国立大学法人 静岡大学

静岡県熱海市逢初川の源頭部の盛土中の淘汰の良い砂層

2022/09/16
プレスリリース

2021年7月3日午前10時30分頃,熱海市伊豆山地区の逢初川沿いで土石流が発生し,伊豆山港に至り,相模湾へ流入した.その後の静岡県の調査で,逢初川源頭部にあった盛土が崩落していたことが判明した.そして,盛土崩落の原因を調査する静岡県の検証委員会は2022年9月8日の最終会合で,「盛土直下の地質は周辺流域の地下水が集まる特徴を持ち,集まった地下水で盛土内の水圧が上昇し,盛土崩落に至った」とする見解を出した.その一方で,土石流が何度も時間差で発生(盛土が複数回崩壊)した原因は解明できなかったとしている.

盛土崩落の原因究明には,盛土の内部構造の解明が必要である.第一著者の北村(静岡大学理学部地球科学科・防災総合センター)は逢初川源頭部を調査し,盛土最下端の基底部に成層構造(層状構造)があることを明らかにした.そこで,盛土の内部構造をさらに調べるために,北村と山下(大学院生)は,源頭部の未崩落の盛土で静岡県が行ったボーリングコア試料を分析した.その結果,4層の淘汰の良い砂からなる層厚4~19 cmの薄層を発見した.これらの砂層は,盛土に成層構造があったことを意味し,さらに,この構造が盛土の複数回の崩壊の原因の一つになった可能性がある.

この研究成果は,「静岡大学地球科学研究報告」に受理されました.下記の日時で詳細をご説明いたしますので,取材方よろしくお願いいたします.なお,当日の説明は北村と山下が行います.概略は添付資料をご覧下さい.

日 時: 令和4年9月16日 10:00~
場 所: 静岡県庁東館10階 社会部記者室
会見者: 静岡大学・北村晃寿

 【表1】 堆積物試料の平均粒径,標準偏差,含泥率.

【表1】堆積物試料の平均粒径,標準偏差,含泥率.

 【図1】 熱海市伊豆山地区の土石流の流路と試料採取地点とボーリング掘削地点.a,b:北村ほか(印刷中)を一部改変.c:静岡県(2021b)を一部改変.画像は国土地理院(2021)の写真番号48156と48158を使用, https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R3_0701_heavyrain.html ,2022年3月1日引用.

【図1】 熱海市伊豆山地区の土石流の流路と試料採取地点とボーリング掘削地点.a, b: 北村ほか(印刷中)を一部改変.c: 静岡県(2021b) を一部改変.画像は国土地理院(2021)の写真番号48156と48158を使用,https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R3_0701_heavyrain.html, 2022年3月1日引用.

 【図2】 盛土最下端の基底部の調査露頭の写真.左上が亜円礫層.

【図2】盛土最下端の基底部の調査露頭の写真.左上が亜円礫層.

 【図3】 盛土の排水用の吸水渠の埋戻し材あるいはサンドマット.

【図3】盛土の排水用の吸水渠の埋戻し材あるいはサンドマット.

