昆虫細胞内共生細菌を活用して害虫防除 ~オス殺し細菌を制御する2種類の方法を開発~

2023/08/25
プレスリリース

静岡大学学術院農学領域の 田上 陽介 准教授 の研究グループは、岐阜大学、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)との共同研究で昆虫の体内に生息する共生微生物の密度を人為的に制御する2つの新技術を開発しました。

【研究のポイント】
・地球上でもっとも繁栄している昆虫にはその約半数の種に細胞内共生細菌ボルバキア(Wolbachia)が感染すると見積もられています(図1
アズキノメイガ(Ostrinia scapulalis)という蛾は豆類などに被害を及ぼすヨーロッパからアジアに分布する大害虫です(図2
・アズキノメイガはボルバキアに感染しており、宿主のオスを選択的に胚子発育から幼虫期に殺す、オス殺しという現象をひき起こします
・宿主側が持つ細胞内の異物や老廃物を除去する仕組みとしてオートファジー機構があります
・細菌側が持つ細菌同士のコミュニケーション手段としてクオラムセンシング機構があります
・オートファジーやクオラムセンシングを特定の化学物質投与を通じて撹乱することで、昆虫体内におけるボルバキア密度を制御する手法の開発に成功しました
・さらにボルバキアによる宿主のオスを殺す働きを弱くさせ、オスを産ませることに成功しました
・昆虫の餌にオートファジーやクオラムセンシングを攪乱する化学物質を混和して経口投与するという簡易的な操作により、自在に共生細菌の密度を上昇・減少させる技術は、新規害虫駆除技術や天敵などの益虫の効率的生産技術、さらには、昆虫間で細胞内共生細菌を移植し、定着させる技術の開発につながることが期待されます

なお、本研究成果は、2023年2月24日と4月15日に国際雑誌「Applied Entomology and Zoology」に2報掲載されました。

【用語説明】
【用語説明】
アズキノメイガ:野菜や花きの世界的重要害虫
ボルバキア:昆虫を中心に様々な生物の細胞内に感染している細菌
オス殺し:細菌などによって誘導されるオス致死現象
オートファジー:ここでは細胞内の異物除去を示す
クオラムセンシング:微生物間の化学物質を介したやりとり

 図1:細胞内のボルバキア

図1:細胞内のボルバキア

 図2:アズキノメイガ

図2:アズキノメイガ

問い合わせ先:

(研究に関すること)
静岡大学農学部
准教授 田上 陽介
TEL : 054-238-4825
E-mail : tagamiy[at]shizuoka.ac.jp

(報道に関すること)
静岡大学 広報・基金課
TEL : 054-238-5179
E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp

※[at]を@に変更してご利用ください。

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