演奏者の解釈が音楽を創る : 後藤 友香理 GOTO Yukari(演奏実践)

クラシック音楽における演奏解釈の形成と伝承

2023年3月取材

Chapter 01

レッスンを分析して、演奏解釈が伝わるプロセスを研究

音は鳴ったその瞬間から消えてしまうものですが、五線譜という優れた記譜システムにより、私たちは楽譜を頼りに何百年も前の音楽も楽しむことができます。そのため「楽譜=音楽そのもの」と認識しがちですが、楽譜はあくまで音楽を記号化しただけのものであり、そこから音楽を生み出すには、楽譜に書き表すことができない「解釈」を演奏者がその都度加えることが不可欠です。クラシック音楽が「再現芸術」と呼ばれるのもそのような理由からです。

これまでの演奏研究は、この「解釈」の問題を個人のひらめきや感性という言葉で片づけてしまいがちでした。しかし演奏行為は常に、人々の音楽観や文化の在り方との関わりの中で成り立っており、演奏解釈もまたそのような歴史的な軸の中で変容しつつ師から弟子へと口頭伝承されてきました。

私は、楽譜に書かれざる演奏解釈がどのように形成・伝承されるのかを、レッスンを分析することで研究しています。レッスンを通じて教授された演奏解釈を頭(知識)と身体(技能)の両方で会得していくプロセスは暗黙知とのつながりもあり、広がりのある研究分野だと感じています。

Chapter 02

何百年前の音楽も、演奏者によって常に再創造

クラシック音楽というと古臭く難しい音楽と感じられる方もいるかもしれません。でも演奏解釈という点から見れば、たとえその音楽が何百年も前に作曲されたとしても、演奏者を通じて常に再創造されていることになります。

私自身、ピアノを始めて30年以上になり、ピアニストとしての活動もしています。演奏活動は、私にとっては重要な研究の一つです。

最近では、歴史的な楽器を使用した演奏会や映像とコラボレーションした演奏会、静岡県立美術館でのCD収録などを行い、音楽がどのように地域文化の発展に貢献できるのか、新しい表現や解釈の可能性を模索しています。

Chapter 03

音楽は空間ごと体感するもの

“音楽作品”は、それ自体完結した、自律的なものと言えますが、他方で、それを“演奏する”という行為は、常に周囲の影響を受けるものであり、いつ・どのような空間で・何を考えながら・誰と・どのように演奏するか(聴くか)、によってその都度音楽体験も変わります。同じ曲を聴いても、奏者や聴いた時のシチュエーションが変われば、その音楽の印象はずいぶん変わりますね。つまり、音楽はその場で生じた出来事そのものを味わうものです。みなさんも、ぜひ耳だけではなく空間ごと音楽を体感してください。

[プロフィール写真]准教授 後藤 友香理 GOTO Yukari

准教授後藤 友香理 GOTO Yukari(演奏実践)

1981年5月生まれ。2009年東京藝術大学大学院音楽研究科博士課程修了、博士(音楽)東京藝術大学非常勤講師を経て、2014年静岡大学教育学部助教、2016年同講師
2022年より第5期若手重点研究者

主な研究業績

受賞歴:
  • 第28回ブルクハルト国際音楽コンクールピアノ部門第5位入賞(2020年)
  • 第15回べーテン音楽コンクール優秀指導者賞(2021年)など
外部資金獲得状況:
  • 科学研究費補助金研究活動スタート支援「ピアノ・レッスンに関する質的研究:ゴールドベルク山根美代子の音楽的語彙を例に」 (2018年~2022年)
  • 公益財団法人静岡市文化振興財団第19回静岡音楽館AOIコンサート企画募集事業「古典調律の世界~後藤友香理ピアノ・リサイタル~」(2020年)
  • 一般財団法人山田音楽財団コンサート・録音 助成事業「美術館との協働によるCD制作 ~静岡県立美術館ロダン館を舞台に~」(2021年~2022年)
  • 一般財団法人ズームグループ学術振興財団研究助成事業「ソニー『360 Reality Audio』を用いたクラシック音楽コンテンツの制作 ~音楽家と技術者の協働による音楽作品の再解釈~」(2023年)
委員等:
  • 静岡県学生音楽コンクールピアノ部門審査員(2014年~)
  • 公益財団法人静岡市文化振興財団静岡音楽館市民会議委員(2016年~)
著書・論文:
  • 1)(共著)「要素同士の関連に着目した鑑賞活動の実証的研究 ―ヴィヴァルディ《春》を題材として―」、『静岡大学教育実践総合センター紀要』第30巻、pp.115–123(2020)
  • 2)「演奏解釈の口頭伝承 ―ゴールドベルク山根美代子のピアノ・レッスンを例に」、『音楽教育メディア研究』第8巻、pp.25-35(2022)など
CD:
  • 「インスピレーション:後藤友香理 シューマン・アルバム」、KML-8861(2017年)、「後藤友香理ピアノ・リサイタル 古典調律の世界」、ECL301(2021年)
  • 「ロダンをめぐる8つのイマージュ」ECL102(2022年)

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静岡大学若手重点研究者