の乳酸菌から3株の候補株を得ることができました(図2)。これらは全てフルクトバシラス属と同定されましたが、この属の乳酸菌は花によく生息しており、フルクトース(果糖)を要求することが知られています。フルクトースを添加することで、各候補株の生育が格段に良くなることも分かりました。
【研究の発展性】
現在のNMN生産量は培地1リットル当たり数mgであり、工業生産には更なる生産性の向上が望まれることから、現在様々な検討を行っています。候補乳酸菌は菌体外にNMN(およびNR)を分泌しますが、フルクトースを添加すると菌体内に蓄積します(図3)。
これは当初の目的の1つである、乳酸菌製剤としての応用が可能であることを示しています。また、乳酸菌候補株のうち1株のゲノム(全遺伝子)を解読すると、候補株がなぜNMN を生産できるのかが分かってきました。これは他の微生物にはない特徴であり、基礎微生物学的にも非常に興味ある知見です。
【論文情報】
Sugiyama, K., Iijima, K., Yoshino, M., Dohra, H., Tokimoto, Y., Nishikawa, K., Idogaki, H., and Yoshida,
N. Nicotinamide mononucleotide production by fructophilic lactic acid bacteria, Scientific Reports, 11, 7662, 2021;
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-87361-1
【研究に関する問い合わせ先】
吉田 信行
静岡大学学術院工学領域准教授
〒432-8561 浜松市中区城北3-5-1
Tel/Fax: 053-478-1274
E-mail: yoshida.nobuyuki[at]shizuoka.ac.jp ※[at]を@に変更してご利用ください
吉田研究室ウェブサイト: https://wwp.shizuoka.ac.jp/yoshida-cb-shizuoka/