高活性リグニン分解菌 Phanerochaete sordida YK-624株における新規シトクロムP450酵素スクリーニング系を構築 -環境浄化やバイオ変換への応用に期待-

2025/06/05
プレスリリース

高活性リグニン分解菌 Phanerochaete sordida YK-624株における
新規シトクロムP450酵素スクリーニング系を構築
-環境浄化やバイオ変換への応用に期待-


静岡大学グローバル共創科学部の平井 浩文教授の研究グループは、高活性リグニン分解菌 Phanerochaete sordida YK-624株に存在する214個のシトクロムP450モノオキシゲナーゼ(CYP)遺伝子を網羅的に解析し、機能評価を可能にする新たなスクリーニングシステムを構築しました。


【研究のポイント】

・高活性リグニン分解菌Phanerochaete sordida YK-624株に存在する214個のCYP遺伝子を網羅的に同定。
・CYPとCYP還元酵素の組み合わせによる異種発現スクリーニング系を構築。
・本スクリーニング系により4種の環境汚染物質の分解を行い、分解に関与するCYPの同定に成功。

本研究は、各種環境汚染物質の分解に優れている高活性リグニン分解菌 P. sordida YK-624株のCYP遺伝子異種発現系を構築し、本異種発現系を用いて実際に環境汚染物質の分解を試み、環境汚染物質分解に関与するCYPの同定に成功しました。

P. sordida YK-624株におけるCYPの網羅的な分類と、新規に開発した機能評価系を用いた活性評価を行うことで、環境汚染物質のバイオレメディエーションや医薬品前駆体の生産など多方面への応用が期待されます。

この研究成果は、Elsevier社発行の国際学術誌「Journal of Hazardous Materials」に2025年6月5日付で掲載されました。


【研究者コメント】

静岡大学グローバル共創科学部 教授 平井 浩文(ひらい ひろふみ)

これまで P. sordida YK-624株を用いた環境汚染物質の分解・無毒化の研究を展開してきており、大部分の環境汚染物質の分解にCYPの関与が推察されていましたが、「どのCYPが関与しているのか?」という疑問をずっと持ち続けていました。
それを解明出来る系を構築出来て、非常にうれしく思います。

【研究概要】

本研究では、高活性リグニン分解菌 P. sordida YK-624株のゲノム上に存在するCYP遺伝子を網羅的に解析し、その機能評価を可能とする異種発現スクリーニングシステムを構築しました。
酵母を用いた発現系により、実際に機能するCYP酵素の同定に成功し、本菌の代謝ポテンシャルの一端が明らかになりました。


【研究背景】

白色腐朽菌は、木材中の主要成分であるリグニンを高度に分解出来る唯一の微生物であり、近年では、難分解性有機化合物の分解が注目されています。
特にCYPは、環境汚染物質分解、天然物合成、医薬品のバイオ変換などに関与する多機能酵素として知られています。
しかしながら、その種類の多さと機能の多様性ゆえに、酵素個々の機能解明は困難であり、包括的な評価系の構築が求められていました。


【研究の成果】

本研究では、高活性リグニン分解菌 P. sordida YK-624株ゲノム上から214個のCYP遺伝子を同定し、そのうち208個を31のファミリーに分類、6個は新規または未分類の可能性あることを突き止めました。
得られたCYP遺伝子とCYP還元酵素遺伝子を組み合わせた異種発現系(酵母システム)を構築し、これを用いて、実際の環境汚染物質分解に関与するCYPの探索を実施し、実際に触媒活性を示すCYPの同定に成功しました。


【今後の展望と波及効果】

今回確立したスクリーニング系を活用することで、これまで未解明であったCYPの機能同定が加速されると期待されます。
これにより、医薬品前駆体や高付加価値化合物のバイオ変換、環境中の難分解性汚染物質の分解など、幅広い分野での応用が見込まれます。
さらに、本技術は他の菌類や微生物への展開も可能であり、今後の生物資源開発における基盤技術となる可能性があります。


【論文情報】

掲載誌名:Journal of Hazardous Materials
論文タイトル:Construction of a comprehensive functional screening system for Phanerochaete sordida YK-624 cytochrome P450s: Identification of catalytic enzymes for emerging contaminant degradation
著者:Ru Yin, Yuta Nayuki, Wonhi Park, Ruka Matsuura, Chuichiro Otomaru, Haruka Yamada, Akiko Ono, Hirofumi Ichinose, Toshio Mori, Hirokazu Kawagishi, Hirofumi Hirai
DOI:10.1016/j.jhazmat.2025.137666


【研究助成】

科学研究費補助金・基盤研究(A)、白色腐朽菌の環境汚染物質代謝能の意義解明及び汚染環境浄化への発展的応用、研究代表者、21H04744、2021~2024年度


【用語説明】

・シトクロムP450:
ヘム鉄を含む酵素群の総称で、さまざまな生物(ヒト、動植物、微生物等)に広く存在する。
主に酸化反応を担い、内因性および外因性の化合物の代謝に関与している。

・バイオレメディエーション:
微生物や菌類、植物などの生物の力を使って、環境中の汚染物質を分解・除去・無害化する技術。
化学薬品を使わずに汚染を除去できるため、環境にやさしい浄化手法として注目されている。

・白色腐朽菌:
木材の主要成分であるリグニンを高度に分解できる真菌(カビ・キノコ類)の一群。
自然界において、植物バイオマス(木材など)の完全分解に重要な役割を担っている。

申込み方法・問い合わせ先:

(研究に関すること)
静岡大学グローバル共創科学部
教授・平井 浩文 (ひらいひろふみ)
TEL : 054-238-4853
E-mail : hirai.hirofumi[at]shizuoka.ac.jp

(報道に関すること)
静岡大学 広報・基金課
TEL : 054-238-5179
E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp

※全て[at]を@に変更してご利用ください。

JP / EN