「産み育て」の今を追う : 白井 千晶 SHIRAI Chiaki(家族社会学・医療社会学)

古今東西のリプロダクションを社会学から捉える

白井千晶教授(人文社会科学部)は、出産や不妊、子育て、親子について、社会学・ライフコース論の観点から研究を行っている。リプロダクションの研究では、産み育てのさまざまな局面について、時代や社会、テクノロジーによる変化、国や地域、法制度や宗教、文化の違いによる差異や共通点などを探る。また、子どもや女性の福祉活動や社会的活動にも取り組んでいる。

2023年3月取材

Chapter 01

時代や社会、テクノロジーなどとともに産み育てのさまざまな局面も変化している

リプロダクションを縦軸、横軸から社会学的に研究しています。ここでいうリプロダクションとは、マクロ的にいうと人口の再生産、ミクロ的にいうと産み育てのことです。産み育てといっても、性、避妊や家族計画、人工妊娠中絶や流産、不妊、生殖技術、妊娠、出生前検査、出産、産後などを含むさまざまな局面があります。

リプロダクションは、時代によって、社会によって、まったく異なります。私たちが当たり前と思っていることは、当たり前ではありません。女性が一人で産んだり、家族や近隣の人が取り上げたりした時代もあります。介助者は産婆、助産婦、助産師、医師になり、場所も、テクノロジーも、身体観や生命観も、家族観や家族のあり方も変化しています。

Chapter 02

不妊や中絶、産後の養生などについて
国や法制度、文化などによる差異と共通点を調査

リプロダクションは、縦軸だけでなく横軸によっても多様です。不妊への対処、中絶に対する考え方、血のつながりの捉え方、誰が誰をどのように育てるか、ケアのありよう、ジェンダー役割、暮らし方などは、国・地域、法制度・宗教、歴史・文化によってさまざまです。

例えば、アジアのさまざまな地域では、生命を「救う」ためではなく「選ぶ」ためのテクノロジーとして生殖技術、出生前検査、人工妊娠中絶などが用いられています。代理出産や卵子提供などの生殖ツーリズムにも課題が指摘されています。

こうした現状をインタビュー、資料、量的調査など、さまざまな方法で研究しています。

Chapter 03

リプロダクションの研究を通して「いま生きている社会」と関わる日々

何でもそうかもしれませんが、研究テーマを切り口に見る社会はとても面白く、社会の縮図のように感じます。リプロダクションから古今東西を見ると、パートナーシップ、身体観や生命観、ジェンダー、家族、地域社会、テクノロジーや医療、施策や国家などさまざまなことが写し取れて、広がりと深まりの魅力を感じています。「いま生きている社会と関わっている」という実感をもてる醍醐味もあります。

Chapter 04

研究が社会的活動につながり、社会的活動が研究を深めていく

私自身の近年の社会的活動としては、養子縁組や里親、施設養護など社会的養護に関する活動、子育て支援や社会的養育の事例収集、出生前検査、妊娠出産環境や人工妊娠中絶のあり方を考える市民活動、障害やセクシュアルマイノリティなどと家族形成の今後を問うプロジェクト、卵子提供で親になった人のピア活動、さまざまなロビー活動などをしています。

教育研究が社会的活動につながるだけでなく、社会的活動自体がフィールドワークという研究にもなっています。「生活や人生そのものが研究なのかも?」「研究が人生なのかも?」と思えるほど、研究をする毎日が楽しく、生きている実感を持つことができています。

[写真]教授 白井 千晶 SHIRAI Chiaki
[プロフィール写真]教授 白井 千晶 SHIRAI Chiaki

教授白井 千晶 SHIRAI Chiaki(家族社会学・医療社会学)

1970年8月愛知県生まれ、2001~2003年度早稲田大学助手、2003年早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学、複数の大学等の非常勤講師、2010~2012年度日本学術振興会特別研究員(RPD)、2014年4月静岡大学准教授、2016年同教授
2022年より第5期研究フェロー

主な研究業績

外部資金獲得状況:
  • 科学研究費補助金基盤B「アジアにおける出生前検査と障害をめぐる実証的研究」(2020~2023年度)
  • 科学研究費補助金基盤B「現代アジアのリプロダクションに関する国際比較研究:ジェンダーの視点から」(2017~2019年度)
  • 基盤C「第三者が関わる生殖技術に起因する課題の当事者研究:卵子提供を受けた母親を中心に」(2014~2018年度)
  • ほか
委員等:
  • 静岡県社会福祉審議会委員(児童福祉専門分科会長代理、子ども・子育て支援部会、児童処遇特別部会、児童福祉専門部会、児童虐待検証部会 各部会長)
  • 静岡県地域自立のための「人づくり・学校づくり」実践委員会・委員、富士宮市女性応援会議アドバイザー
  • 静岡県婦⼈保護施設評価委員(2023年7⽉現在)
受賞歴:
  • 静岡県男女共同参画社会づくり活動に関する知事褒章【男女共同参画推進の部(個人)】(2023年)
国内外の学会誌編集等:
  • 養子と里親を考える会理事・編集委員長、日本ファミリーホーム協議会編集委員
著書・論文:
  • 『性的虐待を受けた性暴力サバイバーの妊娠出産期の支援 ~助産師、ドゥーラ、その他の医療従事者のためのガイド~』
    (監訳・訳、ともあ、2023年)
  • 『性暴⼒サバイバーが出産するとき〜⼦どもの頃に性的虐待を受けた⼥性が出産するときに起こることの理解と癒し〜』
    (監訳・訳、ともあ、2022年)
  • 『アジアの出産とテクノロジー:リプロダクションの最前線』(編著、勉誠出版、2022年)
  • 『フォスター︓⾥親家庭・養⼦縁組家庭・ファミリーホームと社会的養育』(著、⽣活書院、2019年)
  • 『養⼦縁組の再会と交流のハンドブック』(監訳・訳、⽣活書院、2019年)
  • 『産み育てと助産の歴史: 近代化の200年をふり返る』(編著、医学書院、2016年)
  • 『不妊を語る︓19⼈のライフヒストリー』(海鳴社、2012年)
  • 『⼦育て⽀援 制度と現場』(共編著、新泉社、2009年)
  • 『不妊と男性』(共著、⻘⼸社、2004年)

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静岡大学研究フェロー