沼津東高校と静岡大学、駿河湾から採集された深海魚3種の腸内細菌叢を解析

2021/04/15
プレスリリース

■発表のポイント■
○深海魚の腸内細菌叢については世界的に見てもほとんど解析されておらず、駿河湾から採集された深海魚の腸内細菌叢を次世代シーケンサーで初めて解析しました。
○高校生が自ら研究テーマを設定し、実験や解析を主体的に進め、筆頭著者として論文執筆まで担当しました。
○本研究の成果は深海魚の腸内細菌叢の特性の理解や新奇の海洋微生物資源・遺伝資源の探索に向けて、大きく貢献することが期待されます。

 静岡県立沼津東高等学校(以下、沼津東高校)の高校生(研究当時)5 名と渡邉伸一教諭(現・静岡県立伊東商業高等学校)、静岡大学グリーン科学技術研究所の道羅英夫准教授らの研究グループは、日本一の深さを誇る駿河湾の水深約300mから採集された深海魚アオメエソ、ユメカサゴ、ニギスの腸内細菌叢を次世代シーケンサーを用いて解析しました。本研究の成果は、当時高校生だった岩附利英氏が筆頭著者として主に論文を執筆し、国際学術誌Microbiology Resource Announcements」に発表しました。これまで、深海魚の腸内細菌叢については世界的に見てもほとんど解析されていないため、本研究で得られた結果は深海魚の腸内細菌叢の特性の理解や新奇の海洋微生物資源・遺伝資源の探索に向けて、大きく貢献することが期待されます。

 本研究成果は、2021年1月7日にアメリカ微生物学会が出版する「Microbiology Resource Announcements」に掲載されました。
「16S rRNA Gene Amplicon Sequencing of Gut Microbiota in Three Species of Deep-Sea Fish in Suruga Bay, Japan」
DOI: 10.1128/MRA.01260-20

【研究の概要】
 腸内細菌叢は腸内フローラとも呼ばれ、一定のバランスで腸内に生息している多種多様な細菌のことをいいます。腸内細菌には食物の分解やビタミン類の合成、免疫力の向上などの働きがあり、腸内細菌叢のバランスを整えることが、健康を維持し、生活習慣病を予防することにつながるという考えが一般的になっています。魚類でも安全・安心な養殖技術の開発を目的として、様々な養殖魚の腸内細菌叢に関する研究が行われていますが、深海魚の腸内細菌叢を網羅的に解析した研究は世界的に見てもほとんど行われていませんでした。その点に着目した沼津東高校の高校生からの解析依頼を受けて、共同研究が始まりました。
 駿河湾の水深約300mから採集された深海魚アオメエソ、ユメカサゴ、ニギス(図1)それぞれ3個体の腸の内容物からDNAを抽出し、腸内細菌の16SリボソームRNA遺伝子をPCR法によって増幅しました。次世代シーケンサーを用いて合計37万本以上のPCR産物の塩基配列を決定し、腸内細菌叢を解析しました。その結果、アオメエソとユメカサゴの腸内細菌叢はこれまでに報告されている魚類の腸内細菌叢と類似していましたが、ニギスでは腸内細菌の種類が大きく異なることが明らかになりました(図2)。また、3種の深海魚すべてにおいて、多数存在する4属が95%以上を占めており、腸内細菌の多様性が低い傾向にあることが推測されました。さらに解析を進めることにより、これらの傾向が深海魚の魚種や生息する水深・環境、食性等の要因によるのかなど、深海魚の生態と腸内細菌叢の関連性が明らかになることが期待されます。

本研究は、公益財団法人 山﨑自然科学教育振興会の助成を受けて実施されました。


【図:左より】
図1. 解析に用いた駿河湾の深海魚3種
図2. 深海魚3種の腸内細菌叢の門レベル(A)および属レベル(B)の菌組成
Copyright © 2021 Iwatsuki et al. This is an open-access article distributed under the terms of the Creative Commons Attribution 4.0 International license.


【期待される成果と意義】
深海とは水深200m以上の海域を指し、太陽光が届かず、高水圧・低水温・低酸素状態など特殊な環境条件となっています。中でも駿河湾は日本一の深さを誇り、そこに生息する深海魚の腸内には、これまで知られていない新奇の海洋微生物が存在している可能性があります。本研究で得られた成果は深海魚の腸内細菌叢の特性の理解や新奇の海洋微生物資源・遺伝資源の探索に向けて、大きく貢献することが期待されます。

【論文情報】
 本研究成果は、2021年1月7日にアメリカ微生物学会が出版する「Microbiology Resource Announcements」に掲載されました。

◆ 論文タイトル
「16S rRNA Gene Amplicon Sequencing of Gut Microbiota in Three Species of Deep-Sea Fish in Suruga Bay, Japan」
DOI: 10.1128/MRA.01260-20

◆ 著者
岩附 利英(沼津東高校:研究当時)
金澤 貴弘(沼津東高校:研究当時)
小笠原 貴翔(沼津東高校:研究当時)
細谷 健人(沼津東高校:研究当時)
土屋 花蓮(沼津東高校:研究当時)
渡邉 伸一(沼津東高校・教諭:研究当時)
鈴木 智子(静岡大学グリーン科学技術研究所・研究補佐員)
森内 良太(静岡大学技術部・技術専門職員)
兼崎 友(静岡大学グリーン科学技術研究所・特任助教)
道羅 英夫(静岡大学グリーン科学技術研究所・准教授)


【関連リンク】

論文URL:https://mra.asm.org/content/10/1/e01260-20


【問い合わせ先】
(研究に関すること)
静岡大学 グリーン科学技術研究所(理学部、ふじのくに海洋生物化学研究所)
准教授・道羅 英夫(どうらひでお)
TEL:054-238-6354
E-mail:dora.hideo[at]shizuoka.ac.jp

(報道に関すること)
静岡大学 広報室
TEL:054-238-4407
E-mail:koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp

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