酸化還元活性を示す新規有機色素化合物の開発

2021/05/20
プレスリリース

 静岡大学工学部の藤本圭佑助教らの研究グループ(高橋研究室)は、酸化還元活性を示す新規有機色素化合物の開発に成功しました。

 機能性有機材料として有望な分子群の一つとして、多環へテロ芳香族化合物 (PHA) が挙げられ、これらはヘテロ原子の特性に基づいた独自の機能を示します。ヘテロ原子のうち窒素原子は、酸化度の高い「イミン型構造」と酸化度の低い「アミン型構造」に分類され、同じ原子であるにもかかわらず、互いに対照的な機能を発現します。そのため、酸化還元反応により両構造の相互変換が可能(酸化還元活性)なPHAは、対照的な二つの性質のスイッチングに基づいた機能を有する全く新しい有機材料となることが期待されます。
 本研究では、ビタミンB2の生体内での酸化還元反応を担う鍵構造である 「1,4-ジアザブタジエン構造」を組み込むことで、新しい酸化還元活性 PHA (5,11-ジアザジベンゾ[hi,qr]テトラセン)を設計し、その合成と物性評価を行いました。その結果、この化合物は高い電子受容性および橙色発光を示す赤色色素化合物であり、還元型構造との相互変換が定量的かつ可逆に進行することを見出しました。さらに酸化的水素化物置換反応を用いた化学修飾が可能であり、その分光特性を容易に制御できることを明らかにしました。  
 本研究で得られた研究成果は、窒素原子中心の酸化還元に基づいた将来の有機機能性材料開発につながると考えられ、有機n型半導体、環境応答性発光材料および酸化触媒などへの応用展開が期待されます。
 なお、本研究成果は、2021年5月17日に、ドイツの Wiley-VCH の発行する国際雑誌「Chemistry-A European Journal」にweb掲載されました。

■研究のポイント■
●窒素原子が示す二種類の構造(図1a)の対照的な性質に着目して、新規な多環へテロ芳香族化合物 (PHA) の分子設計を行った。
●酸化還元反応による変換が可能な鍵構造として、ビタミン B2 のはたらきを担う「1,4-ジアザブタジエン構造」(図1b, c)を組み込んだ。
●高い電子受容性および橙色発光を示す赤色色素化合物として、5,11-ジアザジベンゾ[hi,qr]テトラセンの合成に成功した。(図1d)
●還元型構造との相互変換が定量的かつ可逆に進行することを見出した。



図1. (a) 窒素中心の二つの構造、(b) ビタミンB2の構造と (c) 代謝反応における構造変化、
(d) 5,11-ジアザジベンゾ[hi,qr]テトラセンの構造と酸化還元反応および (e) 酸化的水素化物置換反応


【研究の成果】
・市販の 1,8-ジアミノナフタレン出発物質として、合計 7 段階の合成反応により 5,11-ジアザジベンゾ[hi,qr]テトラセンを総収率 20% にて得ることに成功した。
・5,11-ジアザジベンゾ[hi,qr]テトラセンが高い電子受容性および橙色発光を示す赤色色素化合物であることを明らかにした。
・還元型構造との相互変換が定量的かつ可逆に進行することを 1H NMR 測定および吸収・発光スペクトル測定により観測した。
・酸化的水素化物置換反応が円滑に進行することを見出し、近赤外領域に強い吸収帯を持つアミン置換体を得ることに成功した。(図1e)

【今後の展望と波及効果】
本研究で得られた研究成果は、窒素原子中心の酸化還元に基づいた将来の有機機能性材料開発につながると考えられ、有機 n 型半導体、環境応答性発光材料および酸化触媒などへの応用展開が期待されます。

【論文情報】
掲載誌名:
Chemistry – A European Journal

論文タイトル:
5,11‐Diazadibenzo[hi,qr]tetracene: Synthesis, Properties, and Reactivity toward Nucleophilic Reagents

著者:
Keisuke Fujimoto, Satoshi Takimoto, Shota Masuda, Toshiyasu Inuzuka, Kazutaka Sanada, Masami Sakamoto, Masaki Takahashi

DOI:
10.1002/chem.202100944

【研究助成】
この研究は、JSPS 科学研究費(若手研究 19K15536)および一般財団法人 東海産業技術振興財団研究助成の支援を受けて実施されました。

【用語説明】
多環へテロ芳香族化合物 (PHA: Polycyclic heteroaromatic molecule):
複数の芳香環が縮合した構造を持つ化合物であり、尚且つ芳香環を構成する原子にヘテロ原子を含むもの。

ヘテロ原子:
有機化合物中で炭素と水素以外の原子。窒素 (N)、酸素 (O)、リン (P)、硫黄 (S) などが挙げられる。

イミン型構造:
一つの単結合と一つの二重結合をもつ窒素原子の構造

アミン型構造:
三つの単結合をもつ窒素原子の構造

酸化的水素化物置換反応:
芳香環 C-H 結合を求核剤 Nu- と反応させることで C-Nu 結合へと変換する反応。求核剤の付加した反応中間体が円滑に酸化されることにより反応が進行する。

【問い合わせ先】
(研究に関すること)
静岡大学 工学部
助教・藤本 圭佑 (ふじもと けいすけ)
TEL:053-478-1177
E-mail:fujimoto.keisuke[at]shizuoka.ac.jp

(報道に関すること)
静岡大学 広報室
TEL:054-238-5179
E-mail:koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp

※全て[at]を@に変更してご利用ください。

JP / EN