動物のスフィンゴ糖脂質を構成するオリゴ糖を分解する酵素を細菌のゲノムから発見 -腸内細菌と土壌細菌から見つかったα-1,4-ガラクトシダーゼの立体構造を解明-
静岡大学 グリーン科学技術研究所 生物分子機能研究コア/農学部 の 宮崎 剛亜 准教授 の研究グループは、腸内細菌および土壌細菌から、動物のスフィンゴ糖脂質を構成するオリゴ糖を分解することができる酵素α-1,4-ガラクトシダーゼを発見し、その分子構造を明らかにしました。
【研究のポイント】
・腸内細菌Bacteroides salyersiaeと土壌細菌Flavihumibacter petaseusのゲノムから、動物のスフィンゴ糖脂質に見られるオリゴ糖を分解する酵素を発見しました。
・この酵素はグロボトリオースのα-1,4-ガラクトシド結合に特異的に作用し、他のα-ガラクトシドにはほとんど作用しない、厳密な基質特異性を有していました。
・X線結晶構造解析によって、酵素がオリゴ糖を厳密に認識して加水分解する仕組みを原子レベルで明らかにしました。
本研究は、さまざまな細菌のゲノム情報を活用し、既知の酵素とアミノ酸配列相同性が低い機能未知タンパク質から新規活性酵素を見出すことを目的として行われました。
マルトース(麦芽糖)を分解するα-グルコシダーゼ(マルターゼ)やオリゴ糖(*1)製造に利用されるようなさまざまな有用酵素が属する糖質加水分解酵素ファミリー31(GH31)(*2)に着目し、既知の糖質加水分解酵素とアミノ酸配列相同性が低い機能未知タンパク質の遺伝子を研究対象としました。
本研究では、腸内細菌Bacteroides salyersiae(バクテロイデス・サリエルシエ)(*3)と土壌細菌Flavihumibacter petaseus(フラビフミバクター・ペタセウス)(*4)のゲノムから、動物のスフィンゴ糖脂質であるグロボトリアオシルセラミド(*5)を構成するオリゴ糖であるグロボトリオースを加水分解してガラクトースを遊離するGH31 α-1,4-ガラクトシダーゼの遺伝子を見出しました。
これまで知られている細菌由来α-ガラクトシダーゼはα-1,3結合やα-1,6結合に特異的に作用するものや基質特異性が広いものであり、α-1,4-ガラクトシド結合に特異的な細菌由来酵素は知られておらず、本研究が初めての例になります。
また、X線結晶構造解析(*6)によって酵素の分子構造を明らかにすることに成功し、酵素が基質のオリゴ糖を認識して加水分解する分子メカニズムを明らかにしました。
本研究は、腸内細菌が宿主のスフィンゴ糖脂質の糖鎖を分解している可能性を示唆するとともに、細菌の新しい糖質資化経路の発見につながります。
また、これらの酵素の反応を利用した糖質の検出や糖質の構造解析研究への応用につながると期待されます。
なお、本研究成果は、2023年7月12日に、欧州生化学会連合の発行する国際雑誌「FEBS Journal」にオンライン掲載されました。
【研究者コメント】
静岡大学グリーン科学技術研究所 准教授・宮崎 剛亜(みやざき たかつぐ)
本研究は、博士課程 3 年生の池谷真里奈さん(自然科学系教育部バイオサイエンス専攻)が、以前の研究(α-1,3-グルコシダーゼの発見)に続き、新規酵素の探索と解析に注力してくれた成果です。
微生物にはまだ知られていない活性を持ち、有用な酵素が眠っている可能性が大いにあります。
【論文情報】
掲載誌名:FEBS Journal
論文タイトル:Structure-function analysis of bacterial GH31 α-galactosidases specific for α-(1→4)-galactobiose
著者:Marina Ikegaya, Enoch Y. Park, Takatsugu Miyazaki
DOI:10.1111/febs.16904
【用語説明】
1. オリゴ糖
グルコース(ブドウ糖)やガラクトースなどの単糖が2個~10個程度結びついた糖の総称。身近なオリゴ糖にはスクロース(ショ糖)やラクトース(乳糖)などがある。
2. 糖質加水分解酵素ファミリー31(GH31)
糖質加水分解酵素はアミノ酸配列相同性に基づき、現在180を超えるファミリーに分類され、CAZyデータベース(http://www.cazy.org/)にまとめられている。GH31はそのうちの一つのファミリーであり、真核生物、細菌、古細菌といった様々な生物の酵素が属している。代表的なものは、澱粉やマルトースに作用するα-グルコシダーゼであるが、他にもα-キシロシダーゼやα-ガラクトシダーゼといった、α-グリコシドに作用する酵素が含まれている。また、糖転移反応を触媒し、オリゴ糖の製造に利用される酵素も知られている。
3. Bacteroides salyersiae(バクテロイデス・サリエルシエ)
ヒトの虫垂の組織から単離された腸内細菌。ゲノムが解読されており、300に近い数の推定糖質加水分解酵素の遺伝子を保有している。
4. Flavihumibacter petaseus(フラビフミバクター・ペタセウス)
ネパールの亜熱帯多雨林の土壌から単離された細菌。ゲノムが解読されている。
5. グロボトリアオシルセラミド
スフィンゴ糖脂質の一つであり、セラミドにガラクトースとグルコースからなる三糖が結合した構造をもつ。志賀毒素のレセプターとしても知られる。ヒトではリソソームのα-ガラクトシダーゼの変異による活性低下が原因でグロボトリアオシルセラミドが蓄積し、遺伝性疾患のファブリー病が引き起こされる。
6. X線結晶構造解析
タンパク質などの高分子の立体構造を決定するための手法の一つである。結晶にX線を照射して取得する回折パターンから電子密度情報が得られ、タンパク質の立体構造を原子レベルで解明することができる。
問い合わせ先:
(研究に関すること)
静岡大学 グリーン科学技術研究所 生物分子機能研究コア/農学部 応用生命科学科
准教授・宮崎 剛亜 (みやざき たかつぐ)
TEL : 054-238-4886
E-mail : miyazaki.takatsugu[at]shizuoka.ac.jp
研究室ウェブサイト: https://wwp.shizuoka.ac.jp/glycoenzyme
(報道に関すること)
静岡大学 広報・基金課
TEL : 054-238-5179
E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp
※[at]を@に変更してご利用ください。