スギヒラタケ摂取による急性脳症の化学的解明 -発症における3つの成分の関与-

2023/09/07
プレスリリース

静岡大学農学部の河岸洋和特別栄誉教授は、2004 年に発生したスギヒラタケ急性脳症を長年にわたり研究し、化学的に解明しました。
その18年間に及ぶ一連の研究成果は、2023年7月31日に、日本学士院の発行する国際雑誌「Proceedings of the Japan Academy, Ser. B, Physicaland Biological」に掲載され、表紙を飾りました。

【研究のポイント】

・スギヒラタケは、東北、北陸、中部地方を中心に広く食されていた美味なキノコ
・ところが、2004 年秋に、このキノコの摂取により、急性脳症が発生(死亡例17)
・この事件は戦後最悪の食中毒事件
・その後厚生労働省は研究班を組織したが「原因不明」と結論
・研究班の班員であった河岸は、その後も研究を継続
・このキノコから、タンパク質であるpleurocybelline(PC)とPleurocybella porrigens lectin(PPL)、低分子であるpleurocybellaziridine(PA)の3つの物質を発見
・この3つの成分がこの脳症の発症に関与することを動物実験で証明


スギヒラタケ(Pleurocybella porrigens)は日本で広く食されていましたが、2004 年秋、日本でこのキノコの摂取による急性脳症が発生し17 名の患者が亡くなりました。
河岸らは、この急性脳症の発症機構を化学的に明らかにするために、キノコの研究を続けてきました。
その結果、タンパク質であるpleurocybelline(PC)とPleurocybella porrigens lectin(PPL)、低分子であるpleurocybellaziridine(PA)の3つの物質を発見しました。
そして、「3成分による急性脳症発症機構」を提唱しました。
すなわち、PC とPPL が複合体を形成することによってタンパク質分解酵素活性を示し、血液-脳関門を破壊し、PA によって、このキノコによる特異な症状を惹起することを動物実験などで明らかにしたのです。
この事件は戦後最悪の食中毒事件と言われています。
そして、3つもの物質が毒性に関与する食中毒例はこれまで見受けられません。
今後、起こるかもしれない前例の無い食中毒の解明のためのモデルケースになると期待されます。


【研究者コメント】

静岡大学農学部 特別栄誉教授・河岸 洋和(かわぎしひろかず)


「3成分による急性脳症発症機構」は研究の初期に思いつきました。しかし、動物実験での証明が非常に難しく長い年月がかかりました。しかし、私の教え子で博士論文の課題としてこのキノコの研究を開始した鈴木智大博士(宇都宮大学准教授)の努力によって、動物実験でこの説を証明されました。そして2022年末にその論文を発表しました。
この総説は私たちの18年間の研究をまとめたものです。
鈴木氏の献身に深謝いたします。

問い合わせ先:

(研究に関すること)
静岡大学農学部
特別栄誉教授・河岸洋和 (かわぎしひろかず)
TEL : 054-238-4885
E-mail : kawagishi.hirokazu[at]shizuoka.ac.jp

(報道に関すること)
静岡大学 広報・基金課
TEL : 054-238-5179
E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp

※[at]を@に変更してご利用ください。

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