発声を巧みに利用して打率アップ!? -複数の球種の効果的な打ち分けを可能にする脳の仕組み-
たとえばテニスのラリーの最中など、スポーツ競技中に選手が打動作に合わせて発声している場面がしばしば見受けられます。従来の研究では、運動応答に伴う発声(補足発声)には、発揮筋力を向上する効果があることが報告されてきました。
本学情報学部の 宮崎 真 研究室(筆頭著者:夏目 柊・情報学専攻修了)は、新たに、発声などの補足動作を利用することによって、運動タイミングの正確さを向上できることを明らかにしました。
この成果は、英国王立協会紀要(Proceeding of the Royal Society B)で刊行される予定です。
▶背景:
脳は、タイミング課題において、標的の統計分布 (平均、 分散) を学習し、課題成功率を高めています(“ベイズ推定”)。従来の研究の多くでは、一つの分布の学習を調べてきました。
しかし、たとえばバッティングでは、相手投手は複数の球種(例:速球/遅球)を投げ分けます。
つまり、日常の課題でベイズ推定を有効活用するためには、複数の統計分布を学び分けることが必要です。
▶方法と結果:
本研究の実験中、参加者は、視覚刺激のタイミングに合わせて利き手でボタン押しを行いました。
この課題の標的の統計分布として、短時分布(≈速球)と長時分布(≈遅球)の2種類を設定しました。
実験の結果、これら二つの分布のいずれか一方を狙って、発声や非利き手の応答を補足したグループでは、それらの分布を効果的に学び分けることができました。
▶意義と展望:
この結果に基づけば、特定の球種に狙いを定めて、打動作に合わせて発声したり、非利き手を握りしめたりすることにより、各球種に適したタイミングを取ること(∝ 打率アップ)が可能となることが予想されます。本成果は、脳が日常環境での多様なイベントを学び分ける仕組みを明らかにし、スポーツ技能の向上法の提案やスポーツ選手の優れた技能の秘訣を解析するための基盤知見となることが期待されます。
【ポイント】
・脳は、課題標的の統計分布を学習し、最も成功率の高くなる応答を計算している (“ベイズ推定”)
・従来の研究の多くでは、単一の分布のみを参加者に経験させて、その学習の可否を調べてきた
・しかし、日常の課題標的(例:投球)には多様な統計分布(例:速球/遅球)が存在
・本研究は、スポーツ場面でしばしば見受けられる「補足動作」に着目
・補足動作の有無によって、学習した技能の記憶のされ方が異なることを示唆する知見がある
・補足動作を利用することにより複数の分布の学習が可能になると予想
・実験の結果、タイミング課題で、短時分布(速球)、長時分布(遅球)のいずれか一方を狙って、発声や非利き手の応答を補足すると、参加者はそれらの分布を効果的に学び分けることができた
・この結果に基づけば、たとえばテニスのレシーブでは、特定の球種に狙いを定めて、発声したり、非利き手を握りしめるなどの補足動作を行うことにより、その成功率が上がる可能性が予想される
・本成果は、日常環境で多様なイベントを学び分ける脳の仕組みを明らかにし、スポーツ技能の向上法の提案やスポーツ選手の優れた技能の秘訣を解析するための基盤知見となることが期待される
【論文情報】
■論文タイトル
Concomitant motor responses facilitate the acquisition of multiple prior distributions in human coincidence timing
■著者
・夏目 柊(静岡大学 大学院総合科学技術研究科情報学専攻, 2023年3月修了・現 株式会社デンソー)
・Neil W. Roach(ノッティンガム大学, 英国)
・宮崎 真(静岡大学 学術院情報学領域)
■掲載誌
Proceeding of the Royal Society B: Biological Sciences(英国王立協会紀要:生物科学)
■出版予定日
2025年1月29日 (水)
■出版元
The Royal Society(英国王立協会)
■論文オンライン掲載予定URL(オープンアクセス:無料で閲覧できます)
https://doi.org/10.1098/rspb.2024.2438
問い合わせ先:
静岡大学情報学部情報科学科
宮崎 真
TEL:053-478-1450
E-mail:brain[at]inf.shizuoka.ac.jp
※[at]を@に変更してご利用ください。