これからの「教育」を創る : 藤井 基貴 FUJII Motoki(教育哲学・道徳教育)

人間はいかにして自律的思考を形成しうるか?

藤井基貴准教授(教育学部)は、理論研究として、近代ドイツの教育思想や大学における教員養成の理念および制度、研究倫理および学問の自律性に関する研究を行うとともに、「自律的思考」の形成を目指す教育活動に関する実践的な研究に取り組んでいる。なかでも、静岡大学防災総合センターと連携し、学校・地域・家庭を対象とした防災教育の開発・実践を重ねており、教職を目指す学生と共に「防災文化」の創造・発信・普及に力を注いでいる。

2023年3月取材

Chapter 01

教育学における「理論と実践の往還」とより質の高い教員の養成に取り組む

理論研究と実践研究を通して、教育学における「理論と実践の往還」を図るとともに、より質の高い教員養成・教員研修に向けて取り組みを進めています。

①理論研究
1)近代ドイツ教育学に関する思想的・歴史的研究
2)大学における教員養成の理念および制度に関する研究
3)研究倫理および学問の自律性に関する研究
また、本学の姉妹校であるネブラスカ大学オマハ校の研究者たちと西洋哲学を主題とした国際共同研究を行っており、日本における西洋哲学の受容史・影響作用史に関する研究にも取り組んでいます。

2019年に静岡大学で開催された「国際フッサール・カンファレンス」では大会実行委員長として、世界哲学会議の会長を務めたダーモット・モラン氏やローマ法王庁社会科学アカデミー会員のヴィットリオ・ヘスレ氏らをはじめとする20名以上の哲学者を海外から招聘し、国際学会を実施しました。

②実践研究
「自律的思考」(Selbstdenken)を鍵概念として、その形成を目指す教育活動に関する実践的な研究を進めています。2020年に「静岡大学現代教育研究所」を設立し、学内外の専門家と現代的教育課題に関する教材・授業開発を推進しています。また、研究室では所属する学生たちと防災、SDGs、スポーツ倫理(スポーツ・インテグリティ)に関する教材開発・実践を行っています。

Chapter 02

教師を志す学生たちと共に新しい教材を開発し、地域の子どもたちに防災教育を実践

私は、大学時代に哲学を学び、大学院進学後は教育学を専攻し、前職で高等教育の研究に従事し、本学に着任してからは教育哲学と道徳教育を専門領域として研究活動を進めてきました。

東日本大震災以降より、学生たちと防災教育の授業開発を始め、これまでに「1.17防災未来賞」(兵庫県等主催)において4度の「ぼうさい大賞」を含む10度の受賞があります。現在、研究室では「考える防災・脅さない防災・伝える防災」をテーマに掲げ、防災紙芝居「ゆれがきたぞ‼」「みずがくるぞ‼」「あかるい くらい」などを学生たちと制作し、防災講座の実施と教材の普及を図っています。

また、2019年度からは「BOSAIユースアンバサダー」プロジェクトを発足し、大学生・専門家が地域の高校生に防災の基礎知識と教育のノウハウを教え、その高校生が幼稚園児などに防災講座を実施する仕組みをつくり、広げています。

藤井研究室では「日本のBOSAIを世界へ」をテーマに、これまでに開発した教材を英語やスペイン語に翻訳して、JICAを通じてエクアドルなどにも届けています。これらの取り組みは「大学SDGs Action! Awards 2021」(朝日新聞社主催)において高く評価され、グランプリとオーディエンス賞を受賞しました。2022年度からは「福祉防災」をテーマに特別支援学校や福祉作業所と連携した防災活動も展開しています。

Chapter 03

地域に根ざしながら、世界を展望できる人材を育成していきたい

私の研究室では「Footwork & Network」、「Challenge & Change」、「Response & Responsibility」をモットーとして、学生たちがどん欲に学び、行動することを奨励・応援しています。これまでに研究室に所属した学生たちの多くは、学校での訪問活動や海外留学などを経験し、卒業後も学校や保育園などの教育の場で実践を重ねています。今後も理論研究と実践研究を両輪として、地域に根ざしながら、世界を展望できる人材の育成に貢献できたらと思っています。

[写真]准教授 藤井 基貴 FUJII Motoki
[プロフィール写真]准教授 藤井 基貴 FUJII Motoki

准教授藤井 基貴 FUJII Motoki(教育哲学・道徳教育)

1975年12月生まれ。2005年名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程修了、
2007年名古屋大学高等教育研究センター特任講師、2008年静岡大学教育学部准教授
2013年より第2期若手重点研究者、2016年より第3期若手重点研究者
2022年より第5期研究フェロー

主な研究業績

受賞歴:
  • 教育史学会「研究奨励賞」(2012)
  • 日本乳幼児教育学会「研究奨励賞」(2006)
  • 教科アイデア賞(2013)
  • 1.17防災未来賞「ぼうさい大賞」(2020、2018、2017、2016)
  • 「優秀賞」(2023、2022、2021、2019、2015)
  • 大学SDGs Action! Awards 2021「グランプリ」、「オーディエンス賞」
外部資金獲得状況:科学研究費補助金:
  • 基盤研究(B)「学際・超学際研究を推進する『研究公正』の概念・法制度・教育開発研究」(2023-)
  • 学術変革領域研究(A)「尊厳学の確立:尊厳概念に基づく社会統合の学際的パラダイムの構築に向けて」(2023-)
  • 基盤研究(C)「ドイツにおける『責任ある研究・イノベーション(RRI)』教育の制度論的研究」(2019-2023)
  • 基盤研究(C)「ドイツにおける『研究公正システム』の構築と展開に関する思想的・制度的研究」(2015-2019)
  • 若手研究(B)「近代ドイツにおける「衛生学・衛生教育」の誕生と普及に関する歴史的研究」(2012-2014)
  • 若手研究(B)「教員養成カリキュラムの「理論と実践の統合」に関する史的研究」(2009-2011)
  • その他23件。
委員等:
  • 文部科学省「中央教育審議会」専門委員(2011-2021)
  • 日本卓球協会「スポーツ医・科学委員会」委員(2018-)
  • 文部科学省「研究倫理・研究公正に関する有識者委員」(2014、2018、2019)
  • 日本オリンピック委員会「強化スタッフ(医・科学スタッフ)」(2023)
  • 中部教育学会理事(2014-)等
大学改革支援・学位授与機構による法人評価:
  • 卓越した研究業績(SS)
  • 「近代ドイツ教育思想史に関する研究」(2017)
  • 「防災教育に関する理論的・実践的研究」(2017)
  • 「近現代ドイツ教育思想史に関する研究」(2021)
  • 「防災教育の関する理論的・実践的研究」(2021)
著書・論文:
  • 『学問の自由の国際比較』(共著)岩波書店、2022年
  • 『自律的思考を促すスポーツ・インテグリティ教育』(編著)、静岡学術出版、2021年
  • 『道徳教育』(編著)ミネルヴァ書房、2019年
  • 「教育史におけるカント―大学史・教育思想史・影響作用史―」『日本カント研究』16、2015年、67-86頁
  • 「18世紀ドイツにおける子育ての近代化-ファウスト『衛星問答』に注目して-」『日本の教育史学』教育史学会編、55集、2012年、85-97頁
  • その他120本。

最新情報はこちら

静岡大学研究フェロー