レッスンを分析して、演奏解釈が伝わるプロセスを研究
音は鳴ったその瞬間から消えてしまうものですが、五線譜という優れた記譜システムにより、私たちは楽譜を頼りに何百年も前の音楽も楽しむことができます。そのため「楽譜=音楽そのもの」と認識しがちですが、楽譜はあくまで音楽を記号化しただけのものであり、そこから音楽を生み出すには、楽譜に書き表すことができない「解釈」を演奏者がその都度加えることが不可欠です。クラシック音楽が「再現芸術」と呼ばれるのもそのような理由からです。
これまでの演奏研究は、この「解釈」の問題を個人のひらめきや感性という言葉で片づけてしまいがちでした。しかし演奏行為は常に、人々の音楽観や文化の在り方との関わりの中で成り立っており、演奏解釈もまたそのような歴史的な軸の中で変容しつつ師から弟子へと口頭伝承されてきました。
私は、楽譜に書かれざる演奏解釈がどのように形成・伝承されるのかを、レッスンを分析することで研究しています。レッスンを通じて教授された演奏解釈を頭(知識)と身体(技能)の両方で会得していくプロセスは暗黙知とのつながりもあり、広がりのある研究分野だと感じています。