赤果肉リンゴ品種『紅の夢』に発生する斑点状障害の発生が有袋栽培により防止されるメカニズムを解明しました

2024/02/15
プレスリリース

静岡大学農学部の 松本 和浩 教授 の研究グループは、弘前大学との共同研究で、赤果肉リンゴ品種‘紅の夢’の栽培上の最大の課題である、斑点状障害の問題解決に取り組み、有袋栽培で防止可能なメカニズムを明らかにし、新たな防除法の開発への足掛かりを得ました。


【研究のポイント】

・近年、栽培が拡大している赤果肉リンゴ品種は、果実表面に斑点状障害が多発し、果実品質が低下する。同研究チームは有袋栽培により障害をほぼ完全に防止可能であることを明らかにしていたが、そのメカニズムは不明であり、新たな簡便な防止法の開発のネックとなっていた。
・本研究では、果実の肥大曲線、発生部の解剖学的観察およびCTスキャンによる非破壊深層解析等により、斑点状障害が果皮の果点と果肉の維管束の先端との間に発生することを明らかにした。
・有袋栽培は開口した果点数を減少させ、果実外側への水分ストレスを軽減することで斑点状障害を防止していると考えられた。

松本和浩教授の研究グループが開発した赤肉リンゴ品種や同様の交配親を用いた品種群は、栽培が普及する中で新規の斑点状障害が発生することが問題になっていました。
この障害は有袋栽培により防止可能ですが、労働力が必要なことから、新たな簡便な防止法の開発が望まれています。

本研究では、発生のメカニズムをCTスキャンなどこれまで果実に使われることの少なかった機器を用いて形態学的に調査し、障害の発生部位が果皮の果点と、果肉の維管束の先端の間の部分であることを突き止めました。
この部分は最も水分ストレスを受けやすい部分です。
しかし、有袋栽培により、果点が閉鎖され果実外側への水分ストレスが軽減されることから障害が発生しなくなったものと考えられました。
今後は得られたメカニズムをもとに、新たな防除法を開発していきます。

なお、本論文の筆頭著者は、2019年に本学修士課程を修了した井村瑛智氏であり、現在はそれらの知見を活かし、地方独立行政法人青森県産業技術センターりんご研究所で研究を継続しています。

本研究成果は、2024年1月27日に、国際雑誌「Plants」に掲載されました。

【研究概要】
静岡大学農学部の松本和浩教授の研究グループは、弘前大学との共同研究で、赤果肉リンゴ品種 ‘紅の夢’ の斑点状障害が有袋栽培によって防止される機構を解明した。
斑点状障害は、果皮の開口果点と維管束の間に発生することが明らかになったことから、今後は、労働負荷の高い袋掛けに代わる、斑点状障害の防除に有効的な手法を検討していく。

【研究背景】
近年、栽培が拡大している赤果肉リンゴ品種は、栽培時に斑点状障害が多発している。
斑点状障害の防除には、有袋栽培が有効であることが知られているが、そのメカニズムは未解明である。

【研究の成果】
斑点状障害は、果皮の果点と維管束の間に発生することが明らかになった。有袋栽培は開口した果点を減少させ、水分ストレスを軽減していると考えられた。

【今後の展望と波及効果】
有袋栽培により斑点状障害が防除される機構が明らかになったことで、労働負荷の高い袋掛け作業に代わる、斑点状障害の防除に有効的な手法を検討することが可能となった。
今後も弘前大学と共同研究を行い、リンゴの栽培にかかる諸問題のメカニズムの解明にかかる基礎的研究と、栽培現場での課題解決に向けた応用研究を両立していく。

【論文情報】
掲載誌名: Plants

論文タイトル: Unraveling the mechanism of cork spot-like physiological disorders in ‘Kurenainoyume’ apples based on occurrence location

著者: Eichi Imura 1,2, Mitsuho Nakagomi 1, Taishi Hayashida 3, Tomomichi Fujita 3, Saki Sato 3, and Kazuhiro Matsumoto1,*
1: 静岡大学農学部 2: 地方独立行政法人青森県産業技術センターりんご研究所 3: 弘前大学農学生命科学部藤崎農場

DOI:https://doi.org/10.3390/plants13030381

【研究助成】
本研究は、科研費(日本学術振興会)の助成によって行われました(16K18647)。

【用語説明】
‘紅の夢’:弘前大学で育成され、2010年に品種登録された、赤色果肉品種です。これまで、赤色果肉品種の課題であった、強い酸味や渋味が抑えられ、生食でも加工してもおいしく食べられます。

問い合わせ先:

(研究に関すること)
静岡大学農学部園芸イノベーション学研究室 教授・松本和浩(まつもとかずひろ)
TEL : 054-238-5149
E-mail : matsumoto.kazuhiro[at]shizuoka.ac.jp

(報道に関すること)
静岡大学 広報・基金課
TEL : 054-238-5179
E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp

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