中世の暮らしを未来に伝えたい : 貴田 潔 KIDA Kiyoshi(日本中世史、地域社会史)

地域の視点からみた中世社会の解明

2023年3月取材

Chapter 01

エネルギーにあふれた社会の歴史を探る、その研究のテーマと魅力

私は地域の視点から中世社会の実像を描き出すことを研究の大きな課題としています。広くいえば、村落、民衆、生業、流通・交通、都市・市場・港湾、金融などがそのテーマで、これらがどのように結びつきながら社会を構成していたのかということに関心があります。

ちなみに中世という時代は、およそ院政期から戦国期にあたります。この数世紀を生きた民衆たちはエネルギーに満ちあふれながら、今にいたる地域社会のあり方を大きく形づくりました。こうした躍動的な時代性に私は魅力を感じます。

Chapter 02

古文書を読み解き、現地を歩いて、中世の景観と生業を復原する

私の研究の手法としては、いわゆる古文書と呼ばれる文献史料を読み解くとともに、現地を歩くことに重点を置いています。そして、現代の私たちから近代・近世を経て遡っていくことで、数百年前の中世社会に生きた人々の姿を描き出したいと考えます。

例えば、刊本として活字化された史料集だけでなく、現在の旧家や公民館には近世・近代の古文書が膨大に残されています(図1)。これらには、中世に遡らなくとも、農業・漁業・林業・塩業などといったかつての人々の暮らしについて雄弁に語るものも多くあります。

また、戦前から終戦直後に生まれた人に、過疎化・限界集落化以前の地域の景観や生業を伺うこともあります。例えば、今は休耕地となっている場所でも、地元で暮らす古老の方々からかつての耕作の記憶を聞くこともあり、ときにそうした土地の歴史は中近世の検地帳(土地台帳)にまで遡ることもあります(図2)。

このように、現代のオーラルな情報を古文書という文字の情報に重ね合わせることで、よりリアルな地域の歴史を描き出すことが可能となります。

Chapter 03

数百年前の人々が残した、歴史・文化資源の情報を未来に伝えたい

現代では過疎化・限界集落化が進む日本の地域社会ですが、長い歴史を辿ってみると、無数の村落や都市的な場がアメーバのように誕生と消滅を繰り返してきました。しかし、院政期から戦国期にいたる中世という時代を通じて、日本列島のなかで地域社会の原形は大きくゆっくりと形づくられます。そして、文化的な豊かさと人々の苦悩を伴いながら、今日まで発展してきました。

そのため、現代においても、中世や近世に遡る歴史的な情報が地域社会のなかで残されていることは少なくありません。それは、一方では文字として残された膨大な量の古文書であり、もう一方では非文字として語られる慣習や人々の知識になります。

これらの多様な歴史・文化資源について情報を記録し、未来への伝達を目指すとともに、人々の生きた歴史として地域社会の過去を究明することが私に課せられた課題です。

[プロフィール写真]准教授 貴田 潔 KIDA Kiyoshi

准教授貴田 潔 KIDA Kiyoshi(日本中世史、地域社会史)

1982年7月生まれ、2012年九州大学大学院博士後期課程修了、2012年日本学術振興会特別研究員(PD)、2015年静岡大学准教授
2022年より第5期若手重点研究者

主な研究業績

外部資金獲得状況:
  • 科学研究費補助金若手研究(B)「前近代の平野部地域における景観史と災害史の融合的研究―大井川流域を素材に―」(2017年~2020年)など
委員等:
  • 静岡市文化財資料館運営委員会委員(2017年~2020年)
  • 興国寺城跡整備調査委員会委員(2016年~現在)
  • 沼津市文化財保護審議会委員(2018年~現在)など
学会等:
  • 第57回中世史サマーセミナー実行委員会委員長(2019年)など
著書・論文:
  • 1)貴田潔「中世における不動産価格の決定構造」(深尾京司・中村尚史・中林真幸編『岩波講座日本経済の歴史』第1巻 中世 11世紀から16世紀後半、岩波書店、2017年)
  • 2)貴田潔「筑後国水田荘の開発と「村」の枠組み」(海老澤衷編『よみがえる荘園―景観に刻まれた中世の記憶―』、勉誠出版、 2019年)
  • 3)貴田潔「遠江国笠原荘の「浦」にみる中世の港湾と海村」(田中大喜編『中世武家領主の世界―現地と文献・モノから探る―』、勉誠出版、2021年)

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