令和3年度静岡大学学位記授与式(静岡地区)を挙行しました

2022/03/24
学長メッセージ

令和4年3月23日(水)に令和3年度静岡大学学位記授与式(静岡地区)がグランシップを会場に行われ、学部学士課程卒業生1,211名、大学院修士課程修了生162名、大学院博士課程修了生11名、大学院専門職学位課程34名に学位記が授与されました。
今年度は入口での検温・消毒、座席間隔の確保、式典時間の短縮等の感染症対策を徹底のうえ、卒業生・修了生が学位記授与式へ出席し、保護者向けにライブ配信を実施しました。

日詰学長からは、「皆さんの周囲の人にも関心を示し、自分とは異なる意見にも耳を傾け、皆で結びつき、支えあいながらこれからの社会を構築していくという意思を持っていいただきたいと願っています」との告辞がありました。
最後に、卒業生・修了生を代表して地域創造学環 久保山 健太 さんから、学長をはじめとする教員等に対する謝辞がありました。

学位記授与式閉式後は、グランシップ内において、学部・研究科ごとの学位記伝達式が実施されました。

令和3年度静岡大学卒業・修了者数(静岡地区)
○学部(学士課程)
人文社会科学部   412名
教育学部      311名
理学部       234名
農学部       201名
地域創造学環     53名
      計 1,211名

○大学院(修士課程)
人文社会科学研究科  33名
教育学研究科     2名
総合科学技術研究科(理学専攻、農学専攻) 127名
        計 162名

○大学院(博士課程)
教育学研究科      1名
自然科学系教育部   10名
         計 11名

○大学院(専門職学位課程)
教育学研究科     34名
         計 34名

 静岡地区合計 1,418名


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令和3年度静岡大学学位記授与式(静岡地区) 学長告辞

ただ今、学部1,211名、大学院修士課程162名、大学院博士後期課程11名、専門職学位課程34名の方々に学位記を授与致しました。
一七日の浜松キャンパス学位記授与式での卒業・修了生を合わせると、学部1,931名、大学院修士課程540名、大学院博士後期課程25名、専門職学位課程34名の合計で、2,530名に学位記を授与致しました。

卒業生、修了生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。ここに、静岡大学教職員を代表して、お祝いを申し上げます。卒業生・修了生の今日この日の姿を心待ちにしてこられた、ご家族・保護者の皆様にも心よりお祝い申し上げます。

昨年度の学位記授与式は学生の皆さんの代表や大学側の役員・部局長等の限られた出席者からなる大変小規模なものでした。今年度もコロナウイルスの感染防止を優先するという観点から、例年より規模を縮小して行うこととなりましたが、昨年度と異なり、卒業・修了される皆さんが、これまで共に学んできた多くの仲間たちと一堂に会し、同じ場所で学位記授与式に参加できる形としました。これは何にも代えがたいものだと思いますし、私たちもとてもうれしく思っています。

さて、新型コロナウイルスの感染者が日本で確認されてからすでに2年以上が経過しました。残念ながら現在においても感染が収束していると言える状態ではありません。しかし、私たちはコロナ禍の2年間の中で、感染を予防するための様々な方法を学び、それらが私たちの生活の中に浸透してきました。マスクの着用、手指消毒の励行、密集・密接・密閉といった三密を避けること、ソーシャルディスタンスと呼ばれる安全な距離を保つこと、室内換気、そして新型コロナワクチン接種等ですが、私たちはこれらの方法を通して、感染を予防する術を身につけたと考えています。今しばらくはこのような状況が続くかもしれませんが、一日も早く感染が収束することを願わずにはいられません。
思い起こせば、卒業生、修了生の皆さんは新型コロナウイルスのまん延により、2年の間とても制約の多い生活を強いられてきました。特に、学士課程の皆さんは4年間のうちの後半の2年間、また修士課程の皆さんは修了までの2年間のすべてが、そして博士課程の皆さんは3年間のうちの2年間がコロナ禍のためにいろいろな制約が課され、とても不自由な中で勉学に励んでこられたのではないでしょうか。私はそのような困難な状況の中にあっても、くじけることなく勉学に励み、本日卒業・修了を迎えられた皆さんに心からの賛辞を贈りたいと思います。与えられた状況が難しいことであっても、皆さん自身が想像力を発揮して、どうすれば円滑に研究を進めることができるのか、様々な工夫をされたのではないかと思います。そのような取り組みの一つ一つは必ずやこれからの皆さんの人生に良い影響をもたらすことになるはずです。

