有害物を使わない、 出さない : 間瀬 暢之 MASE Nobuyuki(グリーン有機化学)

有機化学を基盤としたグリーンものづくり

間瀬暢之教授(工学部)は、独自に研究・開発しているファインバブル、マイクロ波、フロー反応、機械学習を駆使して、E-Factor(廃棄物指標)・エネルギー・コストを最小化して、安全性・再現性・生産性・選択性を最大化にする「グリーンものづくり」について研究している。これにより、開発した物質を「必要な時に、必要な量を供給できるシステム」の構築、廃棄物を出さないものづくりへと展開し、SDGsにおける「つくる責任」の達成を目指す。

2023年3月取材

Chapter 01

多くの命を救えるように
「from mg to ton」を可能にする化学技術を研究

「化学者は多くの命を救える」。私は、この志を実現するために、「from mg to ton」(1 mgの薬で一人の命を救うことができるならば、1トン作る技術があれば10億人を救うことができる)を可能にする化学技術を追究しています。

世界中の人々の手元に開発した物質を届けるためには、「必要な時に、必要な量を供給できるシステム」の構築が必要です。さらに、従来法の廃棄物が多い合成法ではなく、グリーンサステイナブルケミストリーに基づいたものづくりを実践するとともに、持続可能な開発目標であるSDGsに基づいた「つくる責任」も同時に果たさなければなりません。

Chapter 02

プロセス化学を基礎研究から取り入れて21世紀型のものづくりへ

そのためには、優れた工業的合成法を確立することをゴールとするプロセス化学が必要です。そして、それを基礎研究の段階から取り入れることが21世紀型のものづくりにつながっていきます。

特に、既存の技術を踏まえた新規・新奇な技術・方法論を確立していくことが望まれます。以上の背景より、独自に研究・開発しているファインバブル、マイクロ波、フロー反応、機械学習を駆使して、E-Factor(廃棄物指標)・エネルギー・コストを最小化して、安全性・再現性・生産性・選択性を最大化にする「グリーンものづくり」について研究しています。

Chapter 03

産学官連携の推進により、
生活・文化の発展に国際的に貢献していきたい

私は、グリーンケミストリーを表現するスローガンから「なるべく」という言葉を削除し、「物質を設計し、合成し応用するときに有害物を使わない、出さない化学」を実践していかなければならないと考えています。

しかし、その難易度は格段に上がります。この難題に挑戦し、本気で解決していくために、3つのことに取り組んでいます。
①当量反応、100%収率による完全合成(マイクロ波化学)
②気相が関与するグリーン多相系反応(ファインバブル化学)
③自動フロー合成装置開発(フロー化学)

これには、基礎学力・好奇心・探求心・俯瞰力に秀でた学生さんとの協働が不可欠であり、「レシピを作れるプロセスケミスト」の人財育成に取り組んでいます。医薬品・農薬などのファインケミカルズ、機能性繊維・塗料などのスペシャリティーケミカルズを対象として、産学官連携を推進することにより、生活・文化の発展に国際的に貢献していきます。

まずは共感できるところから一緒に飛び抜けませんか?

[写真]教授 間瀬 暢之 MASE Nobuyuki
[プロフィール写真]教授 間瀬 暢之 MASE Nobuyuki

教授間瀬 暢之 MASE Nobuyuki(グリーン有機化学)

1971年9月生まれ、1999年名古屋工業大学大学院博士課程修了、1999年静岡大学助手、2003年文部科学省在外研究員(米国・スクリプス研究所)、2007年同大学准教授、2014年同大学教授
2011年より第1期若手重点研究者、2016年より第3期研究フェロー、2019年より第4期研究フェロー、2022年より第5期研究フェロー

主な研究業績

受賞歴:
  • IJRC奨励賞(2011年)
  • 東海化学工業会学術賞(2009年)
  • 有機合成化学協会東海支部奨励賞(2006年)
  • 有機合成化学協会研究企画賞(2006年,1999年)
指導学生の受賞:
  • 日本油化学会年会 学生奨励賞(2021年,2015年)
  • 日本油化学会東海支部 オレオ奨励賞(2021年,2016年)
  • JACI/GSCシンポジウム GSCポスター賞(2022年,2019年,2017年,2016年)
  • 日本化学会春季年会 ハイライト講演(2019年,2018年)
  • 中部化学関係学協会支部連合秋季大会 優秀賞(2016年,2011年,2010年)
  • CSJ化学フェスタ 優秀ポスター発表賞(2015年,2014年)
  • 有機合成シンポジウム 優秀ポスター賞(2013年)
  • TEAC討論会 ベストプレゼンテーション賞(2006年,2003年)など
外部資金獲得状況(科学研究費):
  • 学術変革領域研究(A) “グリーンものづくりに向けた合成手法の機械学習最適化と化学反応の理解”(2022年~2024年)
  • 基盤研究(B)“ファインバブルによるグリーンものづくり:原理原則の解明から合成プロセス開発まで”(2021年~2024年)
  • 基盤研究(B)“ファインバブル有機合成の確立:日本で生まれた技術によるグリーンものづくりに向けて”(2018年~2021年)
  • 新学術領域研究(研究領域提案型)“特殊反応場における連続合成:マイクロウェーブ・ファインバブル・フロー手法の融合”(2018年~2020年)
  • 挑戦的萌芽研究“樽化学から学ぶ環境調和型酸化反応システムの解明と構築”(2016年~2018年)
  • 基盤研究(B)“マイクロバブル・ナノバブル手法による次世代型気相-液相グリーン化学プロセスの開発”(2015年~2018年)
  • 新学術領域研究(研究領域提案型)“「モノづくり」の実用化を指向した多機能性有機触媒による超臨界流体中ポリ乳酸合成”(2014年~2016年)など
著書・論文:
  • 1)T. Kozuka, T. Iio, S. Suzuki, K. Kakiuchi, G. Tadano, K. Sato, T. Narumi, N. Mase, “Enhancing Multiphase Reactions by Boosting Local Gas Concentration with Ultrafine Bubbles”, Bull. Chem. Soc. Jpn., 996 (8), in press (2023). 優秀論文(Selected Paper)
  • 2)間瀬暢之ら、“フローマイクロ合成の最新動向 第IV編:プロセス強化,実用化への展開について、第20章 プロセスインフォマティクス:プロセス強化のためのAI活用、シーエムシー出版、227-234(2021年)
  • 3)間瀬暢之、“マイクロバブル・ナノバブルの技術と市場 2021 第6章 グリーンものづくり:ファインバブル有機合成手法の開発、シーエムシー出版、59-66(2021年)
  • 4) 間瀬暢之ら、“In Green Science and Technology; Chapter 5, Catalytic Green Organic Synthesis in Unique Reaction Environments、CRC Press、65-82(2019年)など

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静岡大学研究フェロー