シリコンで深紫外光を捉える新技術を開発 -ウイルス殺菌のモニタリングや火災検知など衛生・防災分野への応用に期待-
静岡大学電子工学研究所の川田 善正教授、居波 渉教授、小野 篤史教授の研究グループは、深紫外光に対する高感度なシリコン半導体光検出器の開発に成功しました。
【研究のポイント】
・Si半導体が深紫外光に対して金属的な光学応答を示す点に着目
・Si表面への凹凸形成という簡便な加工で、深紫外光感度が大幅に向上することを発見
・金属に生じる表面プラズモン共鳴現象がSi半導体でも励起されることを提示
・衛生・防災用途の高感度センサとして有望
本研究では、代表的な半導体材料であるシリコンに微細な周期凹凸構造を形成することにより、深紫外光に対して高い感度を示す光センサの開発に成功しました。
深紫外光はウイルスや細菌の殺菌、また炎の発光に関係しており、その光検出技術は感染症対策や火災の早期発見といった社会的課題の解決に役立ちます。
静岡大学の研究グループは、金属を使わずにシリコン表面でプラズモン共鳴と呼ばれる光の共鳴現象を起こすことによって、感度が従来よりも大幅に向上することを発見しました。
この発見により、従来のシリコンセンサでは困難であった深紫外領域での光検出が可能となり、安価で高性能な紫外線センサの開発に大きく貢献することが期待されます。
医療機関や公共施設における深紫外線管理の高度化や、屋内外の防災監視技術のさらなる進展が見込まれます。
なお、本研究成果は2025年6月5日付にて、米国物理学会の発行する国際科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載されました。
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.134.226901
【研究者コメント】
静岡大学電子工学研究所 教授・小野 篤史(おの あつし)
長年の経験を信じて強い信念を持って研究を進めたことで今回の発見につながりました。
これまで誰も取り組んだことのない研究であり、成功するか分からない状況でしたが、一歩踏み出して行動することの重要性が感じられた研究でした。
【研究概要】
本研究では、代表的な半導体材料であるシリコン表面に微細な周期凹凸構造を形成することにより、深紫外(DUV)領域の光を高感度に検出する光センサを開発しました。
シリコン光検出器は、光エネルギー吸収に伴うシリコン中の励起電子を電流として信号検出します。
本研究ではシリコンに励起される表面プラズモン共鳴現象を利用することにより、深紫外光検出効率が大幅に向上することをを世界で初めて実証しました。
これにより、低コストかつ高性能な紫外光センサの新たな実現方法を示しました。
【研究背景】
近年の半導体リソグラフィ技術の進展や、ウイルス検出、炎検知など、紫外光センサの需要が高まってきています。
しかし、従来のシリコンフォトダイオードの深紫外光感度は0.1A/W程度と低く、これらの用途への応用のためにはさらなる高感度化が求められています。
【研究の成果】
本研究では、シリコン表面にサブミクロンスケールの周期的な凹凸構造を形成することにより、表面プラズモン共鳴が励起され、深紫外光に対する感度が飛躍的に向上することを発見しました。
従来、表面プラズモン共鳴励起のためには金属を用いることが一般的ですが、私たちはシリコンが深紫外光に対して金属的な光応答を示すことに着目し、シリコン上での表面プラズモン共鳴励起を実証しました。
表面プラズモン共鳴励起に伴い励起電子確率が大幅に向上し、光検出効率が凹凸形成前と比較して3倍以上改善することを世界で初めて実証しました。
本手法はシリコン材料単体で成立しており、構造も単純でありながら高い性能を実現しています。
【今後の展望と波及効果】
本成果により、深紫外光によるウイルス殺菌の照射モニタリングや、炎検出に基づく火災の早期発見など、衛生・防災分野への応用が期待されます。
さらに、シリコンを用いた本技術は、既存の半導体製造技術と高い親和性があるため、センサの小型化・集積化・量産が容易であり、医療、環境、防災、半導体産業など、様々な分野での応用展開が見込まれます。
今後は実用化に向けた開発が進められます。
【論文情報】
掲載誌名:Physical Review Letters
論文タイトル:Silicon Plasmonics for Enhanced Responsivity of Silicon Photodetectors in Deep-Ultraviolet Region
著者:Yu-ichiro Tanaka, Atsushi Ono, Wataru Inami, and Yoshimasa Kawata
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.134.226901
【研究助成】
国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST) JPMJCR2003
【用語説明】
深紫外光:
可視光よりも短波長の紫外光の1つであり、その中でもとりわけ短波長のおよそ100〜300 nm程度の波長域の光を表す。
殺菌作用が強いことが特徴の1つである。
また最新の半導体露光装置の光源にも深紫外光のレーザーが用いられている。
表面プラズモン共鳴:
表面に波長程度の微細凹凸構造が形成された金属やナノスケールの金属微粒子に光が照射されたときに光の電場振動に共鳴して金属中の電子が集団的に振動する現象のこと。
電子の集団振動に伴い金属表面に増強電場が形成され、表面増強ラマン散乱などの光学技術に広く応用されている。
問い合わせ先:
【研究に関すること】
静岡大学電子工学研究所
教授・小野 篤史(おの あつし)
TEL : 053-478-1370
E-mail : ono.atsushi[at]shizuoka.ac.jp
【報道に関すること】
静岡大学 広報・基金課
TEL : 054-238-5179
E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp
※[at]を@に変更してご利用ください。