ところで、今や科学技術は目を見張る勢いで発展し、様々な技術革新が進展しています。そして、今後10年の間に私たちがいま生きている日本社会は、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く人類史上5番目の新しい社会、すなわちSociety 5.0と呼ばれる社会を迎えると想定されています。この概念は、国が5年ごとに定める第5期科学技術基本計画の中で提示された、日本の未来社会のコンセプトです。それによりますと、この社会は、「サイバー空間(仮想社会)とフィジカル空間(現実空間)が高度に融合した『超スマート社会』」だとされ、さらに「経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」であるとも言われています。内閣府総合科学技術・イノベーション会議のウエブサイトにはSociety 5.0社会のことがこれまでの社会との対比でいくつかの事例が示されています。それらを少しご紹介しましょう。従来の社会の一つ目の課題として、「必要な知識や情報が共有されず、新たな価値の創出が困難であった」ということが記されていますが、新たな社会では、「IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、新たな価値が生まれる」と述べられています。そして、二つ目の課題は、「情報があふれ、必要な情報を見つけ、分析する作業に困難や負担が生じる」と指摘されています。それに対して新たな社会では、「AIにより、多くの情報を分析するなど面倒な作業から解放される」とされています。また、三つ目の課題は、「人が行う作業が多く、その能力に限界があり、高齢者や障害者には行動の制約がある」ということです。それについて、新しい社会では「ロボットや自動運転車などの支援により、人の可能性が広がる社会」になることを予想しています。
このようにSociety 5.0という新しい社会では、基盤となる技術として人工知能やIoT、ロボットなどがあるのですが、逆にこのような社会の到来により、私たちが当たり前のように考えてきた仕事に大きな変化がもたらされることが想定されます。つまり、私たちがこれまで普通に従事してきた仕事が、今後人工知能やロボットにより置き換わっていく可能性が高くなってきているのです。このことについて、2015年に日本の代表的なシンクタンクである野村総合研究所とイギリスのオックスフォード大学の研究者の共同研究で明らかにされました。それによりますと、「必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業については、人口知能等で代替できる可能性が高い傾向」がみられ、「芸術・歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は、人工知能等での代替は難しい傾向」があるとされています。(文科省「高等教育の将来構想に関する参考資料」2018.2.21)

これから技術革新の進展により、私たちの生活は便利になる反面、仕事が大きく変化をしていく、そのような時代に私たちは生きていくことになります。これから日本ばかりか、世界全体で大きな社会変革の波がやってくることは間違いのないことです。そして、皆さんは変革の波の中を生きていくことになります。このような社会の中で、皆さんに期待されていることは大きな社会変革の波の中を柔軟にしかも想像力を発揮して生きていくことではないかと思います。そのためには、これからも社会の中で起こっていることに対して、興味・関心を持ち続け、それに対して常に能動的な眼差しを向けていくことが必要になります。つまり、これからも学び続ける姿勢を常に持ち続け、新たなことに挑戦していくことが大切だということです。
社会学者の吉見俊哉氏はその著書(『大学は何処へ―未来への設計』岩波新書、2021)のなかで、高齢社会に直面する日本の未来の大学の姿を次のように描いています。「未来の大学に、人は人生で三度入る機会をもつことになる。」「まずはこれまで同様、高校を卒業した若者たちが入学してくる。次に、だいたい三〇代前半の年齢で、人はもう一度大学に入り直す。三〇代前半は、就職した者たちが職場での経験を一通り積んだ段階である。(中略)有職者が新しい人生のパラダイムに転換していくために、大学や大学院に入り直す。さらに人は、五〇代の終わりにも大学に入り直す。すでに職場で一定の地位を得ているが、まだ人生にやり残したことがあると感じており、残りの人生でそれをやり遂げる余地がある」。吉見氏はこのように今後の日本の大学の姿を構想しています。実は、今でも一度大学を卒業・修了後に新たに「人生のパラダイム転換」を果たした人々が大勢います。本学の教員にもそのような経験をした方々がおられます。私は、皆さんの学びが卒業・修了をもって終わるのではなく、これからも是非学びの機会を継続していただくことを期待しています。もちろん、本学でもそのような社会の要請に応えることができるよう、リカレント教育の充実に向けて取り組みを進めて行きたいと考えています。

