むかわ町初の新生代鳥類化石の発見 ~絶滅鳥類プロトプテルム科化石の報告~

2025/06/25
プレスリリース

2025年6月27日から開催される日本古生物学会2025年年会にて、「北海道むかわ町穂別産のプロトプテルム科鳥類化石」という題で、北海道大学総合博物館・静岡大学・むかわ町穂別博物館が取り組んだ研究について学会発表されます。
本報告はそれに先立ち、むかわ町穂別地区から産出した鳥類化石についての研究報告となります。

【研究のポイント】

◆むかわ町穂別地区の河川において転石として発見された化石について調査した結果、その形態的特徴から絶滅鳥類のプロトプテルム科の化石であることがわかりました。
◆本標本はむかわ町における初の新生代鳥類化石であり、北海道におけるプロトプテルム科の化石としても2例目の記録となります。
◆この発見は、太平洋西側の生息域の北限とされる北海道における、当時のプロトプテルム科の多様性を知る上で重要な発見であると言えます。



【プロトプテルム科について】

プロトプテルム科(Plotopteridae)は、およそ4,000万年前(始新世後期)から1,500万年前(中新世前期)にかけて、北太平洋沿岸地域に生息していた絶滅した鳥類グループです。「ペンギンモドキ」とも呼ばれ、その名の通り、現代のペンギンによく似た翼を持っており、その翼で当時の海を泳いでいたとされています。しかし、系統的には後肢を潜水に用いるウと同じカツオドリ目(Suliformes)に属すると考えられています。

図2:本標本の保存部位を示した復元図と発見場所

図2:本標本の保存部位を示した復元図と発見場所

【標本発見および研究の経緯】

本研究の対象である穂別博物館収蔵のプロトプテルム科鳥類化石は、2002年に発見者の堀田良幸氏によって穂別博物館に寄贈されました。その後、2021年2月には発見場所の河川が恐竜時代である白亜紀の地層であることから、小型獣脚類の恐竜の骨として発表されました。しかし、その後のクリーニング作業によって現代の鳥類に近い特徴があらわれたため、詳しい調査研究が行われることになりました。


【本標本の特徴について】

本標本には腰回りを中心にいくつかの骨要素が保存されています。その特徴から、プロトプテルム科鳥類の化石であることがわかりました。体長は推定1メートルだと考えられます(図2)。

本標本の脛足根骨の遠位端にある溝に橋が架かったような形態(図3)はneornithes類という現生の鳥類からなるグループの共有派生形質であることから、本標本は恐竜よりも進化的に進んだ鳥類の化石であることが明らかになりました。

前方で拡大する形状をとる骨盤の特徴(図3)や、ヘビウやウに類似した大腿骨および脛足根骨の特徴は本標本がプロトプテルム科に属することを示しています。さらに骨盤の形態、膝蓋骨の形態、直線的で細長い大腿骨、脛足根骨の形状などの各部位の特徴は、他のプロトプテルム科とは異なるものであり、本標本が既存のどの分類にも属さない可能性を支持しています。

図3:本標本にある分類上重要な特徴の例

図3:本標本にある分類上重要な特徴の例

【花粉化石による時代の推定】

本標本はむかわ町穂別の河川の転石から発見されましたが、この地点は地質学的には白亜紀に堆積した地層とされています。しかし、標本の形態的特徴は、より新しい時代の鳥類に見られる特徴と一致しており、層序学的年代と矛盾が生じていました。

そこで、地層中に含まれていた花粉化石を分析したところ、母岩から得られた胞子・花粉群集の中に、被子植物花粉(Proteacidites spiniformis)が含まれていました。この花粉は暁新世から中新世にかけて出現することが知られており、本標本もこの時代のものである可能性が高いと考えられます。


【本研究の意義】

プロトプテルム科の化石は、これまで北太平洋地域、具体的には日本・カナダ・アメリカで報告されてきました。日本国内においても、本州以南では福島県や九州北部などの複数の産地から多数の化石が発見されています。一方で、北海道からの報告は、網走市で発見されたホッカイドルニス(Hokkaidornis abashiriensis)の一例に限られていました。

今回、むかわ町穂別地域で新たにプロトプテルム科鳥類化石が発見されたことで北海道のプロトプテルム科化石の記録は2例目となります。これによって、現時点での太平洋西岸におけるプロトプテルム科の分布北限とされる北海道地域に、少なくとも2種以上のプロトプテルム科鳥類が生息していた可能性が示されました。本成果は、当時の北海道におけるプロトプテルム科の多様性と生態的広がりを明らかにする上で、重要な手がかりとなります。

プロトプテルム科はペンギン同様のユニークな形態による水中環境への適応、潜水様式の多様化といった進化学的に重要な分類群です。本標本は、彼らの進化過程を解明する鍵となり得る標本であり、今後の研究が期待されます。


【学会発表情報】

学会:日本古生物学会2025年年会・総会
発表タイトル:北海道むかわ町穂別産のプロトプテルム科鳥類化石
著者:川本 一陽(北海道大学大学院理学院 学生)・小林 快次(北海道大学総合博物館 教授)・Julien Legrand(静岡大学理学部地球科学科 助教)

問い合わせ先:

●プロトプテルムに関すること
北海道大学総合博物館 教授 
小林 快次(こばやし よしつぐ)
TEL:011-706-4730
E-mail:ykobayashi[at]museum.hokudai.ac.jp

●花粉化石・地質時代に関すること
静岡大学理学部地球科学科 助教
LEGRAND Julien(ルグラン ジュリアン)
TEL:054-238-4797
E-mail:legrand.julien[at]shizuoka.ac.jp

●化石資料の来歴に関することなど
むかわ町穂別博物館 館長
櫻井 和彦(さくらい かずひこ)
TEL:0145-45-3141
E-mail:kazuhiko_sakurai[at]town.mukawa.lg.jp

※[at]を@に変更してご利用ください。

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