カイコの可能性をひろげる : 朴 龍洙 PARK Enoch Y.(応用生物化学、ナノバイオ科学)

ウイルスの迅速検出と抗原提示ウイルス様粒子の創出

朴龍洙教授(グリーン科学技術研究所/副所長)は、カイコによる高度タンパク質の大量発現ついて研究している。かつて世界最大の生糸輸出国だった日本で、蚕糸業を支え、多くの人々の生活を支えたカイコ。ナノテクノロジーとの融合によって新しいバイオナノマテリアルの創成への展開が期待されている。カイコバイオファクトリーによるヒトの感染症の診断、ワクチンや病気を治療するためのタンパク質製造を静岡から世界に広げていくことを目指している。

2023年3月取材

Chapter 01

カイコを科学技術の開発に用いて
感染症のワクチン開発などを目指す

近年、新型コロナウイルス感染症パンデミックによる人類の生活全般に深刻な影響を及ぼしています。感染症ウイルスによる感染拡大の被害を最小限に止めるためには、感染初期の迅速で正確な診断及びワクチンによる予防法の確立です。

そこで、本研究では「タンパク質生産工場」として知られているカイコを、社会に役に立つさまざまな科学技術の開発に用いています。

①ウイルスと同様な構造で遺伝物質を持たないウイルス様粒子を基盤とするワクチン作製に関する基盤研究

②ナノテクノロジーによる感染症の迅速・高感度検出に関する応用研究

Chapter 02

ナノテクノロジーとの融合によって、
カイコが生命産業の担い手となる可能性も

これらの研究は、ナノテクノロジーと融合することによって、新規バイオナノマテリアルの創成への展開が期待され、がん細胞の追跡やイメージング、さらにはドラグデリバリーへと農業、化学工業など幅広い分野への応用が可能となります。

カイコは欧米にはない我が国が誇る生物資源です。シルクで人類の衣生活を豊かにし、我が国の産業を支えたカイコは、生命産業の担い手として21世紀に再び日の目を見ることを期待します。

Chapter 03

犬や猫のインターフェロンを生産するなど、
医薬分野でカイコの活用に期待高まる

カイコの漢字は、“天の下に虫(蚕)”と書きます。貴重なシルクを人類に与えた恵みの昆虫という意味でしょうか。かつて、我が国は世界一の養蚕国となり、養蚕業が我が国の近代化の礎を築きました。しかし、世界恐慌や世界大戦などを経て、天然繊維のシルクが人工繊維のナイロンにとって代わり、養蚕業は衰退し、カイコの産業的地位も低下した状態が長く続いてしまいました。

ところが近年、カイコが持つタンパク質の生産能力に注目が集まり、医薬分野で使われる遺伝子組換えタンパク質の生産において、カイコの産業的地位も再び上昇しています。

現在、我が国はカイコに関する研究分野において最先端を走っており、犬や猫のインターフェロンをカイコで生産し、ペットの健康維持などに貢献しています。

Chapter 04

桑の木を植え、バイオ農業の復活へ新時代のカイコバイオファクトリーを夢見て

カイコは素晴らしいタンパク質合成能力を備えており、人類と歴史を共にした恵虫です。今後は、遊休地に桑の木を植え、バイオ農業を復活させるなど、再びカイコを産業の場に招き入れ、地方に合った持続可能な地方創生に一役担ってほしいと願っています。

カイコバイオファクトリーによるヒトの感染症の診断、ワクチンや病気を治療するためのタンパク質製造を実現し、カイコの「シルクロード」から「バイオロード」へ、from Silk road to Bio-roadへの道を開拓し、日本から全世界に発信していくのが夢です。

[写真]教授 朴 龍洙 PARK Enoch Y.
[プロフィール写真]教授 朴 龍洙 PARK Enoch Y.

特任教授朴 龍洙 PARK Enoch Y.(応用生物化学、ナノバイオ科学)

1958年12月生まれ、1990年東京大学大学院博士課程修了、1990年名古屋大学助手、1993年静岡大学助手、1994年静岡大学助教授、1999年静岡大学教授、2006年静岡大学創造科学技術大学院教授、2013年グリーン科学技術研究所教授・所長、2022年同研究所副所長、2024年定年退職、現農学部特任教授
2011年より第1期卓越研究者、2013年より第2期卓越研究者、2016年より第3期研究フェロー、2019年より第4期研究フェロー、2022年より第5期研究フェロー

主な研究業績

受賞歴:
  • 第60回読売農学賞(2023年)
  • 第94回日本農学賞(2023年)
  • 田中貴金属研究財団奨励賞(2018年)
  • 財団法人日本生物工学会照井賞(1995年)
  • 財団法人日本生物工学会論文賞(1994年)
外部資金獲得状況:
  • 二国間交流事業共同研究「酵素アシストによる二重連続増幅型ウイルスRNA検出法の開発」(2023~2025年)
  • 科学研究費補助金基盤研究(A)「分子制御が可能な多抗原提示型ウイルス様粒子による蚊媒介感染症のワクチン開発」(2020~2024年)
  • 国際共同研究強化B「蚊媒介性ウイルス疾患の診断に向けた選択的かつ高感度多検体ウイルス検出技術の開発」(2020~2022年)
  • 科学研究費補助金基盤研究(A)「高免疫応答型多価ウイルス様粒子を用いた原虫感染症治療用ワクチン開発基盤技術の構築」(2016~2019年)
  • 科学研究費補助金基盤研究(A)「抗原提示バキュロウイルスを用いた原虫感染症治療用ワクチン開発基盤技術の構築」(2010~2013年)
  • 農水省新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業補助金(一般型)「高次タンパク質の大量発現用バクミドの開発及び応用」(2005~2008年)
委員等:
  • JSTマッチングプランナープログラム専門委員(2017年~)
  • フーズサイエンスヒルズプロジェクト戦略検討委員会(2017年~)
  • 科学技術研究費委員会専門委員(2008年~)
学会等:
  • 日本生物工学会中部支部支部長(2013~2015年)
  • 日本生物工学会
  • 日本農芸化学会
国内外の学会誌編集等:
  • Probiotics and Antimicrobial Proteins (2021年~)
  • Protein Exp. & Purif. (2021年~)
  • Biotechnol.Letter. (2013年~)
  • BMC Biotechnol. (2011年~)
  • Enz. Microb. Technol. (2005年~)
  • Biotechnol. Bioprocess Eng. (2000年~)
著書・論文:
  • AMB Express, 12, 8 (2022)
  • Biosens. Bioelectron., 193:113540 (2021)
  • Protein Exp. & Purif., 190, 106010 (2021)
  • Nanoscale,12, 16944–16955 (2020)
  • Fish & Shellfish Immunol., 101, 152–158 (2020)
  • Nat. Commun.,10:3737 (2019)
  • Vaccine, 37, 6426–6434 (2019)
  • その他345編

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静岡大学研究フェロー