【論文情報】
題名:静岡県熱海市逢初川の源頭部の盛土中の淘汰の良い砂層
誌名:静岡大学地球科学研究報告, 50号.
著者:北村晃寿1, 2,山下裕輝3

1:静岡大学理学部地球科学科,2:静岡大学防災総合センター,3:静岡大学大学院総合科学技術研究科

【発表内容】
◆研究の背景
2021年7月3日午前10時30分頃,静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川沿いで土石流が発生し,伊豆山港に至り,相模湾へ流入した(図1).その後の調査で,逢初川の源頭部にあった盛土が崩落していたことが判明した(静岡県, 2021a).国土地理院(2021)は,2009年と2019年の地形測量データを比較し,同期間に形成された盛土の体積量を約56,000m3と見積もっており,そのうちの約55,500m3が崩落したと静岡県(2021a)は報告している.さらに,静岡県(2021a)は10時20分頃から12時10分までの間に3~10波の土石流が発生したと報告している.
静岡県の報告書を基に,木村(2021)は,盛土は三層構造で,2009年6月期前の盛土層,褐色の土砂,黒色の土砂の順に重なり,2021年7月3日の崩落崖は,褐色の土砂,黒色の土砂の境界付近にあたるとした.この解釈が正しいのならば,黒色の土砂は,褐色の土砂よりも崩落しやすい性質を有していた可能性があり,これは崩落原因の一つになりうる.
黒色の土砂の盛土の内部構造について,北村ほか(2022b)は盛土最下端の基底部が含礫砂層(0.1 m厚)と亜円礫層(0.4 m厚)の累重からなることを確認した(図2).前者の礫は火山岩の角礫である.後者の礫は堆積岩の亜円礫で,礫支持であり,礫間の砂質堆積物は放散虫化石を含む泥岩岩片と有孔虫を含むので,盛土の黒色の土砂の供給源の一部は沿岸堆積物であることを明らかにした.なお,亜円礫層は,有孔管から1mほどの位置にあるので,排水用の吸水渠の埋戻し材あるいはサンドマットの可能性がある(図2, 3).
北村ほか(2022b)などの調査で,盛土最下端の基底部の成層構造と土石流堆積物の成分に関するデータを得たが,盛土崩壊の原因究明に必要な盛土の内部構造については,最下端基底部を除けば情報が得られていない.盛土の内部構造の理解は,複数回の土石流の発生原因の解明に必須の情報であるので,本研究では,源頭部の未崩落の盛土で静岡県が行ったボーリングコア試料の調査を行った.

◆結果と議論
静岡県は2021年8月下旬に未崩落の盛土とその周辺の5カ所でボーリングコアを鉛直方向に掘削した.本研究で調査したコアは,未崩落の盛土の地点3で掘削したコアである(図1).静岡県によると,コアの全長・コア径は38 mと5 cmで,深度0~12 mは主に礫,砂,泥の混じった盛土であり,それ以深は火山岩の基盤岩である(図4).盛土にはコア径より大きい礫が複数あるが,礫層か否かは判定できない.
上記のコア試料のうち,盛土の部分(深度0~12m)を分析した結果,4層の淘汰の良い砂層(上位から砂層1~4とする)を確認した.各砂層の深度と層厚は,砂層1は3.23-3.34 mで11cm,砂層2は5.00-5.08 mで8cm,砂層3は8.46-8.65 mで19 cm,砂層4は9.00-9.04 mで4cmである(図4,表1).これらの堆積物試料の乾燥重量を測定した.そして,16,000μm(16mm)以下の粒子について目開き32, 63, 90, 125, 180, 250, 355, 500, 710, 1,000, 2,000, 4,000,8,000μmのふるいで水洗し,残渣の乾燥重量を測定した.また,砂層1と3については直上・直下の堆積物の粒度分析も行った.砂層2と4についてはコアの連結部直下に位置するので,砂層直下の堆積物の粒度分析を行った.32μm以下の粒径を5.5φとして,砂層1~4とその上下の堆積物の算術平均粒径と標準偏差と含泥率を算出した(表1).図4に,砂層1~4の写真と粒度組成を示すとともに,盛土と土石流堆積物の粒度組成のデータ(北村ほか,2022a, d)を記した.なお,コア試料は定方位で採取したものではなく,さらに静岡県の観察・記載時に回転している可能性もあるので,砂層の基底面・上面の層理面の走向・傾斜は測定していない.
淘汰の良い砂層の平均粒径・標準偏差・含泥率の範囲は,0.37–1.68φ, 1.34–2.25φ, 3.0–11.4%である(表1).直下の堆積物に比べると,平均粒径は砂層3を除けば,若干大きくなり,標準偏差は0.2–0.5φ小さく,含泥率は2/5~3/5となる.また,砂層1は上方細粒化を示し,砂層3は上方粗粒化を示す(図4,表1).

 【図4】 盛土の地点3で掘削したボーリングコアの柱状図,淘汰の良い砂層の写真と粒度組成,盛土と土石流堆積物の粒度組成.

【図4】盛土の地点3で掘削したボーリングコアの柱状図,淘汰の良い砂層の写真と粒度組成,盛土と土石流堆積物の粒度組成.

 【図5】 盛土の成層構造の概念図.千木良ほか(2022)を一部改変.地点B1は静岡県が掘削したボーリングコアの掘削地点(千木良ほか,2022),地点Fは2021年7月3日の土石流発生時に形成された洗堀箇所(木村,2021),地点Gは2019年12月期の盛土下端(木村,2021),地点Sは千木良ほか(2022)が報告した地すべり1の基底部の観察場所.

