皮膚貼付型小型組織オキシメーター「TOE-20」を上市しました

2021/10/20
プレスリリース

■研究成果のポイント■
・皮膚貼付型小型組織オキシメーター「TOE-20」を開発し、4月27日に上市いたしました。
・本装置を使用することにより、足の血流の悪い患者様に対する血管外科や血管吻合を伴う形成外科手術中に、対象組織の酸素飽和度をリアルタイムで測定することが可能になりました。

【概要】
 浜松医科大学、静岡大学電子工学研究所、株式会社アステムは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靱化事業」における「術中の迅速な判断・決定を支援するための診断支援機器・システム開発プロジェクト」の研究開発課題「スマート治療室における患者情報統合モニター上にデータ表示可能な、外科医の指先や鏡視下手術鉗子ならびにロボットアーム先端に装着可能な小型組織オキシメーター温度センサーの開発」の支援の下、皮膚貼付型小型組織オキシメーター「TOE-20(トウ トウエンテイー)」を共同で開発し、4月27日に上市いたしました。

【研究の背景】
 外科医は対象となる臓器や、皮膚組織の”活きの良さ“については、組織の色や触れた温度で経験的に判断せざるを得ませんでした。組織中の酸素飽和度は、血流が悪いと低値となる組織のいわゆる”活きの良さ“を示す指標ですが、リアルタイムで組織の酸素飽和度をモニターできるオキシメーター(酸素飽和度測定装置)はこれまで存在しなかった。今回、AMEDの支援の元で、産官学が一体となった協力体制のもと新規の皮膚貼付型小型組織オキシメーター”TOE-20”が開発され、上市に至りました。(図1、図2)。

【研究の手法と成果】
平成29年度から、対象臓器(組織)として皮膚、腸管を標的として測定深度4-5㎜のオキシメーター開発に取り組みました。静岡大学の庭山雅嗣博士が開発した浅層用センサーの計測アルゴリズムのもと、様々なインターオプトード配列の検討とプローブを株式会社アステムが試作し、それを用いて静岡大学で測定感度試験を行い、光源-受光器間の最適距離を検討しました。また、実際のセンサ形状を考慮したモデルを作製し、それを基にアステム社でデバイスの回路設計、ファームウェア開発ならびにアプリケーションを開発しました。並行して浜松医科大学では、臨床応用の可能性について検討を行い実際の臨床で応用いたしました。その結果、これまで不可能であった標的とする四肢の虚血部位の組織酸素飽和度をリアルタイムに測定しながら術中に術式を決定していく(Target region Oxygenation-based Endovascular treatment: TOE)という新しい手術方法が可能となりました。

【今後の展開】
[血管外科領域]
現在、虚血肢1)に対するTOE-20を用いた組織酸素飽和度計測の有用性のエビデンスを獲得するため、多施設前向き臨床研究(NIRS-TOE study)を実施しています。この研究においては、虚血肢の血管内治療2)の際にリアルタイムで組織酸素飽和度計測をTOE-20で測定することにより(図3)、患者さんに必要にして十分な治療を行い、過剰な手技を行わないことにより、手術時間の短縮、合併症の減少や、医療資源の有効活用につながる成果が得られることを期待しています。
[形成外科領域]
乳癌手術などで皮膚移植を行った際に、移植皮弁の血流状態をTOE-20によりモニターすることにより、血流不全をリアルタイムで検知することが可能になると考えています(図4)。今後臨床応用を進める予定です。

以上の領域で臨床応用を実施しながら、国内だけではなく米国などの海外への展開を検討しています。

【用語解説】
1)虚血肢
糖尿病や閉塞性動脈硬化症による血流障害により、足に潰瘍や壊死を生じた状態。
2)血管内治療
閉塞や狭くなった動脈を先端にバルーンの付いたカテーテルや、ステントといわれる金属の鋳型を血管内に留置して拡張し、血流を改善させる手術のこと。

【参考論文】
掲載誌:Journal of Vascular Surgery Cases and Innovative Technique
論文タイトル:
Real-time Assessment of Tissue Oxygen Saturation During Endovascular Therapy for Chronic Limb-threatening Ischemia Using a Novel Oximeter
著者:Naoki Unno, Kazunori Inuzuka, Masaki Sano, Masatsugu Niwayama, Ena Naruse, Hiroya Takeuchi
URL:https://doi.org/10.1016/j.jvscit.2021.07.001

【研究グループ】
浜松医科大学外科学第二講座(血管外科学分野)
浜松医療センター血管外科
静岡大学電子工学研究所
株式会社アステム

【研究支援】
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

【報道解禁日時】
令和3年10月20日(水)午後1時

【本件に関するお問い合わせ先】
<研究に関するお問い合わせ>
国立大学法人浜松医科大学外科学第二講座(血管外科学分野)
〒431-3192 静岡県浜松市東区半田山一丁目20-1
特定教授 海野直樹
TEL:053-435-2279
E-mail:unno[at]hmedc.or.jp

国立大学法人静岡大学電子工学研究所
准教授 庭山雅嗣
TEL:053-478-1615
E-mail:niwayama.masatsugu[at]shizuoka.ac.jp

株式会社アステム
医療機器製販責任者 横山
TEL:044-833-8453
FAX:044-833-8456
Email:info[at]astem-jp.com

<報道に関するお問い合わせ>
国立大学法人浜松医科大学総務課広報室
TEL:053-435-2151
E-mail:koho[at]hama-med.ac.jp

国立大学法人静岡大学総務部広報室
TEL:054-238-5179
E-mail:koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp

株式会社アステム
TEL:044-833-8453
FAX:044-833-8456
Email:info[at]astem-jp.com

<AMED事業に関するお問い合わせ>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
医療機器・ヘルスケア事業部医療機器研究開発課
TEL:03-6870-2213
Email:A-kiki[at]amed.go.jp

※全て[at]を@に変更してご利用ください。


【参考図】

最近、新型コロナウイルス感染で話題になったパルスオキシメーターで測定するSpO2は動脈血液中の酸素飽和度(正常値は95%以上)であり、一方TOE-20で測定する組織酸素飽和度rSO2は毛細血管網により供給される組織中の酸素飽和度を測定しています。医学的、生物学的に異なるものです。

(図4)移植皮弁の血流状態の観察

(図4)移植皮弁の血流状態の観察

JP / EN