プロゲステロン膜受容体の新規拮抗物質を同定 -新規医薬品候補の発見 -
静岡大学創造科学技術大学院・バイオサイエンス専攻・徳元俊伸教授の研究グループは、プロゲステロン膜受容体の拮抗物質(アンタゴニスト)である天然化合物の化学構造を解明することに成功しました。この海藻由来の天然化合物は、医薬品候補として期待される新規化合物です。
【研究のポイント】
・海藻ウミウチワからヒトプロゲステロン膜受容体タンパク質(mPR)反応性物質を分離
・NMR により化学構造を決定
・ゼブラフィッシュとマウスにおいて排卵抑制作用を確認
本研究では、プロゲステロン膜受容体の拮抗物質(アンタゴニスト)の純化と構造決定に成功し、ゼブラフィッシュとマウスでその排卵抑制作用を確認しました。本研究で発見した新規化合物は、排卵の前段階である減数分裂を仲介するプロゲステロン膜受容体の拮抗物質(アンタゴニスト)であったため、排卵抑制効果が期待されました。実験の結果、この物質がゼブラフィッシュとマウスの排卵を抑制することが確認され、新規避妊薬、子宮内膜症治療薬の候補として期待されています。
なお、本研究成果は、2026 年1 月22 日に、Springer Nature の発行する国際雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
【研究者コメント】
静岡大学創造科学技術大学院 バイオサイエンス専攻
徳元俊伸(とくもと としのぶ)
我々はサンゴ礁の海水から発見したプロゲステロン膜受容体反応物質がどんな物質なのか長年研究を続けてきましたが、ついに構造を決定しました。
排卵誘発剤では無く、排卵阻害作用をもつ物質でしたが、非ステロイド性の新規化合物であり新しいタイプの避妊薬としての応用が期待されます。
【研究概要】
海藻ウミウチワのメタノール抽出物から、ヒトプロゲステロン膜受容体タンパク質(mPR)反応性物質のスクリーニング法を指標として、HPLCを用いて天然化合物を精製し、NMRでその化学構造を決定した。その結果、この天然化合物は、新規化合物の1-carboxybutyl-2-hydroxypetanoate(1-CB2-HPNA)であることが分かった。
我々は、この化合物に、ウミウチワの属名「Padina」にちなんで「Padinic acid」という名称を提案した。Padinic acidは、ゼブラフィッシュとマウスの排卵抑制効果を示した。Padinic acidは、排卵の前段階である卵成熟を誘導する経路のmPRに作用し、卵成熟と排卵を停止させたと考えられる。mPRに特異的に作用する非ステロイド性の拮抗剤はこれまで報告されていないため、Padinic acidは新規医薬品候補として期待される。
本研究は、静岡大学創造科学技術大学院の徳元研究室が中心となって進められ、化学構造の決定については、同大学院の小谷真也教授が中心となって行われた。
【研究背景】
女性ホルモンであるプロゲステロンは、排卵や胎児の着床といった生殖プロセスに関わるステロイドホルモンである。プロゲステロンの作用を伝える受容体には、核受容体と細胞膜受容体の2種類がある。核受容体はプロゲステロンと結合して転写因子として働き、プロゲステロンの刺激に応じた遺伝子の発現を誘導する。そのため、その効果が現れるには数時間から数日かかる。遺伝子発現を伴うこの反応経路は、ゲノム情報を介するため、ゲノミック反応と呼ばれる。魚類の研究で、プロゲステロンが引き起こすゲノミック反応が排卵を促す経路であることが証明された。一方、細胞膜受容体を介する経路は、細胞内シグナル分子を介し、遺伝子発現を介さないため、数分という短時間で反応を引き起こす。このため、ノンゲノミック反応と呼ばれる。プロゲステロンの細胞膜受容体を介するノンゲノミック反応は、排卵の前段階である減数分裂を誘導する。排卵は、同じホルモンであるプロゲステロンが引き起こす、ノンゲノミック反応による減数分裂の誘導と、ゲノミック反応による排卵が連続的に起こることで誘導される。
我々はすでにmPRの人工合成法(特許第6795214号)を確立しており、さらに、蛍光性ナノ粒子であるグラフェン量子ドット(GQD)を用いたmPR反応性物質の検出法(Jyoti et al., BBRC 2020)も確立している。この検出法を用いて、海藻由来の天然化合物を2種類発見し(特願2023-79187、特願2024-202123)、そのうちの1つは、以前に報告した2-hydroxypentanoic acid(2-HPA)(Amin et al., BBRC 2025)である。今回、もう一つの化合物の構造決定に成功し、それが2-HPAの2量体に相当する1-CB 2-HPNA(Padinic acid)であることが明らかになった。
【研究の成果】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により海藻由来の天然化合物を分画し、mPRに反応性を示す化合物を選別した。3種類のHPLC分画により、最終的に2種類の化合物の精製に成功し、それぞれをNMRで化学構造を決定したところ2-HPAと1-CB 2-HPNA (Padinic acid)であることが判明した (図1)。
ゼブラフィッシュの卵細胞の減数分裂である卵成熟の誘導反応に対する効果を調べたところ2-HPAとPadinic acidのどちらも阻害効果を示した。さらに、マウスに経口投与したところ、いずれも排卵阻害作用を示すことが確認された。
【今後の展望と波及効果】
新たな標的であるmPRをターゲットとした排卵阻害作用を示す非ステロイド性の天然化合物が発見されたことで、副作用の少ない新規医薬品の開発が期待される。
【論文情報】
掲載誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Identification of a novel natural compound that acts on the membrane progestin receptor α (paqr7) from the marine algae Padina
著者:Mohammad Tohidul Amin, Shinya Kodani, Hiroyuki Nakagawa,Tomohiro Furukawa,Saokat Ahamed, Abdullah An Naser, Koki Yamaguchi, Yuki Omori, Shakhawat Hossain, Mohammad Maksudul Hassan,and Toshinobu Tokumoto
DOI:10.1038/s41598-026-36682-0
【特許情報】
プロゲスチン膜受容体の拮抗薬:特願2023-79187 (2023. 5.12)
プロゲスチン膜受容体の新規アンタゴニスト:特願2024-202123 (2024. 11.20)
【研究助成】
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 23K05830
静岡大学 ジェンダード・イノベーション研究支援事業
【用語説明】
プロゲステロン膜受容体:
女性ホルモンの一種であるプロゲステロンの細胞膜受容体。この受容体タンパク質は、細胞膜を7回貫通する7回膜貫通型の構造を持つとされている。プロゲステロンは、細胞膜表面に突出している部分に結合し、受容体の構造を変化させることで、細胞内にホルモンの刺激を伝えると推測されている。
問い合わせ先:
(研究に関すること)
静岡大学 創造科学技術大学院・バイオサイエンス専攻
教授・徳元 俊伸(とくもと としのぶ)
TEL : 054-238-4778
E-mail : tokumoto.toshinobu[at]shizuoka.ac.jp
(報道に関すること)
静岡大学 広報・基金課
TEL : 054-238-5179
E-mail : koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp
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