キノコのfruiting liquidから新規物質の発見

2023/09/07
プレスリリース

キノコのfruiting liquidから新規物質の発見
-子実体形成誘導物質、低酸素誘導因子阻害物質、Axl阻害物質-


静岡大学農学部の河岸洋和特別栄誉教授と呉静特任助教の研究グループは、新たな生物活性物質源であるキノコの「fruiting liquid」から、子実体形成誘導活性物質、低酸素誘導因子阻害及びAxl阻害物質を発見しました。

【研究のポイント】

・キノコ類は子実体(いわゆるキノコ)から胞子、胞子から菌糸、菌糸から子実体という生活環をもつ
・子実体が発生する直前に菌糸体表面に分泌された液体に注目し、fruiting liquid(FL)と命名
・クリタケFL及びヤマブシタケFLを大量に入手(栽培ポット数千個から採取)し、子実体形成誘導物質、低酸素誘導因子阻害物質及びAxl阻害物質を発見
・FLからの生物活性物質の発見は今回が世界で初めて


あらゆるキノコは発生する直前に菌糸体表面に液体を分泌します。
我々はこれまで誰も注目していなかったこの液に着目し、fruiting liquid(FL)と命名しました。
FLは子実体発生に深く関与し、キノコ発生ホルモンを含む可能性があると考えています。
本研究は、クリタケFL及びヤマブシタケFLから4つの新規化合物の単離に成功しました。
これらの化合物は子実体形成誘導活性、低酸素誘導因子阻害活性及びAxl阻害活性を有することが明らかになりました。
本研究で得られた研究成果は、今後、商業的キノコ栽培に対して、キノコの発生を人為的に制御(一日当たりのキノコ発生量を制御)することにつながると期待されます。
なお、本研究成果は、2023年8月31日に、アメリカ化学会の発行する国際雑誌「Journal of Agricultural and Food Chemistry」にオンラインで公表され、「ACS Editors’Choice」に選ばれました(https://pubs.acs.org/editorschoice)。


【研究者コメント】

静岡大学農学部 特別栄誉教授 河岸 洋和(かわぎしひろかず)


キノコホルモンは一切明らかにされていません。私は「キノコ生活環の各段階は特有のホルモンによって制御されている」という仮説を抱き続けてきました。キノコホルモン発見の糸口になる研究成果は国内外を通じて一切ありません。また、私は30年以上のキノコ研究の中で、菌類が子実体を発生させる直前に液体を分泌する共通の現象に気づいていました。そして、この液体が子実体形成に深く関与していると考え、fruiting liquid(FL)と命名しました。発見した子実体形成誘導物質は、人為的に一日当たりのキノコ発生量を制御することにつながると期待されます。自然科学の分野で日本人が用語を作るというのは希なケースだと思います。

 Fruiting liquid(FL)から生物活性物質の発見

Fruiting liquid(FL)から生物活性物質の発見

問い合わせ先:

(研究に関すること)
静岡大学農学部
特別栄誉教授・河岸洋和 (かわぎしひろかず)
TEL : 054-238-4885
E-mail : kawagishi.hirokazu[at]shizuoka.ac.jp

(報道に関すること)
静岡大学 広報・基金課
TEL : 054-238-5179
E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp

※[at]を@に変更してご利用ください。

JP / EN