超低消費電力デバイスの創成 : 小野 行徳 ONO Yukinori(ナノエレクトロニクス)

極低消費電力・新原理デバイスの研究

小野行徳教授(電子工学研究所)が取り組む極低消費電力・新原理デバイスの研究は、デバイス動作に伴う発熱をできる限り抑制し、電子機器のエネルギー消費削減のための革新的技術を創出しようとするものである。研究キーワードは、ナノエレクトロニクス、シリコンデバイス、量子伝導、電子流体、電子スピン共鳴、チャージポンピング。

2023年3月取材

Chapter 01

電子機器の「熱の発生」問題を解決するために超低消費電力デバイスを研究

スマホで動画を見ているとスマホが少し温かくなる(温度が上がる)ことにお気づきの方もいらっしゃると思います。これは電子機器の構成部品であるトランジスタが大量の熱を放出しているためで、この熱の発生が電子機器の性能向上を阻害する主要因となっています。

私たちの研究室では、電子機器につきまとう「熱の発生」という本質的な問題を解決するために、超低消費電力デバイスの研究を行っています。

Chapter 02

新原理デバイス「電子アスピレーター」を開発し、電力供給なしにトランジスタの電流を増幅させることに成功

私たちが「電子アスピレーター」と名付けた新原理デバイスも、超低消費電力デバイスの一つです。「アスピレーター」とは、入口と出口の他にもう一つの吸込み口を持つT字菅のことで、入口を水道の蛇口へ、出口を排水口へ接続し、蛇口から勢いよく水を流すと、吸い込み口から液体や気体を引き込み排水口へ流すことができるデバイスです。動作のための電力が不要なため、化学の実験において液体や気体をポンピングするときなどに、簡便に使用されています。

私たちは、ナノメートルサイズ(1ナノメートルは10-9メートル)の極微なトランジスタにおける電流でも類似の現象が起こることを見出しました。また、この発見に基づき「電子アスピレーター」を開発し、電力供給なしに(付加的な熱の発生なしに)トランジスタの電流を増幅することに成功しています。

Chapter 03

トランジスタの基板に欠かせないシリコンを用いて、ナノ領域で新たな現象を発見したい

私の所属は工学部ですが、行っている研究はむしろ理学部のそれに近いかもしれません。新原理デバイスの開発には、新しい現象の「発見」が不可欠です。私たちの研究対象は、現在のトランジスタの基板として用いられているシリコン(Si)であり、ナノメートル領域の極微のシリコンにおける新たな現象の発見を目指しています。

研究をしていると、理解できない実験データが毎月のように出てきます。そしてその多くはその原因すら特定できず、あるいは特定できたとしてもあまり重要でないことが判明してしまいます。

これらのデータの中から、本質を見極め本当に重要な発見を見逃さないためには、幅広い知識はもちろんですが、個々の研究者の美意識や哲学も重要になってきます。実験結果を予想するとき、「こうであったら美しいなぁ」とか、「こうなったらすごいなぁ」という強い思いが、研究には重要だと思います。その意味で、研究者には芸術家に近い感覚が必要だと思っています。私自身、芸術家肌ではありませんが、なるべくそのような感覚を持てるようにと、日々心掛けています。

[写真]教授 小野 行徳 ONO Yukinori
[プロフィール写真]教授 小野 行徳 ONO Yukinori

教授小野 行徳 ONO Yukinori(ナノエレクトロニクス)

1963年7月生まれ、1988年早稲田大学大学院修士課程修了(1996年 博士(工学))、1988年日本電信電話株式会社(NTT)入社(1996.12~1997.12 M.I.T.客員研究員)、2012年 富山大学教授、2016年 静岡大学教授
2019年より第4期研究フェロー、2022年より第5期研究フェロー

主な研究業績

受賞歴:
  • 応用物理学会フェロー表彰(2023年)
  • 令和2年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)
  • 第34回 高柳記念賞(2020年)
  • 第38回 日本応用物理学会論文賞(2016年)
  • NTT物性科学基礎研究所 業績賞(2009年)
  • NTT先端技術総合研究所 研究開発賞(2000年、2007年)
外部資金獲得状況:
  • 科学研究費補助金基盤研究A「電子流体効果を用いた新原理シリコンデバイスの研究」(2020年~2023年)
  • 科学研究費補助金挑戦的研究(開拓)「MOSトランジスタ構造を基盤としたシリコン超伝導」(2022年~2026年)
  • 基盤研究A 4件、挑戦的研究(開拓)2件, 挑戦的萌芽研究 2件など
委員等:
  • 日本学術振興会学術システムセンター専門研究員(兼務)(2019~2023年)
  • 日本学術振興会国際科学研究費委員会専門委員(2018年)
  • 科学技術研究費委員会専門委員(2005~2007、2009~2014、 2016~2018年)
学会等:
  • ⽇本応⽤物理学会マイクロプロセス・ナノテクノロジー国際会議組織委員⻑(2019年)
  • IEEEシリコン・ナノエレクトロニクスワークショップ組織委員⻑(2009年)
  • 日本応用物理学会 フェロー
  • IEEE、電子情報通信学会、日本表面真空学会 会員
著書・論文:
  • 1)「Detection of arsenic donor electrons using gate-pulse-induced spin-dependent recombination in silicon transistors」M. Hori and Y. Ono, Applied Physics Letters, vol.118, 263504_1-6 (2021).
  • 2)「Charge pumping under spin resonance in Si(100) metal-oxide-semiconductor transistors」M. Hori and Y. Ono, Physical Review Applied, vol.11, 064064_1-12 (2019).
  • 3)「Electron aspirator using electron-electron scattering in nanoscale silicon」H. Firdaus et al., Nature Communications, vol.9, 4813_1-8 (2018).

最新情報はこちら

静岡大学研究フェロー