2022年を迎えた今年、本学では二つの百周年を迎えることになります。一つは浜松キャンパスの前身である旧制浜松高等工業学校が設置されてからちょうど100年になります。静岡大学の理念は「自由啓発、未来創成」という言葉で表現されますが、この「自由啓発」という言葉は、浜松高等工業学校初代校長の関口壮吉先生の教育方針として定められ、今日まで受け継がれてきています。そして、関口先生は美しい環境の中で教育を行いたいということで校内の緑化に努められ、白バラの生垣が作られました。それは後に「関口バラ」と呼ばれるようになり、昨年浜松キャンパスにおいて、白バラの植樹が行われました。また浜松高等工業学校では、日本で最初のテレビジョンの実験に成功した高柳健次郎先生も教鞭を執られました。高柳先生のご功績は高柳記念館に収められていますのでご存知の方も多いと思います。
そして、もう一つの百周年は、人文社会科学部と理学部の前身である旧制静岡高等学校です。今から100年前に現在の静岡市葵区城北公園のところにキャンパスが置かれました。その頃の校舎の模型が大学文書資料室に置かれていて、当時の姿を見ることができます。今年、双方の百周年を記念するため、浜松では9月24日に、そして静岡では11月19日にそれぞれ記念式典を行うことになっていますので、皆さんは卒業生として是非参加していただければと思います。

本日卒業・修了される皆さんは、このように歴史あるキャンパスを後にしてこれから社会に巣立って行かれます。これから皆さんは先を見通すことが難しい混沌とした社会の中で生きていかなければならず、あまり経験したことのないことに遭遇することも多いのではないかと思います。そのような中にあってもこれまで本学で学ばれたことを活かして、社会で活躍されることを心より期待しています。先日皆さんの先輩で、現在国境なき医師団日本の事務局長として活躍されている村田慎二郎さんと対談する機会がありました。村田さんは当時の人文学部経済学科を卒業後、一度民間企業に就職されたのですが、その後人の役に立つ仕事を志して退職し、現在の職に就かれました。国境なき医師団は国際的なネットワークの中で活動していますが、紛争地域の難民支援や大災害の被災者を医療面から支援することを使命とする団体です。村田さんは、その日本支部の日本人初の事務局長として、紛争地域や被災地での医療活動が円滑に進むように様々な交渉や調整をする仕事をしています。その対談の中で、村田さんは私に「日本に帰ってくるたびに本当に平和だなと思います。夢を描こうと思えば描ける環境ですし、挑戦しようと思えばできる環境にいるので、挑戦しないと本当にもったいないです。私自身は個人としての成功よりも、大事なもののために自分の命を大きく使いたいと思っています」と語ってくれましたが、その言葉に感銘を受けました。近年、自分の幸せのことだけにしか関心を示さない風潮も垣間見られるようになりました。私は皆さんがぜひ、皆さんの周囲の人にも関心を示し、自分とは異なる意見にも耳を傾け、皆で結びつき、支えあいながらこれからの社会を構築していくという意思を持っていただきたいと願っています。

最後になりますが、本日卒業・修了される皆さんのこれからの人生の上に幸多かれと心より祈り、告辞といたします。
        
令和4年3月23日
静岡大学長 日詰一幸

【写真:左より】
・式典では、代表者へ学位記が授与されました
・学長から卒業生・修了生に向けて、今後の活躍を期待し、告辞がありました
・卒業生・修了生を代表して地域創造学環 久保山 健太 さんから謝辞がありました

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