地球の温暖化を防止する : 福原 長寿 FUKUHARA Choji(触媒反応工学)

カーボンニュートラルに貢献する触媒変換プロセスの開拓

福原長寿教授(工学部/カーボンリサイクル研究所所長)は、豊かで持続的な未来社会のため、脱炭素化とカーボンニュートラルを実現する画期的な物質変換技術を開発している。例えば、産業設備から排出されるCO2をそのまま大量に、かつ瞬間的に資源エネルギーと固体カーボンに変える触媒反応プロセスの開発である。きっかけは、今までだれもが“ナンセンス”として手を出さなかった化学反応にあえて取り組み、世界でまだ発見されていなかった現象を見出したことにある。

2023年3月取材

Chapter 01

カーボンニュートラル活動に貢献する
革新的な触媒変換プロセスを開発

環境保全の観点から、脱炭素に関した革新技術の開発要求が、ここ数年で急速に高まってきました。COP会議での約束草案の実現やCO2排出ゼロの宣言(2050年まで)など、産業全体を取り巻く状況が大きく変革しうる目標設定がなされ、その達成の成否が世界的に評価されます。直近の目標年は2030年であり、急ぐ必要があります。

私の研究は、そのような世界的なカーボンニュートラルの潮流に確実に応える技術です。産業プロセスから排出されるCO2をそのままで大量に、そして効率的に資源エネルギーや有用化学物に瞬間的に変換し、従来の触媒技術ではなし得ない、オンリーワンとなる触媒反応プロセスです。そのCO2処理量は大学での研究レベルを越えた領域にまで達しています。

Chapter 02

CO2とCH4を同時かつ大量に固体カーボンとして固定化することに成功

CO2から製造したメタン(CH4)はガス燃料として使えます。しかし、燃やすと再びCO2が出ます。そこで私は、CH4とCO2(ともに温室効果ガス)をいっしょに反応することで大量の固体カーボンを製造しつつ、有用な化学原料(合成ガス:H2+CO)を製造することに成功しました。得られた固体カーボンはナノチューブ状やナノロッド状であり、機能性材料としての価値があります。産業分野の最終ごみといわれるCO2を原料に、そこから有用な化学物質を製造しています。

この技術の開発も、学生の“実験がうまくいかない”の一言から始まりました。見ると、CH4とCO2を反応させた直後に固体カーボンがびっしりと析出しており、“これは何かある”、との直観と実験指針のひらめきが生まれました。試行錯誤を繰り返しながら、温室効果ガスから大量で効率的に固体カーボンを製造することに成功しました。

Chapter 03

工学的技術の社会実装化と次世代への技術継承が大切

開発したこれらの技術には、新しい学際領域になり得る萌芽的な学術知見がたくさん含まれており、現在その現象の精査と理論の構築に注力しています。

2020年8月に浜松市では日本の最高気温41.1℃を記録しました。浜松キャンパスのコンクリート道路上にも歩く先に陽炎がゆらゆらとゆらめいていたことが思い出されます。地球温暖化がもたらす環境変化の顕在化は確実に強まっており、カーボンニュートラルや脱炭素化の世界的な潮流が加速されている所以です。

この課題を解決するために、学術的な知見と知識、そしてそれを反映した工学的技術の社会実装化が必要であることは論を待ちませんが、次の世代にこの知見と知識、技術を確実に継承していくこともとても大切であると考えています。

温暖化問題の解決に、今後我々は長期戦で取り組まなければなりません。そのためにも、若い人達を巻き込んだ技術教育はキーポイントです。私の研究室では、今回紹介した開発技術を継承していく次世代の若手を育てながら、これからも新たな人達の積極的な参加に期待しています。地球の温暖化問題の解決に一緒に取り組んでいきましょう。

[写真]教授 福原 長寿 FUKUHARA Choji
[プロフィール写真]教授 福原 長寿 FUKUHARA Choji

教授福原 長寿 FUKUHARA Choji(触媒反応工学)

1985年東北大学工学部卒業、1987年東北大学大学院博士課程前期修了、1987年工学院大学助手、1997年八戸工業大学助教授、2003年同大教授、2007年静岡大学教授、2021年静岡大学カーボンリサイクル技術研究所所長(併任)
2022年より第5期研究フェロー

主な研究業績

受賞歴:
  • 化学工学会研究賞(2005年)
  • 化学工学会優秀論文賞(2019年)
外部資金獲得状況:
  • 科学研究費補助金基盤研究(A)「産業排出GHGの固体C化とグリーン資源化で拓く脱炭素触媒プロセスの学理と実理」(2023年~2025年)
  • 科学研究費補助金基盤研究(A)「室温作動のメタン化反応場で拓く産業排出CO2の革新的資源化プロセスの学理と実理」(2020年~2023年)
  • 科学研究費補助金挑戦的研究(開拓)「温室効果ガスからの固体C捕集でCOP21約束草案に貢献する革新触媒プロセスの開拓」(2021年~2023年)
  • 新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)水素利用等先導研究開発事業補助金「メタン活性化と炭素析出の反応場分離による水素製造」(2021年~2022年)
委員等:
  • 静岡県ふじのくに未来のエネルギー推進会議:副会長(2023年~),委員(2021年~2022年)
  • 学術誌Chemistry Lettersエディター(2018年~)
学会等:
  • 化学工学会理事(2023年~)
  • 化学工学会東海支部長(2021~2022年)
  • 触媒学会理事(2018~2019年)
  • 化学工学会反応工学部会長(2016~2017年)
  • 触媒学会第126触媒討論会開催実行委員長(2020年)
  • 化学工学会触媒反応工学分科会代表(2018~2019年)
著書・論文:
  • 1) C. Fukuhara, N. Hirata, R. Ozaki, R. Watanabe, Performance intensification of CO2 methanation by co-feeding oxygen over various Ru-based catalysts, Journal of Chemical Engineering of Japan, 56(1), 294327 (2023)
  • 2) 福原長寿,CH4のドライ改質と固体炭素の捕集で拓くCO2 資源化プロセス,触媒,64(1),9(2022)
  • 3) C. Fukuhara, Y. Matsui, M. Tanebayashi, R. Watanabe, A novel catalytic reaction system capturing solid carbon from greenhouse gas, combined with dry reforming of methane, Chemical Engineering Journal Advances , 5 ,100057(2021)
  • 4) 福原長寿,常温作動のメタン化技術で拓くCO2ガスの資源化と固体炭素化, PETROTECH,44(5), 322(2021)
  • 5) N. Hirata, R. Watanabe, C. Fukuhara, Performance characteristics of auto-methanation using Ru/CeO2 catalyst, autonomously proceeding at room temperature, Fuel, 282, 118619 (2020)
  • 6) C. Fukuhara, A. Kamiyama, M .Itoh, N. Hirata, S. Sakhon, M. Sudoh, R. Watanabe, Auto-methanation for transition-metal catalysts loaded on various oxide supports: A novel route for CO2 transformation at room-temperature and atmospheric pressure, Chemical Engineering Science, 219, 115589(2020)

最新情報はこちら

静岡大学研究フェロー