【図5】盛土の成層構造の概念図.千木良ほか(2022)を一部改変. 地点B1は静岡県が掘削したボーリングコアの掘削地点(千木良ほか, 2022),地点Fは2021年7月3日の土石流発生時に形成された洗堀箇所(木村, 2021),地点Gは2019 年12 月期の盛土下端(木村, 2021),地点Sは千木良ほか(2022)が報告した地すべり1の基底部の観察場所.

 【図6】 2019年空中写真及び地形図.小段に小崩落が認められる(静岡県,2022).

【図6】2019 年空中写真及び地形図.小段に小崩落が認められる(静岡県, 2022).

盛土・土石流堆積物の粒度組成と比較すると,砂層1~4の粒度組成は一峰性を示し,含泥率が低い点で異なる(図4).このことから,これらの砂層の採取地は盛土の採取地とは異なる可能性がある.
北村ほか(2022c)は,源頭部の盛土下端部の盛土基底部が,木質物を含む含礫砂層(層厚0.1 m),中礫サイズの亜円礫層(層厚0.4 m),砂層(層厚0.8 m以上)の順に重なることを報告している.この観察から盛土基底部に成層構造が存在することが判明した.なお,亜円礫層は,排水用の吸水渠の埋戻し材あるいはサンドマットの可能性もある.本研究で見つかった砂層1~4も吸水渠の埋戻し材あるいはサンドマットの可能性はあるが,成層構造が盛土基底部より上位に広く存在する可能性もあり,その場合の砂層の分布予想を図5に示した.砂層の層理面の傾斜のデータは得られなかったので,砂層の傾斜は盛土表面の傾斜と同じと仮定した.
成層構造は堆積物内の水の流動に重大な影響を与えることが知られており,例えば,新藤(1993)は,斜面災害の発生原因として,斜面地中水の役割が大きいとし,そのプロセスとして次の3点を挙げている.

(引用ここから)
①繰り返し発生する集中流による,いわゆる“斜面の疲労現象”
②山体の各部位に常在する(あるいは発達しうる)地下水体の豪雨時の連結によって発生する高い水理水頭
③パイプなどの大間隙の閉塞によって生じる間隙水圧の急上昇

①は,集中流によって効果的に進行する地下侵食に起因するものである.地山材料の洗い出しや溶解によって地山の排水機能が増大する一方では,斜面の“緩み”を来たしたり,時には地下侵食によって生じた空洞が陥没して斜面の不安定性を高めていることも事実である.これをここでは“斜面の疲労現象”と呼ぶことにする. 中略
②,③は崩壊発生の直接的要因となる.
(引用ここまで)

新藤(1993)によると,透水性の異なる地層の境界には,斜面地中水が集中し,粒子を排出することにより,パイプなどの大間隙の発達をもたらすという.本研究で発見した4層の淘汰の良い砂層は上下の堆積物よりも低含泥率(3.0–11.4%)で淘汰が良いので,より高い透水性を有する.したがって,これらの砂層にも斜面地中水が集中し,部分的にパイプなどの大間隙が形成されていた可能性がある.静岡県(2022)は2019 年に盛土の小段で小崩落が起きたことを報告しているが(図6),この小崩落は大間隙の形成を示唆するかもしれない.
以上のことから,本研究で確認された4層の淘汰の良い砂層は,盛土崩壊の発生の原因の一つになっていた可能性がある.また,盛土崩壊によるパイプなどの大間隙が閉塞した場合には,その後の間隙水圧の急上昇で盛土崩壊が起きる可能性があるので(新藤, 1993),淘汰の良い砂層は土石流の複数回の発生の原因の一つになっていた可能性がある.

