静岡大学電子工学研究所 寺西 信一 特任教授 が エミー賞🄬 を受賞 埋込フォトダイオードを発明し、イメージセンサの普及に貢献

2023/02/01
プレスリリース

静岡大学電子工学研究所 寺西 信一 特任教授は、全米テレビ芸術科学アカデミー(NATAS = National Academy of Television Arts and Sciences)が主催する「第74回技術・工学エミー賞(Technology and Engineering Emmy Award) 🄬」を、以前勤務していた日本電気株式会社(NEC)とともに受賞しました。

エミー賞🄬は、放送業界の大きな業績を顕彰する国際的に最も権威のある賞で、ジャンル別に賞が設けられており、技術・工学エミー賞は、テレビ技術の大幅な改善や革新的な技術開発や標準化に貢献した個人、企業、組織に贈られます。これまでに青色発光ダイオードの発明で中村修二氏などが受賞しています。

受賞理由は、「ほとんどのイメージセンサで利用されている埋込フォトダイオード (Pinnedphotodiode)技術の発明と開発」です。CCDイメージセンサとCMOSイメージセンサ(スマートフォン用カメラに使用)の両方において性能を飛躍的に向上させる技術であり、イメージセンサの普及に大きく貢献しました。現在、世界で生産されたCCDイメージセンサとCMOSイメージセンサのほぼすべてに使用され、必須の技術となっています。CMOSイメージセンサは、スマートフォン用カメラだけでなく、距離計測など産業用、細胞観察など医療用への展開も期待されています。

授与式は、2023年4月16 日に米国ネバダ州ラスベガスで開催される世界最大の放送関連の展示会NAB(National Association of Broadcasters)Show/conference の中で行われる予定です。

■ 研究概要
寺西 信一 氏は 固体撮像素子(CCDイメージセンサとCMOSイメージセンサ)の研究開発を35年以上にわたり行い、国際的に最も影響力のある技術的リーダーである。
固体イメージセンサの高性能化と実用化に携わり、その中でも、
1)埋込フォトダイオードの発明により、残像を除去し、暗電流・白傷の低減、低ノイズ化を実現した
2)高輝度被写体を撮像したときに発生するブルーミングやスミアを抑制するための垂直オーバーフロードレイン(VOD構造)や遮光構造の発明・提案を行った
3)画素の微細化を推進し、メガピクセル時代を拓き、HDTVやデジカメ、携帯電話カメラの普及に貢献した
等である。とりわけ、埋込フォトダイオードは、CCDイメージセンサと携帯電話用カメラに広く用いられているCMOSイメージセンサの両方で必須なものであり、固体撮像素子でもっとも重要な技術とみなされており、その発明者として世界的に知られているところである。
本技術は、2011年に世界で生産された固体撮像素子71億個のほぼすべて(99.99%以上)で使用され、必須の技術となっている。
今後の発展として、CMOSイメージセンサは携帯電話用カメラだけでなく、距離計測などの産業用、細胞観察などの医療用へ展開が期待されている。


■ 受賞者の略歴

   寺西 信一 (てらにし のぶかず)

寺西 信一 (てらにし のぶかず)

研究内容
・固体撮像素子(CCDイメージセンサおよびCMOSイメージセンサ)の研究開発

学歴
・昭和53年3月 東京大学理学系大学院物理学専攻修士課程修了

職歴
・昭和53年4月 日本電気株式会社 イメージセンサとカメラの開発に従事
・平成12年4月 同社退社
・平成12年4月 松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社
 イメージセンサの開発、マーケティングに従事
・平成25年5月 同社定年退職
・平成25年6月 国立大学法人静岡大学電子工学研究所特任教授(現在に至る)
 イメージセンサの研究開発に従事
 公立大学法人兵庫県立大学産業科学技術研究所特任教授(令和4年3月退職)
 X 線用のイメージセンサの開発に従事

主な受賞歴
・平成5年|全国発明表彰経済団体連合会会長発明賞「埋め込み型フォトダイオード」
・平成9年|科学技術庁長官賞研究功績者「高感度低雑音CCDイメージセンサの研究」
・平成12年|映像情報メディア学会丹羽高柳賞業績賞「CCDイメージセンサの研究開発と実用化」
・平成15年|映像情報メディア学会フェロー「高性能CCDイメージセンサの研究開発および実用化に関する貢献」
・平成22年|IEEE Fellow 「CCDイメージセンサ開発の功績」
・平成22年|英国王立写真協会進歩賞および名誉フェロー「埋込フォトダイオードを始めとするイメージセンサの先駆的開発」
・平成23年|米国写真協会進歩賞「埋込フォトダイオードの発明」
・平成25年|映像情報メディア学会丹羽高柳賞功績賞「固体撮像素子の飛躍的高性能化と国際競争力確立への貢献」
・平成25年|山崎貞一賞「埋め込みフォトダイオードを用いたイメージセンサの開発」
・平成25年|IEEE EDS J. J. Ebers Award「埋込フォトダイオード(Pinned photodiode)開発の功績」
・平成29年|Queen Elizabeth Prize for Engineering 「Digital imaging sensor」
・平成30年|紫綬褒章「発明改良」

■ エミー賞(Emmy Award)🄬とは

テレビ番組、業界の功績に与えられる賞である。映画のオスカー賞、ミュージカル演劇のトニー賞、音楽のグラミー賞と同様、もっとも権威ある賞の1つである。エミー賞にはジャンル別に賞が設けられている。当初は1つの団体が主催していたが、現在は3つの団体がそれぞれのジャンルを表彰している。
・プライムタイムエミー賞(NATAS主催)
・デイタイムエミー賞(NATAS主催)
・スポーツエミー賞(NATAS主催)
・ニュース・ドキュメントエミー賞(NATAS主催)
・技術・工学エミー賞(Technology and Engineering Emmy Award)(NATAS、ATAS主催)
・地域エミー賞(ATAS、NATAS主催)
・国際エミー賞(IATAS主催)

