教師の「語り」から探る社会科教育 : 村井 大介 MURAI Daisuke(社会科教育学、教育社会学)

社会的な課題を教材化する教師のライフストーリー研究

2023年3月取材

Chapter 01

教師が何を願い、どんな授業を実践してきたのか、ライフストーリーを聴き取る

社会科と聞くと、どのような学習経験が思い浮かびますか。社会科は、単なる暗記科目ではなく、平和で民主的な国家・社会の形成につながる重要な科目です。教師は、学習指導要領が示す「平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力」を育成する」という目標をふまえつつ、そこれまでの経験をもとに、自分の言葉で社会科を教える意義や方法を自分の言葉で考えて授業を実践しています。

一方で、2018年度に内閣府が実施した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」では、「社会をよりよくするため、私は社会における問題の解決に関与したい」(肯定群42.2%)、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」(肯定群32.5%)と、他国に比べて若者の社会的課題への意識が著しく低いという課題が生じています。

このような状況に対し、社会的な課題を積極的に取り上げて、児童生徒が社会に対して具体的に何かを実現したいと願うような、社会的な希望を形成することに寄与する授業を実践している教師がいます。

そこで、教師がどのような願いを持ちながら、その実現に向けてどのような授業を実践してきたのか、教師のライフストーリーを聴き取り、社会的な課題を取り上げるに至った経緯や、社会事象を教材化する際に直面した課題とそれを乗り越える工夫を明らかにする研究を行っています。

研究を通して、社会問題と対峙し、当事者の声を共有しようとする教師の姿が明らかになりつつあります。語りの内容だけでなく、語るという行為そのものがもつ実践的ならびに社会的な意義にも着目して研究しています。

Chapter 02

学生と共に考えながら、日々教育の魅力を再発見しています

カリキュラムの語源であるクレレ(currere)という言葉は、元来は陸上競技のコース、「自分の歩んできた道」を意味します。教師は、児童生徒の歩む道にかかわりながら学び続け、自身のストーリーを歩み続けています。聴き取らなければ語られることのない、教師のライフストーリーに着目することは、教師の専門性の発達過程を明らかにするだけでなく、行政やメディアによって創出されてきた教育言説を教師の言葉で捉え直すことにもつながります。

教師が実現したいと願う希望を聴き取り共有することは、教育の新たな可能性を切り拓き、社会的に構成していくことにつながると考えています。

この研究成果を教師や学生などと広く共有することが、教師の授業づくりに役立ち、その結果として、社会科が好きな子が一人でも増えれば嬉しいです。教育学部の授業でも、学生同士が対話し、教師として実現したい希望を形成できる機会を大切にしています。

[プロフィール写真]准教授 村井 大介 MURAI Daisuke

准教授村井 大介 MURAI Daisuke(社会科教育学、教育社会学)

1984年11月生まれ、2014年日本学術振興会特別研究員、2016年筑波大学人間系特任研究員、2017年静岡大学学術院教育学領域講師、2018年筑波大学大学院博士課程単位取得退学、2018年博士(教育学)(筑波大学)、2023年静岡大学学術院教育学領域准教授
2022年より第5期若手重点研究者

主な研究業績

受賞歴:
  • 日本公民教育学会研究賞(2013年)
  • 筑波大学学生表彰(2014年)
  • 日本社会科教育学会賞(論文部門)(2015年)
外部資金獲得状況:
  • 科研費(特別研究員奨励費)「地理歴史科・公民科教師のライフヒストリー研究―教育課程の変容と教師の教科観―」(2014年~2015年)
  • 科研費(研究活動スタート支援)「希望に着目した社会科授業研究―授業実践の記録と教師の語りから―」(2016年~2017年)
  • 科研費(若手研究)「社会的な課題を教材化する教師の授業実践に関するライフストーリー研究」(2018年~2022年)
  • 科研費(若手研究)「どのようにすれば教師は授業で社会問題を取り上げることができるようになるか」(2023年~2027年)
委員等:
  • はままつ人づくり未来プラン推進委員会有識者(2020年~)
学会等:
  • 全国社会科教育学会研究倫理等検討専門委員会委員(2020年〜2022年)
  • 日本社会科教育学会幹事(2022年~)
国内外の学会誌編集等:
  • 日本社会科教育学会編集委員(2023年~)
  • 全国社会科教育学会編集委員(2023年~)
著書・論文:
  • 「教科の変容と社会科教師教育―教師の文化資本・社会関係資本に着目して―」日本社会科教育学会編『教科専門性をはぐくむ教師教育』東信堂, pp.94-108,2022年
  • 「ライフストーリーにみる社会科教師の力量形成」『社会科教育論叢』第51集,pp.33-42,2021年
  • 「教員養成におけるライフストーリーの応用可能性―社会科教師を志望する学生の教科観と教師観の形成―」『日本教師教育学会年報』第24号,pp.154-164,2015年
  • 「カリキュラム史上の出来事を教師は如何に捉えているか―高等学校社会科分化の意味と機能―」『教育社会学研究』第95集,pp.67-87,2014年
  • 「ライフストーリーの中で教師は授業を如何に語るか―教師の授業観からみた社会科教育研究の課題―」 『社会科教育研究』第121号,pp.14-27,2014年
  • 「公民科教師の教科観の特徴とその形成要因―教師のライフヒストリーの語りに着目して―」『公民教育研究』第20号,pp.49-66,2012年

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静岡大学若手重点研究者