地震現象の実体を探る : 三井 雄太 MITSUI Yuta(地球物理学)

データ科学的手法に基づく地球の動きのメカニズム解明

2023年3月取材

Chapter 01

地球内部で生じる現象のメカニズムを推定し、地震発生の複雑性と法則を解明

人工衛星の観測による地表変位、重力変動、並びに地震計による地表・地下の振動などのデータの統計モデリングに基づいて、地震やスロー地震など地球内部で生じる現象のメカニズムを推定してきました。

加えて、断層にかかる摩擦の非線形性や断層間の力学的相互作用がもたらす地震発生の複雑性と、そこに潜む法則を、物理モデリングに基づく数値実験で明らかにしてきました。

一例として、並行する断層間の相互作用により、ゆっくりすべり(スロー地震)が生じるような摩擦特性を持つ断層帯でも、突発的に高速すべり(地震)が起き得ることを示唆しました。

また、富士山や伊豆半島など、静岡県の特徴的な表層事象の成り立ちやメカニズムを定量的に考えることも進めてきました。一例として、約10年前に起きた富士山の膨張イベントからその力源の深さを推定しました。

ここ数年は、ニューラルネットワークやクラスタリングなどのデータ科学的手法に基づいて、地球の物理を考える取り組みを始めています。情報科学と地球物理学の融合という観点から、ビッグデータに潜む未知のシグナルの検出やそれらの特性化を行います。

Chapter 02

この30年間で多数発見されている「スロー地震」の解明にも貢献したい

子どものころから、未知のことを自分なりに理解する(理解した気になる)のが好きで、いつのまにか研究者になっていました。今は、直接観察できない地下で起こっているさまざまな現象の実体を少しでも定量的に理解したいと思い、一緒に研究してくれる学生さんたちとあれこれ模索しています。

地下で起こる現象の中でも、とりわけ興味深いのは地震です。地震現象の特徴は、数十年~数千年の長大な時間スケールで蓄積された歪みが秒単位の時間スケールで解放されるダイナミックさと、mm以下から数百kmまでの幅広い空間スケールで自己相似的な振る舞いが見られる普遍性、の2点にあります。

また、地震よりもゆっくりしたスロー地震と呼ばれる現象が約30年の間に多数発見されました。不思議なことに、地震とは異なったスケール法則に従うと見られています。人類がこの現象の実体を理解するためには、膨大な観測データから情報を抽出して適切なモデル化を行う技術のアップデートがまだ必要なようです。私自身も何らかの貢献ができればと考えています。

[プロフィール写真]准教授 三井 雄太 MITSUI Yuta

准教授三井 雄太 MITSUI Yuta(地球物理学)

1983年11月生まれ。2011年京都大学大学院理学研究科博士課程修了、2011-2013年日本学術振興会特別研究員PD(北海道大学)、2013年静岡大学理学部助教、2017年静岡大学理学部講師、2021年静岡大学理学部准教授
2019年より第4期若手重点研究者、2022年より第5期若手重点研究者

主な研究業績

受賞歴:
  • 日本地震学会若手学術奨励賞(2016年)
  • EPShighlighted paper (2018年)
  • Springer-Nature, Change the world(2018年)
外部資金獲得状況:
  • 稲盛財団研究助成「スロースリップイベントの繰り返し間隔変化から探る地震の準備過程」(2015年)
  • 科学研究費補助金若手研究B「弱い断層における大きな地震の発生過程:強度の低さによる制約」(2016年~2018年)
  • 科学研究費補助金基盤研究C「1kPa以下の応力変化による地震活動の消長:グローバルからローカルまで」(2019年~2021年)
学会等:
  • 日本地球惑星科学連合代議員
  • 日本地球惑星科学連合プログラム委員
  • 日本測地学会評議員
  • 日本測地学会EPS誌運営委員
  • 日本地震学会代議員
  • 日本地震学会将来検討ワーキンググループ委員
  • 日本地震学会和文誌編集委員長(役員代議員)
著書・論文:
  • 1) Y. Mitsui, H. Muramatsu, and Y. Tanaka, Slow deformation event between large intraslab earthquakes at the Tonga Trench, Sci. Rep., 11(257), 2021.
  • 2) N. Yamaga and Y. Mitsui, Machine learning approach to characterize the postseismic deformation of the 2011 Tohoku-oki earthquake based on recurrent neural network, Geophys. Res. Lett., 46, 11886-11892, 2019.
  • 3) Y. Mitsui and K. Yamada, Possible correlation between annual gravity change and shallow background seismicity rate at subduction zone by surface load, Earth Planets Space, 69(166), 2017.
  • 4) Y. Mitsui and K. Heki, Observation of Earth’s free oscillation by dense GPS array: After the 2011 Tohoku megathrust earthquake, Sci. Rep., 2(931), 2012.
  • 5)Y. Mitsui, N. Kato, Y. Fukahata, and K. Hirahara, Megaquake cycle at the Tohoku subduction zone with thermal fluid pressurization near the surface, Earth Planet. Sci. Lett., 325-326, 21-26, 2012.

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静岡大学若手重点研究者