注1)
ATAS(Academy of Television Arts & Science):テレビ芸術科学アカデミー
NATAS(National Academy of Television Arts and Sciences):全米テレビ芸術科学アカデミー
IATAS(International Academy of Television Arts and Sciences):国際テレビ芸術科学アカデミー

注2)今回の受賞はNATAS主催の技術・工学エミー賞である。

賞の名称である「Emmy」は、賞創設当時のテレビカメラで使用されていた撮像管の一種イメージオルシコンの愛称「Immy」に由来すると言われている。
技術・工学エミー賞は、1947年に創設された。大幅な改善や革新的な技術開発や標準化に貢献した個人、企業、組織に贈られ、放送界でもっとも権威のある賞である。日本企業はテレビ技術の進歩に大いに貢献しており、多数受賞している。
エミー賞の今年の話題としては、韓国「イカゲーム」のプライムタイムエミー賞受賞、オバマ元大統領がプライムタイムエミー賞のクリエイティブアーツエミー賞ナレーション部門受賞である。



◆ 静岡大学長 コメント
本学電子工学研究所 寺西特任教授に技術・工学エミー賞の受賞が決定されましたこと、心よりお祝い申し上げます。

本学は、「テレビの父」高柳健次郎先生(浜松高等工業学校(現・工学部))が1926年にニポー円板による撮像とブラウン管による表示方法で「イ」の字の表示に成功し、世界で初めて電子式テレビジョンの実験を行いました。

この度寺西先生が、テレビ業界において革新的な技術開発の功績が認められ、受賞されましたことは、静岡大学にとりましても大変名誉なことであり、また、本学の学生・卒業生・教職員の大きな誇りと励みになります。

寺西先生におかれましては、静岡大学にて益々のご活躍を期待するとともに、科学技術の発展に貢献されることを願っております。

静岡大学長 日詰 一幸


◆ 電子工学研究所長 コメント
本研究所の寺西 信一 特任教授が、米国テレビ芸術アカデミーが主催する放送業界の国際的な賞である第74回技術・工学エミー賞を受賞されました。
寺西教授のこれまでの研究成果に敬意を表するとともに、お慶び申し上げます。

このたびの受賞理由が固体撮像素子の(CMOSイメージセンサやCCDイメージセンサ)の性能を飛躍的に向上させる埋込フォトダイオード(Pinned Photodiode)の発明であり、本技術は現在の撮像素子のほぼ全てに使用される基幹技術となっており、高柳健次郎先生のテレビの発明からスタートしている静岡大学電子工学研究所としても、テレビの歴史に新たな大きな貢献をすることができたことを大変栄誉に思います。

本受賞を大きな励みとして、本研究所では、さらに社会に貢献できるイメージング技術の実現に向け、研究開発を進めて参ります。

静岡大学 電子工学研究所
所長 木村 雅和



◆ 寺西 信一 特任教授 コメント
大変名誉なことであり嬉しいです。私が固体イメージセンサの開発を開始した1978年ごろ、ビデオカメラには撮像管が使われていました。そのころの目標は、ビデオカメラの最高峰である放送局用カメラに固体イメージセンサを使用してもらうようにする、でした。私共の発明である埋込フォトダイオードの貢献もあり、1990年代に放送局用カメラに固体イメージセンサが使用されるようになり、開発メンバーで大いに喜びました。そのような経緯がありますので、放送業界の国際的な賞であります、エミー賞の受賞は感慨ひとしおです。

固体イメージセンサの開発は多くのメンバーの貢献、お客様の要望や助言そして忍耐、製造現場の改善努力などどれ一つ欠けてもなり立ちません。この受賞を機会に、そういった大勢の方々のお蔭であることを思い返し、感謝の念で一杯です。

固体イメージセンサは、家庭用・業務用ビデオカメラ向け、その後デジカメ向け、さらには携帯電話向けとどんどん生産数量を大きくしていきました。内視鏡などの医療用、監視カメラ、パソコンやタブレット向け、車載用、ロボット・ドローンなどを含む産業用、ゲーム向け、科学用など用途を広げてきました。固体イメージセンサの黎明期からこのようにダイナミックな拡大期に固体イメージセンサの開発に携われたことは幸運でした。スマホに搭載されたカメラは通信技術や情報処理技術と相俟ってソーシャルメディアという新しい文化を創り出し、家族・知人との繋がりのため、web会議などのビジネスのためになったりします。時には大きな社会運動にまで発達した例も多々あります。写真やビデオの人々に与える影響の強さは、私どもが提案書を作成するときの常套的な言葉でしたが、実際の世界でそれを見せつけられると驚嘆でした。

60歳を契機に、メーカーから大学に籍を移しました。大学関係者のお蔭で引き続き固体イメージセンサの開発に従事しています。メーカーにいたときとは異なる視点を持ちたいと思いました。ノイズの低減や感度向上のための基礎技術の開発、可視光以外の光に感度を持つイメージセンサの開発、新しい機能の創造、などです。このように、今も引き続き固体イメージセンサの開発に従事でき、恵まれているとつくづく感謝しながら仕事を行っています。

申込み方法・問い合わせ先:

【研究概要に関する問合せ】
静岡大学電子工学研究所
ナノビジョン研究部門 イメージングデバイス分野
TEL:053-478-3250

【その他広報に関する問合せ】
静岡大学 総務部 広報・基金課
TEL:054-238-5179

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