体の左右反転を引き起こす遺伝子を推定 -日本のカタツムリを用いたアプローチ-
【発表のポイント】
● マイマイ属 Euhadra のカタツムリで体の左右反転を引き起こす遺伝子を推定しました。
● ミオシン Ia/b 遺伝子(注1)の左右反転への関与を初めて示しました。
● 左右反転は共通した遺伝子変異(注2)がもたらしたことを示唆しました。
● 本研究は、「動物の左右はどのように決まるのか」という根源的疑問の解決に貢献することが期待されます。
【概要】
多くの動物はおおむね左右対称ですが、人の心臓は左にあるように、一部、左右が少し異なる場合もあります。体の左右反転は疾患につながるため応用上重要ですが、左右反転のメカニズムは未だにほとんどわかっていません。
ノッティンガム大学のAlec Lewis大学院生・Angus Davison教授・Alistair Hume助教・Margrethe Johansen大学院生・Christopher Mooreシニアリサーチフェロー・Tom Hartman助教、東北大学の石井康人大学院生・木村一貴助教・千葉聡教授、静岡大学の伊藤舜助教、ゲッティンゲン大学のDaniel Jackson教授、琉球大学の平野尚浩助教 (所属はすべて研究当時) からなる研究グループは、ヒダリマキマイマイの左巻き個体と右巻き個体の全ゲノム情報を比較した結果、ミオシン Ia/b 遺伝子が左右反転に関与することを突き止めました。本研究は同遺伝子が動物の左右反転に関与することを初めて示しました。本成果によって動物の左右反転のメカニズム解明に近づくことが期待できます。
本成果は、2026年10月16日に学術誌 Current Biology に掲載されました。
【詳細な説明】
● 研究の背景
多くの動物はおおむね左右対称です。一方で左右が少し異なる場合も少なくありません。たとえばヒトでは1人1つしかない心臓は体の左側に位置しています。では、このような左右はどのように決まるのでしょうか?左右が反転すると、時として重篤な疾患をもたらすことが知られているため、左右反転のメカニズム解明は応用上も重要です。このメカニズムの解明は、左右が通常の個体と反転した個体を比較することによって容易に可能だと思われます。しかし、左右対称な動物は外見から左右が反転した個体を見出すことは困難であり、この比較は難しいという現状がありました。例外的に、貝類は体の左右の反転が殻の巻き方向の反転として外見上すぐにわかるという特徴があります(図1)。つまり外見や内臓などの左右反転が殻の巻き方向の反転としてわかります。貝類のなかでもカタツムリは多くが右巻きであるものの、一部は左巻きの殻をもちます。特に日本固有のカタツムリ・ヒダリマキマイマイでは、多くの集団が左巻きですが、東北地方の一部には右巻き集団が複数あることが知られていました。なお、これらの右巻き集団はアオモリマイマイ、アイヅマイマイ、カワニシマイマイなどの名前で呼ばれてきました。
● 今回の取り組み
ノッティンガム大学、東北大学、静岡大学、ゲッティンゲン大学、琉球大学の研究者からなる研究グループ (所属はすべて研究当時) は、ヒダリマキマイマイの右巻きと左巻きの個体を比較することによって体の左右反転の原因遺伝子の特定を目指しました。右巻きと左巻きの個体の全ゲノム情報を比較した結果、ミオシン Ia/b 遺伝子が左右反転に関与することを突き止めました。さらに、マイマイ属のほかの左巻きの種もすべて解析に加えたところ、マイマイ属の左巻きにはすべて同一の遺伝子変異が関与していることがわかりました。先行研究において細胞の運動や形状にかかわる遺伝子が左右反転を引き起こすことが知られていました。ミオシン Ia/b 遺伝子もそのような遺伝子のひとつであるため先行研究と整合的でした。一方で、ミオシン Ia/b 遺伝子が動物の左右反転に関与することは本研究で初めて示されました。この結果は未知のメカニズムが左右反転を引き起こす可能性を示唆しています。
● 今後の展開
ミオシンIa/b 遺伝子の左巻きタイプには右巻きタイプと比較して複数の遺伝子変異がありました。左巻きの原因として有力な遺伝子変異は3つ含まれていましたが、これらのうちどれが原因なのか、複数の遺伝子変異が左巻きには必要なのかといったことはまだわかっていません。また、ミオシン Ia/b 遺伝子における DNA レベルの違いがどのように個体レベルの左右反転まで影響しているのか、この点についても今後の研究の必要があります。これらの研究を通じて、「動物の左右はどのように決まるのか」という根源的疑問の解決に貢献することが期待されます。
【謝辞】
本研究は、Biotechnology and Biological Sciences Research Council(助成番号 BB/M008770/1、BB/T0083690/1)、Daiwa Foundation small grant(助成番号 6495/15181)、JSPS/British Council Summer studentship(助成番号 JSPS23101)、Heredity Fieldwork award in 2009、BBSRC studentship、BBSRC grant(助成番号 BB/F018940/1)、令和5年度「自然首都・只見」学術調査研究助成金事業、JSPS 科研費(助成番号 JP21H02556、JP24K02094)の支援により行われました。
【用語説明】
注1.ミオシン Ia/b 遺伝子:
細胞の運動や形状にかかわる細胞骨格に関連する遺伝子である。これまでの研究ではショウジョウバエにおいてミオシン Id/g 遺伝子やミオシンIc/h 遺伝子が内臓の左右反転にかかわることが示唆されていた。
注2.遺伝子変異:
(ここでは)DNA の配列の違いのこと。
【論文情報】
・タイトル:An ancient polymorphism in myosin I a/b determines chiral variation in Japanese Euhadra snails
・著者:Alec Martin Lewis, Yasuto Ishii, Shun Ito, Kazuki Kimura, Margrethe Johansen, Alistair Nicholas Hume, Christopher Moore, Tom Hartman, Daniel John Jackson, Satoshi Chiba, Takahiro Hirano, Angus Davison*
*責任著者:School of Life Sciences, University of Nottingham, Angus Davison
・掲載誌:Current Biology
・DOI:10.1016/j.cub.2026.09.059
・URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982226012698?via%3Di hub
問い合わせ先:
(研究に関すること)
東北大学東北アジア研究センター
准教授 平野尚浩
TEL:022-795-7560
Email:takahiro.hirano.d8[at]tohoku.ac.jp
(報道に関すること)
東北大学東北アジア研究センター広報運営室
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Email:kouhou.cneas[at]grp.tohoku.ac.jp
静岡大学 広報・基金課 広報係
TEL:054-238-5179
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