核融合炉先進プラズマ対向材料における水素およびヘリウム混合プラズマ照射時のHe照射と照射欠陥の影響を評価
静岡大学理学部の大矢恭久准教授の研究グループは、米国サンディア国立研究所と中国合肥工業大学との共同研究として、サンディア国立研究所にあるプラズマ駆動透過装置(DPE)を使用し、He混合プラズマ照射を行ない、タングステン・タングステン―レニウム合金試料における水素同位体滞留挙動に関するHe照射と照射損傷の影響を明らかにしました。
本研究成果は、2026年6月7日にElsevierの発行する国際学術雑誌「Journal of Nuclear Materials」に掲載されました。なお、本共同研究は日米共同研究FRONTIER計画(代表:東北大学波多野雄治教授)および中国合肥工業大学との共同研究の一環として実施しました。
【研究背景】
次重水素(D)とトリチウム(T)の核融合反応を利用する核融合発電は、次世代のクリーンエネルギーとして期待されています。核融合反応は高温プラズマ状態で維持されることから、炉壁となるプラズマ対向材には高融点・低スパッタ率を有するタングステン(W)が有力候補とされています。運転時のWは高エネルギーD・Tに加え、D–T反応で生成される中性子やHeにも曝されます。核融合炉の実現には、プラズマの長時間維持と希少なTの厳密な管理が不可欠であり、そのためには実機条件に近いW中での水素同位体透過挙動を明らかにする必要があります。
中性子照射を受けたWでは一部がレニウム(Re)へ核変換し、同時に照射欠陥が導入されます。また、D-T核融合反応によりHeが生成され、プラズマ対向材へのHe照射によりHeバブルなどの試料表面形状の変化が報告されており、水素滞留挙動を変化させることが予測されます。
しかし、試料表面状態へのHe照射影響に関する研究は多く進められていますが、水素滞留挙動へのHe影響の知見は多くありません。そのため、本研究では水素同位体挙動に対するHe照射影響評価しました。He照射影響を評価するために、国際共同研究を通してサンディア国立研究所のプラズマ装置DPEを利用して、DとHeの混合プラズマ照射を実施しました。プラズマ中のHe比率を変化させることで水素滞留挙動へのHe照射影響の解明を目指しました。
【研究の成果】
本研究では、WおよびW–10%Re合金を試料として使用しました。照射欠陥を模擬するため、イオン照射研究施設(TIARA)において Fe²⁺イオン照射を実施し、その後、試料をサンディア国立研究所のDPEに導入しました。WおよびW–Re合金に対してD+He混合プラズマ照射実験を実施しました。その後、サンディア国立研究所の高温昇温脱離法(TDS)と静岡大学においてTDSを実施し、水素同位体の滞留挙動へのHe照射影響を評価しました。
Wでは照射欠陥がD滞留量を大きく増加させる一方、W–10%Reでは照射欠陥の形成および安定性が抑制されるため、D滞留量の増加は大幅に抑えられました。その結果、すべての損傷レベルにおいてW–10%ReのD滞留量はWよりも著しく低くなりました。一方、He滞留量はW、W–10%Reともに照射損傷への依存性が弱く、大きな変化は見られませんでした。このことから、Heは照射欠陥ではなく、Heバブルなどの安定なトラップに滞留することを示唆しています。
さらに、W–10%Reに対してHe濃度を変化させたプラズマ照射を行った結果、He濃度の増加に伴いD滞留量が減少しました。これは、He照射により形成したHeバブルがDの拡散障壁として作用したためと示唆されます。一方、照射欠陥を導入したW-10%Reでは、損傷量に応じてD滞留量が増加しました。このことから、Heバブルによる拡散障壁の効果は、照射欠陥によるD滞留量増加の効果よりも小さく、損傷材のD滞留はプラズマ中のHe濃度よりも照射欠陥の寄与が大きいことが明らかとなりました。
【今後の展望と波及効果】
本研究で得られたHe照射が水素滞留挙動に及ぼす影響の評価は、今後、シミュレーション手法と組み合わせることで、核融合炉材料開発に必要となるより詳細で信頼性の高い基盤データの構築に大きく貢献するものです。
【論文情報】
掲載誌名:Journal of Nuclear Materials
論文タイトル:Effect of He irradiation on hydrogen isotope retention in W-Re
著者:Yuzuka Hoshino, Ayumu Hayakawa, Shingo Okumura, Robert Kolasinski, Fei Sun, Yasuhisa Oya
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jnucmat.2026.156805
関連リンク
問い合わせ先:
静岡大学 理学部附属放射科学教育研究推進センター
准教授 大矢 恭久
TEL:054-238-4803
E-mail:oya.yasuhisa[at]shizuoka.ac.jp
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