白色腐朽菌のチカラを活かして : 平井 浩文 HIRAI Hirofumi(環境生物化学)

白色腐朽菌を用いたバイオリファイナリー及びバイオレメディエーション

平井浩文教授(農学部)が研究テーマとする白色腐朽菌は、リグニンを分解できる唯一の微生物である。さまざまな能力や可能性を有する白色腐朽菌を用いて、木材を原料に、バイオ燃料やプラスチック原料の産生(バイオリファイナリー)や、難分解性の環境汚染物質の分解・無毒化(バイオレメディエーション)などに取り組み、地球環境の課題解決への貢献を目指している。

2023年3月取材

Chapter 01

木材を分解する微生物「白色腐朽菌」で地球環境の課題解決に挑む

現在、地球温暖化や環境汚染など、地球環境が危機的な状況にあります。地球温暖化は石油などの化石資源の利用に寄るところが大きく、環境汚染は、人類の豊かさを最優先に経済活動を進めたために起こったと言っても過言ではありません。

これらの問題を解決するために、「白色腐朽菌」と呼ばれる一群の微生物を使った研究を展開しています。

シイタケやヒラタケ、マイタケなど身近な食用キノコの仲間である白色腐朽菌は、木材の主要成分の一つ「リグニン」を高度に分解できる唯一の微生物です。

リグニンという難分解性高分子が細胞壁に堆積して木材を強固にしていますので、これを唯一分解できる白色腐朽菌は、自然界において「木材の分解者」として重要な役割を担っています。なお、リグニン(褐色成分)が分解されると、木材の色が分解後に残ったセルロースの白色に変わることから、その名がつきました。

Chapter 02

バイオ燃料やプラスチック原料の産生
環境汚染物質の分解・無毒化を目指して

白色腐朽菌が持つ「木材(リグニン)分解能」および「各種発酵能」という2つ能力を活用して、 木材(セルロース及びリグニン)から、「バイオ燃料」(エタノールや水素など)や「プラスチック原料」(乳酸、フェノール類、 ジカルボン酸類など)を産生可能な白色腐朽菌株の(遺伝子工学的)作出を展開しています。

さらに、白色腐朽菌のユニークな異物代謝能に着目し、白色腐朽菌を用いた難分解性環境汚染物質の分解・無毒化についても研究を行っています。環境ホルモンと考えられているビスフェノールA、カビ毒アフラトキシンB1、ミツバチの大量失踪・大量死の原因物質と考えられているネオニコチノイド系殺虫剤の分解・無毒化が期待されます。

Chapter 03

環境に優しい生体触媒「白色腐朽菌」が実現するバイオリファイナリーとバイオレメディエーション

地球温暖化の解決に向けてバイオエタノールの生産が行われていますが、現状ではサトウキビやトウモロコシといった食用植物から生産されているため、2050年代には100億人を突破しそうな地球において得策とは言えません。食料用植物は、食料として使わないといけなくなるでしょう。

木材などの非可食性バイオマスを有効活用し、バイオ燃料やプラスチック原料を製造する技術開発が必須ですが、キノコの仲間である白色腐朽菌が、環境に優しい、新たな製造法となる可能性を秘めています。

難分解性環境汚染物質の分解・無毒化などの能力を十二分に活用した、環境に優しい浄化法も可能であることから、『地球の救世主としての白色腐朽菌』の基礎・応用研究に勤しんでいるところです。

[写真]教授 平井 浩文 HIRAI Hirofumi
[プロフィール写真]教授 平井 浩文 HIRAI Hirofumi

教授平井 浩文 HIRAI Hirofumi(環境生物化学)

1969年10月生まれ、1997年九州大学大学院博士課程修了、1999年静岡大学農学部助手、2004年静岡大学農学部助教授、2014年静岡大学農学部教授
2022年より第5期研究フェロー

主な研究業績

受賞歴:
  • 日本木材学会賞(2017年)
  • 森喜作賞(2013年)
  • IJRC奨励賞(2010年)
  • 日本木材学会奨励賞(2002年)
外部資金獲得状況:
  • 科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)「高活性リグニン分解菌を用いた新規リグニンリファイナリー技術の構築」(2023~2024年)
  • 科学研究費補助金 基盤研究A「白色腐朽菌の環境汚染物質代謝能の意義解明及び汚染環境浄化への発展的応用」(2021~2024年)
  • 科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)「白色腐朽菌を用いたリグニン由来フェノール類高産生技術の確立」(2020~2021年)
  • 科学研究費補助金 基盤研究B「新規白色腐朽菌の好気的水素産生メカニズムの解明」(2018~2020年)
委員等:
  • 日本木材学会 常任理事(2020~2022年)
  • 科学研究費委員会 挑戦的研究部会 小委員会審査委員(2016~2018年)
  • 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果最適展開支援プログラム専門委員(2016年)
著書・論文:
  • 1) T. Mori, S. Sugimoto, S. Ishii, J. Wu, A. Nakamura, H. Dohra, K. Nagai, H. Kawagishi, H. Hirai: Biotransformation and detoxification of tetrabromobisphenol A by white-rot fungus Phanerochaete sordida YK-624, J. Hazard. Mater., 465, 133469, 2024.
  • 2) T. Mori, S. Takahashi, A. Soga, M. Arimoto, R. Kishikawa, Y. Yama, H. Dohra, H. Kawagishi, H. Hirai: Aerobic H2 production related to formate metabolism in white-rot fungi, Front. fungal biol., 4, 1201889, 2023.
  • 3) R. Yin, X. Zhang, B. Wang, J. Jia, N. Wang, C. Xie, P. Su, P. Xiao, J. Wang, T. Xiao, B. Yan, H. Hirai (2022) Biotransformation of bisphenol F by white-rot fungus Phanerochaete sordida YK-624 under non-ligninolytic condition, Appl. Microbiol. Biotechnol., 106, 6277-6287.
  • 4) T. Mori, H. Ohno, H. Ichinose, H. Kawagishi, H. Hirai: White-rot fungus Phanerochaete chrysosporium metabolizes chloropyridinyl - type neonicotinoid insecticides by an N-dealkylation reaction catalyzed by two cytochrome P450s, J. Hazard. Mater., 402, 123831, 2021.
  • 5) J. Wang, Y. Tanaka, H. Ohno, J. Jia, T. Mori, T. Xiao, B. Yan, H. Kawagishi, H. Hirai: Biotransformation and detoxification of the neonicotinoid insecticides nitenpyram and dinotefuran by Phanerochaete sordida YK-624, Environ. Pollut., 252, 856-862, 2019.

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静岡大学研究フェロー