【本研究成果の社会的意義】
熱海市伊豆山地区の逢初川沿いで起きた土砂災害に関して,静岡県(2021a)は「①なぜ、今回の降雨条件のときに、この地形変化と数波の土石流が発生したのか」を再現する必要があるとしたが,2022年9月8日の最終会合では,その原因を解明できなかったとしている.解明できなかった理由の一つは,盛土内部構造の復元が断片的で,均質な物性を仮定したためと思われる.一方,第一著者の調査で,黒色の盛土の採取場所には,沿岸堆積物,中部完新統の海成層,鮮新統最上部―下部更新統の海成層があることが明らかにされている(北村, 2022; 北村ほか, 2022a, 印刷中).これらの土砂は物性が異なるので,盛土は均質な物性ではない.そして,木村(2021)が報告したように,盛土の種類は形成時期によって異なっており,その結果,褐色土砂の上に黒色土砂が重なる構造が作られた.同様の工法の場合には,黒色土砂の中にも成層構造が形成されていると考えるのが自然である.成層構造は,盛土の垂直方向の土砂の物性(例えば,透水性)に周期性をもたらす.今回の調査で確認された4枚の砂層の分布で生じる透水性の周期的変化は,盛土崩落の繰り返しの原因となった可能性は十分あるので,今後検討する価値がある.

【用語説明】
吸水渠の埋戻し材とサンドマットはいずれも盛土内部の水を排水する機能である.設置の義務や設置の仕様については,自治体に問い合わせていただきたい(図3).

【引用文献】
・千木良雅弘・北村晃寿・木村克己・市村康治(2022),熱海市逢初川盛土崩壊の地質的原因について. 静岡大学地球科学研究報告, 49, 45–60.
・地理院地図(2021), https://www.gsi.go.jp/tizu-kutyu.html 2021年7月4日引用.
・北村晃寿(2022), 静岡県熱海市伊豆山地区の土砂災害現場の盛土の崩壊斜面と土石流堆積物から見つかった海生二枚貝の貝殻.第四紀研究,61, 109–117. doi:10.4116/jaqua.61.2114
・北村晃寿・池田昌之(2021), 2021年7月3日に静岡県熱海市伊豆山地区で発生した土石流の速報. 静岡大学地球科学研究報告, 48, 63–71.
・北村晃寿・亀尾浩司・本山 功・守屋和佳・齊藤 毅・渡辺真人・森 英樹(印刷中),静岡県熱海市伊豆山地区の土砂災害現場の盛土に含まれる軟質泥岩礫.第四紀研究.
・北村晃寿・岡嵜颯太・近藤 満・渡邊隆広・中西利典・堀 利栄・池田昌之・市村康治・中川友紀・森 英樹(2022a), 静岡県熱海市伊豆山地区の土砂災害現場の盛土と土石流堆積物の地球化学・粒子組成分析.静岡大学地球科学研究報告, 49, 73–86.
・北村晃寿・山下裕輝・本山 功・中西利典・森 英樹(2022c),静岡県熱海市逢初川の源頭部の盛土下端部の露頭調査. 静岡大学地球科学研究報告, 49, 61–72.
・北村晃寿・山下裕輝・矢永誠人・中西利典・森 英樹(2022d),静岡県熱海市逢初川源頭部の東側地点の盛土に関する調査速報. 静岡大学地球科学研究報告, 49, 97–104.
・北村晃寿・矢永誠人・岡嵜颯太・片桐 悟・中西利典・森 英樹(2022b)静岡県熱海市逢初川の砂防堰堤の埋積土の放射性セシウム濃度と粒子組成の層位変化―2021年7月3日の土石流堆積物の識別―. 静岡大学地球科学研究報告, 49, 87–96.
・木村克己(2021), 熱海市の逢初川土石流災害の地形・地質的背景.深田地質研究所年報,No. 22,185–202.
・新藤静夫(1993), 斜面災害における地中水の集中流現象. 第四紀研究, 32, 315–322.
・静岡県(2021a), 第1回逢初川土石流の発生原因調査検証委員会配布資料(1~17).2021年9 月7 日開催 http://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-350/sabouka/r3hasseigenninncyousakennsyouiinnkai.html 2022年4月24日引用.
・静岡県(2021b), 第2回逢初川土石流の発生原因調査検証委員会 http://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-350/sabouka/documents/2kennsyouiinnshiryou1-5.pdf  2022年8月15日引用.
・静岡県(2022), 第4回逢初川土石流の発生原因調査検証委員会 https://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-350/sabouka/documents/06_3syou.pdf  2022年9月9日引用.

申込み方法・問い合わせ先:

静岡大学理学部地球科学科・防災総合センター
北村 晃寿                             
TEL:054-238-4798
E-mail:kitamura.akihisa[at]shizuoka.ac.jp
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