単一巨大リポソーム法を開発 : 山崎 昌一 YAMAZAKI Masahito(生物物理学)

生体膜の機能やダイナミクスの素過程の解析とメカニズム

山崎昌一教授(理学部)は、生体膜、蛋白質や細胞などの生体分子集団の構造・機能・ダイナミクスの新しいイメージング法の開発とそれを駆使した生体分子集団のダイナミクスの素過程の解明により、生体系を支配する物理法則や設計原理を明らかにする研究を行っている。本研究では、単一巨大リポソーム法を新たに開発し、それを用いた生体膜の機能やダイナミクスの解析を行っている。

2023年3月取材

Chapter 01

単一巨大リポソーム法を新たに開発し、リポソーム一つひとつのふるまいを可視化

我々は、新しいイメージング法や生物物理的測定法を開発し、それらを駆使して生体膜や脂質膜の機能やダイナミクスの素過程を解明することにより、それらのメカニズムや設計原理を明らかにする研究を行っています。

生体膜とは、細胞の外側の細胞膜や細胞内の種々の膜の総称です。脂質や蛋白質からなる厚さ4ナノメートル程度(1ナノメートルは10億分の1メートル)のシート状の超分子集合体で、生理的に重要な役割を果たしています。

生体膜や脂質膜は、水溶液中では閉じた袋状の構造(リポソーム)を形成します。従来の膜の研究では、小さな直径のリポソームが多く存在する懸濁液の測定によって物理量の平均値を求める方法が用いられてきました。しかし、この方法では、集団の平均的なふるまいは把握できますが、一つひとつのリポソームのふるまいはよくわかりませんでした。

そこで、我々は新たに直径 10マイクロメートル以上の巨大リポソーム(GUV)1個を用いた「単一巨大リポソーム法(単一GUV法)」という方法論を開発し、種々の物質とリポソームが相互作用しているときのリポソーム一つひとつのふるまいを可視化できるようにしました。

Chapter 02

「揺らぎ」を解析していくと
生体膜の機能の素過程が見えてきた!

物質との相互作用によるリポソーム一つひとつの変化を可視化すると、リポソームごとにそのふるまいの大きな違い、つまりリポソームのふるまいの「揺らぎ」があることを見出しました。その「揺らぎ」を解析してみると、これまでわからなかった生体膜の機能やダイナミクスの素過程の情報(速度定数など)を得ることができました。相互作用による変化や動きがある中で、素過程の情報まで得ることができたことは、非常に興味深かったです。素過程の情報を解析することにより、生体膜の機能のメカニズムも解明することができました。

また、ペプチド/タンパク質などの外来分子と生体膜の相互作用や膜のダイナミクスの研究を展開し、この方法により、さらに、細菌などを殺す活性のある抗菌ペプチド(AMP)や細胞膜を透過できる細胞透過ペプチド(CPP)の機能の素過程やメカニズムなどが明らかになってきました。

Chapter 03

従来の研究方法にとらわれず、
研究対象の未開領域を探索していこう

新しいイメージング法を開発して、今まで観察できなかったものを観察可能にすることにより、新しい質の情報が得られます。また、リポソーム1個や蛋白質1分子のふるまいを測定するという新しい生物物理的測定法を開発して、たくさんのリポソームや蛋白質の(集団)平均の測定ではわからなかったことが明らかになっていきます。

皆さんも、従来の研究方法にとらわれず、新しい視点や質を持った研究方法を開発し、それを利用して研究対象の未開の新しい領域を探索し、メカニズムを解明していきませんか。

[写真]教授 山崎 昌一 YAMAZAKI Masahito
[プロフィール写真]教授 山崎 昌一 YAMAZAKI Masahito

教授山崎 昌一 YAMAZAKI Masahito(生物物理学)

1959年生まれ、1987年京都大学大学院博士課程単位取得退学、1987年静岡大学理学部物理学科助手、1992年カリフォルニア大学サンディエゴ校研究員、1995年静岡大学理学部物理学科助教授、2006年静岡大学創造科学技術大学院統合バイオサイエンス部教授、2013年静岡大学電子工学研究所ナノマテリアル研究部教授
2011年より第1期卓越研究者、2022年より第5期研究フェロー

主な研究業績

外部資金獲得状況:
  • 科学研究費補助金・基盤研究(B)「単一巨大リポソーム法による抗菌ペプチドと膜透過ペプチドの機能のメカニズムの解明」(2015年~2018年)
  • 科学研究費補助金・基盤研究(B)「膜電位と張力が抗菌ペプチドと膜透過ペプチドの機能に与える効果とメカニズムの解明」(2019年~2022年)
  • 科学研究費補助金・挑戦的研究「単一細菌を用いた抗菌活性測定法の開発と抗菌ペプチドの抗菌活性メカニズム解明への応用」(2021年~2023年)
委員等:
  • 科学研究費補助金・書面審査委員(ナノバイオサイエンス)(2018~2019年)
  • 戦略的創造研究推進事業 ERATOプロジェクト事後評価委員(2013,2016年)
学会等:
  • 日本生物物理学会分野別専門委員(2000年~現在)
著書・論文:
  • 1) Effect of Osmotic Pressure on Pore Formation in Lipid bilayers by the Antimicrobial Peptide Magainin 2, Phys. Chem. Chem. Phys., 24, 6716, 2022
  • 2) Role of Membrane Potential on Entry of Cell-Penetrating Peptide Transportan 10 into Single Vesicles, Biophys. J. 118, 57, 2020.
  • 3) The role of membrane tension in the action of antimicrobial peptides and cell-penetrating peptides in biomembranes, Biophys. Rev., 11, 431, 2019.
  • 4) Membrane potential is vital for rapid permeabilization of plasma membranes and lipid bilayers by the antimicrobial peptide lactoferricin B, J. Biol. Chem., 294, 10449, 2019.
  • 5) Mechanism of initial stage of pore formation induced by antimicrobial peptide magainin 2, Langmuir, 34, 3349, 2018.
  • 6) Stretch-Activated Pore of Antimicrobial Peptide Magainin 2, Langmuir, 31, 3391. 2015.
  • 7) Experimental estimation of membrane tension induced by osmotic pressure, Biophys. J., 111, 2190, 2016.
  • 8) The Single GUV Method for Revealing the Functions of Antimicrobial, Pore-Forming Toxin, and Cell-Penetrating Peptides or Proteins, Phys. Chem. Chem. Phys., 16, 15752, 2014

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静岡大学研究フェロー