プラスチック分解酵素を進化 : 中村 彰彦 NAKAMURA Akihiko(界面酵素学)

固体の上で働く酵素を理解し改良する

2023年3月取材

Chapter 01

プラスチック分解酵素を進化させて循環型システムの構築を目指す

近年、環境汚染が問題となっているプラスチックも、実は人間が作り出した固体です。本研究ではそこに着目し、人工的にプラスチック分解酵素を進化させることで、自然のセルロースやキチンを分解代謝する循環型システムの構築を目指しています。

木材やエビ、カニおよび昆虫の殻は、非常に丈夫です。セルロースやキチンなどの糖質を含むため、分子鎖同士がとても強固にくっ付いた結晶構造を形成して物理的強度を発揮しています。

一方で、自然界には糖質を栄養源として生育するカビやキノコ、バクテリアが存在し、糖質結晶を分子鎖の端から順番に分解していく酵素分子を生産しています。分解に伴い、酵素分子は分子鎖に沿って結晶上を1方向に運動していきます。

そこで、酵素分子を蛍光色素や金属ナノ粒子で標識し、1分子ずつ動き方を解析することで、効率的な結晶分解の仕組みの解明に取り組んでいるところです。さらに、酵素の形状も調べることで、機能構造相関の解明も行っています。

Chapter 02

一方向に運動できる酵素はとてもよくできていて面白い

ノーベル物理学賞を受賞したW.E. Pauliが「固体は神が作ったが、表面は悪魔が作った」と言ったという逸話があります。

まさにその通りであり、固体表面で働く酵素は未吸着状態、非生産的吸着状態、生産的吸着状態の混合状態となるため、生化学計測ではそれらを分離することは非常に難しいです。ただ、1分子ずつ観測することでそれらの状態を区別しながら解析することができ、悪魔との対話は可能だと思っています。

酵素の大きさはナノレベル(10億分の1メートル)であり、 水分子の衝突が無視できないスケールです。イメージとしては常に暴風雨の中にいるような状態ですが、そんな中でも一方向に運動できる酵素はとてもよくできていて面白い物質です。その仕組みを理解して自由に作れるようになれば、さまざまなナノデバイスが作れるのではないかと考えています。

[プロフィール写真]准教授 中村 彰彦 NAKAMURA Akihiko

准教授中村 彰彦 NAKAMURA Akihiko(界面酵素学)

1985年4月生まれ、2014年東京大学大学院博士課程修了、2015年岡崎統合バイオサイエンスセンター助手、2018年分子科学研究所助手、2020年より静岡大学農学部テニュアトラック准教授(文部科学省 卓越研究員)
2022年より第5期若手重点研究者

主な研究業績

受賞歴:
  • Guinness World Records(2015年)
  • 波紋President Choice(2016年)
  • ATI研究奨励賞(2019年)
  • 日本生物物理学会若手奨励賞(2019年)
  • 第8回Biophysics and Physicobiology Editors’Choice Award(2021年)等
外部資金獲得状況:
  • JST創発的研究事業「プラスチックを探して壊すバイオマイクロドローンの創出」(2022年~2025年)
  • 科学研究費補助金基盤研究B「海洋微生物由来の糖質分解酵素に特徴的なダブル吸着ドメイン構造の1分子機能解析」(2019年~2022年)(財)
  • 新世代研究所ATI研究助成事業「省エネルギーリニアモーターの運動性を決める構造的要素の解明」(2015年~2016年)等
委員等:
  • 新世代研究所水和ナノ研究会委員(2019年~2021年)
  • 新世代研究所バイオ単分子研究会委員(2021年~)
学会等:
  • 日本生物物理学会中部支部会計(2020年~2021年)
著書・論文:
  • 1)「Positive Charge Introduction on the Surface of Thermostabilized PET Hydrolase Facilitates PET Binding and Degradation」/ACS Catal./11/8550-8564/2021
  • 2)「Processive chitinase is Brownian monorail operated by fast catalysis after peeling rail from crystalline chitin.」/Nat. Commun./9/3814/2018
  • 3)「”Newton‘ scradle “protonrelay with amide-imidic acid tautomerization in inverting cellulasevisualized by neutron crystallography」/Sci. Adv./1/ e150026/2015 等

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静岡大学若手重点研究者