乳酸菌が作るプレバイオティクス・菌体外多糖を食べる細菌 -多分岐デキストランを細かく分解してグルコースにする酵素の発見-

2023/06/20
プレスリリース

静岡大学グリーン科学技術研究所/農学部の 宮崎 剛亜 准教授 の研究グループは、山梨大学大学院総合研究部生命環境学域の 舟根 和美 教授、東京農工大学大学院農学研究院の 殿塚 隆史 教授との共同研究で、乳酸菌が産生する菌体外多糖を分解する酵素の遺伝子を土壌細菌のゲノム情報から発見し、酵素が多糖を分解してエネルギー源となるグルコースに変換する仕組みを明らかにしました。


【研究のポイント】

・土壌細菌Flavobacterium johnsoniae(フラボバクテリウム・ジョンソニエ)のゲノムから、乳酸菌の菌体外多糖を分解するための酵素の遺伝子を見出しました。

・X線結晶構造解析によって、酵素が菌体外多糖を分解する仕組みを原子・分子レベルで明らかにしました。

・複数の酵素と糖結合タンパク質が協同して乳酸菌の菌体外多糖を分解し、最終的にグルコースにして取り込むことによってエネルギー源とする一連の仕組みを明らかにしました。

  

細菌は分解者として他の生物がつくるさまざまな有機物を分解してエネルギー源を得ており、特に糖質を分解する酵素の種類は膨大であります。
生息環境に応じて糖質を分解する酵素を有しており、特に腸内細菌などにおいては、動物や植物がつくるオリゴ糖(*1)多糖(*2)を酵素によって分解してエネルギー源とする仕組みを明らかにした研究が近年増加しています。
一方で、細菌はさまざまな種類の菌体外多糖(*3)をつくりますが、他の細菌がそれを分解して利用するといった報告はほとんどありませんでした。
本研究では、乳酸菌の一種であるLeuconostoc citreum(ロイコノストック・シトレウム(*4)がつくる菌体外多糖である多分岐デキストランを分解するための酵素を、土壌細菌であるFlavobacterium johnsoniae(フラボバクテリウム・ジョンソニエ)(*5)から発見しました。
分解には複数の酵素がかかわっており、その鍵となる酵素が多分岐デキストランを認識して分解する機構をX線結晶構造解析(*6)によって明らかにしました。
フラボバクテリウム・ジョンソニエは、菌体外で多分岐デキストランをオリゴ糖に分解して取り込み、さらに単糖のグルコース(ブドウ糖)までに分解する仕組みを持っていることが分かりました。

本研究で見出された酵素の遺伝子は、土壌細菌のみならず一部の腸内細菌にも存在していることが明らかになりました。
Leuconostoc属細菌の菌体外多糖はプレバイオティクス(*7)効果があることが報告されており、今後、その分子機構の解明につながると期待されます。

なお、本研究成果は、2023年6月1日に、米国生化学・分子生物学会の発行する国際雑誌「Journal of Biological Chemistry」にオンライン掲載されました。


【研究者コメント】

静岡大学グリーン科学技術研究所 准教授・宮崎 剛亜(みやざき たかつぐ)
本研究は、博士課程3年生の中村駿太郎君(創造科学技術大学院自然科学系教育部バイオサイエンス専攻)が、先行研究(α-1,2-グルコシダーゼの発見)を基に発案したアイディアから発展したもので、微生物の巧みなエネルギー獲得戦略の一端を明らかにすることができました。


【用語説明】

1.オリゴ糖
グルコース(ブドウ糖)などの単糖が2個~10個程度結びついた糖の総称。身近なオリゴ糖にはスクロース(ショ糖)やラクトース(乳糖)などがあり、さまざまな機能性がある。

2.多糖
単糖が10~20個以上結びついた糖の総称。構成する単糖や結合様式によってさまざまな構造や性質を示す。グルコースから構成される多糖として澱粉、デキストラン、セルロースなどがあり、すべて結合様式が異なる。

3.菌体外多糖
細菌や真菌といった微生物が菌体外に産生・分泌する多糖の総称。微生物が宿主などに接着するための因子や微生物自体を保護するバイオフィルムとしての機能をもつ。

4.Leuconostoc属
漬物やキムチ、チーズといった発酵食品の生産に利用される細菌種が属する。Leuconostoc mesenteroides(ロイコノストック・メセンテロイデス)やLeuconostoc citreumが産生する菌体外多糖は、スクロースを原料にグルカンスクラーゼと呼ばれる酵素によって作られ、同種間でも分岐などの構造が多様であることが知られている。Leuconostoc mesenteroidesの菌体外多糖はプレバイオティクス効果が報告されている。Leuconostoc citreum S-32株は製糖工場から見つかった菌株である。

5.Flavobacterium johnsoniae
多糖の一つであるキチンを分解する細菌として土壌から見つかった。ゲノム解析が完了しており、さまざまな多糖を分解する能力や滑走運動する能力に注目した研究がされている。

6.X線結晶構造解析
タンパク質などの高分子の立体構造を決定するための手法の一つである。結晶にX線を照射して取得する回折パターンから電子密度情報が得られ、タンパク質の立体構造を原子レベルで解明することができる。

7.プレバイオティクス
大腸内の特定の細菌の増殖を選択的に促進し、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分である。

申込み方法・問い合わせ先:

(研究に関すること)
静岡大学 グリーン科学技術研究所 生物分子機能研究コア/農学部 応用生命科学科
准教授・宮崎 剛亜(みやざき たかつぐ)
TEL : 054-238-4886
E-mail : miyazaki.takatsugu[at]shizuoka.ac.jp
研究室ウェブサイト:https://wwp.shizuoka.ac.jp/glycoenzyme/

山梨大学大学院総合研究部生命環境学域地域食物科学科
教授・舟根 和美(ふなね かずみ)
TEL : 055-220-8468
E-mail : fkazumi[at]yamanashi.ac.jp
研究室ウェブサイト: https://www.ccn.yamanashi.ac.jp/~fkazumi/

東京農工大学 大学院農学研究院 応用生命化学部門
教授・殿塚 隆史(とのづか たかし)
TEL : 042-367-5702
E-mail : tonozuka[at]cc.tuat.ac.jp
研究室ウェブサイト:http://web.tuat.ac.jp/~seika/


(報道に関すること)
静岡大学 総務部 広報・基金課
TEL : 054-238-5179
E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp

山梨大学 総務企画部 総務課 広報企画室
TEL:055-220-8005,8006
E-mail:koho[at]yamanashi.ac.jp

東京農工大学 総務部 企画課 広報係
TEL : 042-367-5930
E-mail : koho2[at]cc.tuat.ac.jp

※[at]を@に変更してご利用ください。

JP / EN