国立大学法人 静岡大学

リラクサー強誘電体の長年の謎を解明 -ナノ極性領域の成長と相互作用を初めて直接観測-

2026/04/09
プレスリリース

【発表のポイント】

● ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)サイズの極小領域(分極ナノ領域(PNR)(注1) )が、温度低下とともに成長しネットワーク状に連結する様子を、世界で初めて電子顕微鏡で直接観察しました。
化学的規則領域(COR)(注2) がサイズや配置が変化せず静的に存在することを明らかにし、材料の性能の起源を説明する「ランダム電場モデル (注3)」を実空間で直接実証しました。
● 本成果は、電気自動車や再生可能エネルギー分野で求められる「より小さく、より大容量で、より効率的な」な次世代電子部品の開発を加速させ、高性能電子材料の設計指針として重要な基盤を提供します。


【概要】

スマートフォンやセンサーなど、私たちの生活に欠かせない電子機器には、「リラクサー強誘電体 (注4)」と呼ばれる極めて高性能な材料が使われています。しかし、なぜこれほど高い性能を発揮するのか、その根本的な理由は数十年もの間、物理学の大きな謎でした。

東北大学、静岡大学、東京科学大学の研究グループは、最先端の4次元走査透過電子顕微鏡手法(4D-STEM)(注5)を用いて、代表的なリラクサー材料であるPMN(鉛マグネシウムニオブ酸)の内部をナノメートル単位で観察しました。その結果、温度が下がるにつれて「電気的な偏りを持つナノ領域」が成長し、ネットワークのように繋がっていく様子を世界で初めて直接捉えることに成功しました。これらの結果は、ランダム電場によって分極の発展が制御されるとする「ランダム電場モデル」を直接裏付けるものであり、リラクサー強誘電体の物理像に対する決定的な理解を与える成果です。

本研究成果は、Applied Physics Letters に4月6日付けで掲載されました。

【詳細な説明】

■ 研究の背景

「リラクサー強誘電体」は、非常に高い蓄電能力や、電圧をかけると形が変わる性質(圧電性)を持つため、コンデンサや超音波センサーなどに広く利用されています。この材料の中には、ナノメートル(髪の毛の太さの10万分の1)サイズの小さな「分極ナノ領域(PNR)」と「化学的規則領域(COR)」という2つの性質の異なる領域が存在することが知られていました。しかし、これらが材料の中でどのように分布し、温度によってどう変化するのかを直接「見る」ことは技術的に非常に困難でした。そのため、材料の中で何が起きているのかについて、科学者たちの間で「ランダム電場モデル」をはじめとする複数の理論モデルが提案されてきたものの、決定的な実験的証拠は得られていませんでした。


■ 今回の取り組み

研究グループは、「4次元走査透過電子顕微鏡(4D-STEM)」と「収束電子回折(CBED)」という最先端の手法を組み合わせました。これにより、PMNというリラクサー結晶の内部をナノレベルで精密にマッピング(地図化)することに成功しました(図1)。

室温からマイナス173度(100K)まで温度を下げて観察したところ、CORという領域は温度が変わっても大きさ(2〜5nm)が変わらず、動かない静的な「障害物」として存在し続けることがわかりました。一方、PNRという電気的な偏りを持つ領域は、室温では2〜5nmと孤立していましたが、温度が下がると成長し、約10nmのサイズまで互いにネットワーク状に繋がり合う(パーコレーション)様子がはっきりと確認されました(図2)。この挙動は、PNRが三次元的に発展し長距離秩序へと近づく“パーコレーション転移”を示唆します。この結果は、材料内の不規則な電場がナノ領域の振る舞いを支配しているとする「ランダム電場モデル」が正しいことを直接的に証明する決定的な証拠となりました。


■ 今後の展開

本研究により、リラクサー強誘電体の優れた性能が「ナノサイズの領域の成長と繋がり合い」によって生み出されていることが明らかになりました。今回確立されたマッピング技術と得られた知見は、今後、電気自動車や再生可能エネルギー分野などで求められる「より小さく、より大容量で、より効率的な」次世代の蓄電材料やセンサー材料を設計するための重要なガイドラインとなります。
さらに本研究は、リラクサー強誘電体の微視的構造と物性の関係を理解する上で重要な知見を提供するとともに、今回用いた「4D-STEM-CBED法」が、複雑なナノスケール不均一構造を持つ機能性材料の解析に極めて有効な手法であることを示しました。今後、この画期的な可視化手法は、強誘電体のみならず、磁性材料やエネルギー材料など、多様な機能性材料の研究開発に広く応用されることが期待されます。

図1.材料内部のナノ領域の構造を示す概念図と、本研究で用いた最先端の電子顕微鏡の手法(4D-STEM)のイメージ

図1.材料内部のナノ領域の構造を示す概念図と、本研究で用いた最先端の電子顕微鏡の手法(4D-STEM)のイメージ

図2.室温と低温における「分極ナノ領域(PNR)」の分布マップ。温度が下がるとPNRが成長してネットワーク状に繋がり合う様子を示す

図2.室温と低温における「分極ナノ領域(PNR)」の分布マップ。温度が下がるとPNRが成長してネットワーク状に繋がり合う様子を示す

【謝辞】

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP22H01150、JP22H04495、JP23K17826、JP25K01652)、科学技術振興機構(JST)さきがけ(PMJPR22AB)、公益財団法人三菱財団、公益財団法人村田学術振興・教育財団、公益財団法人山田科学振興財団の支援を受けて行われました。


【用語説明】

注1.分極ナノ領域(PNR)
材料の内部に存在する、プラスとマイナスの電気が特定の方向に偏ったナノメートルサイズの微小な領域。

注2.化学的規則領域(COR)
材料を構成する原子が特定の規則に従って並んでいるナノメートルサイズの領域。

注3.ランダム電場モデル
材料内部の微小な化学的乱れが「不規則な局所電場(ランダム電場)」を生み出し、それが電気的な偏りを持つナノ領域(PNR)の成長や振る舞いをコントロールしているとする理論モデル。

注4.リラクサー強誘電体
一般的な強誘電体よりも広い温度範囲で非常に高い誘電率(電気を蓄える能力)や圧電性を示す特殊な材料。

注5.4次元走査透過電子顕微鏡手法(4D-STEM)
電子線を試料に当てて、透過してきた電子の回折パターンを二次元の画像データとして測定点ごとに記録する、最先端の電子顕微鏡技術。


【論文情報】

タイトル:Direct imaging of temperature evolution of polar nanoregions and chemically ordered regions in PMN relaxor: Evidence for polar phase percolation
著者:Kohei Hino, Daisuke Morikawa*, Desheng Fu, Mitsuru Itoh, and Kenji Tsuda
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 助教 森川大輔
掲載誌:Applied Physics Letters
DOI:10.1063/5.0297426
URL:https://doi.org/10.1063/5.0297426

問い合わせ先:

(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
助教 森川 大輔(モリカワ ダイスケ)
TEL:022-214-5169
Email:daisuke.morikawa.e5[at]tohoku.ac.jp

静岡大学 大学院総合科学技術研究科
教授 符 徳勝(フ トクショウ)
〒432-8561 浜松市中央区城北3-5-1
Tel:053-478-1374
Email:fu.tokusho[at]shizuoka.ac.jp

(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
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静岡大学 広報・基金課 広報係
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